2014年のソニーオープン(アメリカ・マイアミ)での錦織のプレーは、快進撃と呼んでよいだろう。世界ランク21位の選手が、15位、4位、5位に勝ったのだから十分に評価できる。
4位のフェレールに勝った2日後に、5位のフェデラーにも勝利した。ともにフルセットマッチの試合だったが、錦織のプレーは2つの試合では別人のようだった。
フェレールのゲームでは恐る恐る打っていたボールを、フェデラー戦ではフルパワーで打ち込んでいたのだ。こんな世界のトップ選手でも、思い切ってボールを打てる試合と、アウト・ネットを気にしながらボールを打つ試合があるのだと思うと面白い。
それは、相手によるのか、自分の体調か、それともコートコンディションによるのか。おそらく、それらすべての組み合わせなのかもしれない。
このことは、アマチュアプレーヤーにも勇気をくれる。トッププロでもボールを100%の力で打てないことがあるのだ。アマチュアでそういうことがあっても、当たり前。言い換えると、試合で大切なことは、まずは「ボールをこわごわ打つのではなく、思い切って打つことができるように自分を調整する」ことだ。それがどうすればよいのかは、私にはよくわからないけれど。
フェデラーとの試合はゲームは競っていた(フルセットで第3セットも4-4まではタイ)にも関わらず、錦織の試合後のコメントは自信に満ちていた。それは、錦織にとってこの試合が楽しかったからに違いない。
最後のバックハンドクロスは、本当はリスキーで難しいショットだと思う。しかも、エラーすると、デュースになってしまう。しかし、錦織には躊躇は全くなかった。まさにエラーするという発想がないショットだ。
試合直後の錦織は、意外なほど落ち着いていた。むしろ、精神的苦しんだ試合のほうが勝利の喜びは大きいのだろう。抑圧されたコーラ瓶の空気が栓を抜いたときに爆発するように。試合を楽しんだ錦織は、勝利の喜びよりも自分のプレーができた幸せな感覚のほうが大きいのだろう。
ボールを強く打つことができれば、コースやコーナーを狙うこともできる。そうすれば、テニスは楽しくなる。エラーするのではないかというマイナス思考ではなく、どうやってポイントを取るかというプラス思考でプレーできる時ほど、テニスは楽しいことはない。
昨年のウィンブルドンで私は「錦織は優勝する有資格者」と書いた。今回のソニーオープンでは、「有資格者」どころか「候補者」といってよいだろう。次の試合はジョコビッチだが、フェデラー戦と同じように錦織がボールを打ち切ることができるなら、勝利するチャンスは十分にあるだろうし、それよりも、なによりも、錦織自身が試合を楽しむことができるだろう。
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