2014年12月2日火曜日

Mecir’s Tennis (258) テイクバックは肘でラケットを引く?

Mecir’s Tennis (256) テイクバックの始動は「ラケットを引き上げる」において、「テイクバックは下向きのラケットを上に引き上げる」と書きました。

これは、今まで、「テイクバックでは腕を使わずに腰の回転でラケットを引く」というのと矛盾しています。腰の回転でラケットを引くと、ラケットも当然、腰の回転に合わせて回転します。

この辺りは、本当に表現が難しいところだと思います。正解は以下の通りです。

テイクバックの最初の瞬間は、腕を使わずに体の回転で始動する。そのあと、すぐに、(腕を使って)ラケットをまっすぐ引く。ここでいう腕は、基本的には肘のこと。肘でラケットを引き上げる。

例えば、比較的似ているイワン・レンドルのフォアハンドは、右肘からラケットを引きます。これは、逆に言うと、体の回転に同期させず、最初から腕(肘)でラケットを引くイメージです。

メシールの場合は、最初は腰の回転でラケットを引きます。その直後から肘でラケットを引き上げるのです。

この微妙な配分が、手打ちでボールをヒットするのではなく、しかも縦にスイングする(体の回転方向にスイングするのではない)メシールのフォアハンド(バックハンドも)を可能にしています。

2014年12月1日月曜日

Mecir’s Tennis (257) レディーポジションでの手(グリップ)の位置

レディーポジションでは、次のことが大切です。
  • 腕に力を入れない。ひじを曲げない。だらりとたらす。(まっすぐに伸ばすのもNG)。
  • 手の位置はへそよりも下。(女の子のもじもじポーズ)
  • ラケットヘッドを相手の方向に向ける。
この「ラケットヘッドを相手に向ける」ためには、レディーポジションで両手(両手バックハンドなので両手でラケットを持つとして)を体の真ん中に起きたくなります。つまりグリップを体の中心線の上におきたくなります。

しかし、実際にへその位置(体の中心線上)に両手を置くと、ラケットヘッドはどうしても左側(11時、10時、9時)を向いてしまいます。そうすると、Mecir’s Tennis (256) テイクバックの始動は「ラケットを引き上げる」で書いたように、ラケットを前から後ろにまっすぐ引き上げることはできず、ラケットは体の回転と一緒に体の回転軸を中心に回ってしまいます。その結果、インサイドアウトスイングもしにくくなってしまいます。

実は、これはかなり深刻なことで、レディーポジションでの手の位置が、そのあとのスイングに大きく影響をしてしまうのです。薄いグリップ(イースタングリップ)はスイング軌道(スイングのベクトル)が縦方向(ウエスタングリップは体の回転方向)です。

両手でラケットを持つ際には、グリップエンドに近い側が右手になります。(右利きの場合。)それでもラケットヘッドをまっすぐ前に向けるためには、グリップの位置は体の右側に寄ります。つまり、右足の付け根辺りです。

そうすると、体の前を左手が横切り、グリップは右腰の前(右足の付け根辺り)に来るはずです。そうです、Mecir’s Tennis (255) 実践編・テイクバックのタイミング(侍は半身で構える)で説明した、侍の半身の体勢です。

これが正しい構えになります。バックハンド側にボールがきても、フォアハンド側にきても、そのままラケットを下から上に引き上げるようにテイクバックします。絶対に体の回転に合わせてラケットを回転してはいけません。


Mecir’s Tennis (256) テイクバックの始動は「ラケットを引き上げる」

テイクバックの始動をどのような言葉にするとよいか、ずっと考えていました。

テイクバックで大切なのは次の点です。
  • 腕で引かずに体の回転で引く
  • 腕に力を入れずだらんと垂らす
  • ラケットヘッドを下に向ける
このイメージに一番近い表現は「ラケットを足元から引き上げる」かなと思います。体で回転するイメージでは、どうしてもラケットヘッドが下を向かずに水平になったまま横に書いてしてしまうからです。

ラケット(ラケットヘッド)は最初は右足元にあって、下から上に引き上げるのです。この表現が一番ぴったりするように思います。これは、フォアハンドでもバックハンドでも同じです。

Mecir’s Tennis (255) 実践編・テイクバックのタイミング(侍は半身で構える)

今までは、メシールのスイングの分析をしてきました。参考にしていたのは、試合前のゲームの映像。手持ちのビデオでは、試合前のゲームから収録されているものは少なく、数少ない練習の風景から分析をしてきました。

これからは、実践編として、ゲームの映像などから分析した内容を説明したいと思います。

今回は、テイクバックのタイミングです。つまり、ボールが飛んできてどのタイミングでテイクバックをするのか。言い換えると、ステップワークとテイクバックのタイミングの関係です。
  • まずテイクバックをしてからステップワークをするのか(ラケットを引いたままステップするのは、ずいぶん体勢が辛そうなフォームです。)
  • まずステップワークをしてからテイクバックするのか(テイクバックが遅れるのではないか)
答えはそのどちらでもありません。1987年のWTCファイナルズ決勝でマッケンローと対戦した時のメシールのビデオに、それがはっきりわかる答えがありました。

まず最初に、メシールはレディーポジションではラケットを腰の下(へその下)で構えます。何度も書いている「女の子のもじもじポーズ」です。ラケットヘッドは下を向いています。また、ラケットヘッドは0時方向(ネット方向)を向いています。つまりヘッドはボールの方向・相手の方向を向くわけです。

肩をしっかりと両側に張り、腕の力を抜きます。腕をだらりと下げ、背中を丸めないようにします。背筋をしっかりと立てます。

次に、メシールは、フォアハンドでもバックハンドでも、ボールが飛んでくると、まず「刀を抜きます」。つまり、腕は動かさず、体の回転でテイクバックを始めます。(その様子は、まるで刀を抜いているかのようです。)その際、ラケットヘッドが下を向くのは、何度も書いている通りです。ただし、刀を抜いてはしまいません。刀を鞘から少し抜いた形のまま、フォアハンドまたはバックハンドにステップワークします。そして、ボールのバウンドなどのタイミングに合わせて、その体勢からテイクバックを行います。こちらは、ボールをヒットするためのメインテイクバックです。

つまり、テイクバックが2段に分かれているようなイメージです。

侍が、刀の鞘に手を置いて半身(はんみ)になり、少しだけ刀を抜いた状態で「つかつかつか」とステップする様子を頭に描いてください。まさにこんなイメージです。

もちろん、ステップワークでは背中はまっすぐに立っています。




2014年11月12日水曜日

Mecir’s Tennis (252) ラケット面を伏せるとインサイドアウトになる

コートに立ち、一人でボールをバウンドさせてネット方向にフォアハンドでボールを打つ。コートで相手がいない時に時々試すことです。

この時に、テイクバックからフォワードスイング、フォロースルーまでをラケット面を伏せ続けてみます。「フォワードスイングは親指側から」で書いた通り、親指側からスイングします。インパクト面でも本当にラケット面を伏せているとボールは数メートル先でバウンドしてしまいます。しかし、なぜか(本能か?)」ラケット面はインパクトでは地面と垂直になります。また、スイングは無意識に下から上になります。その結果、ボールは順回転でネットを超えていきます。

この際、インパクトでボールに効率的に力が伝わり(つまりスイートスポットでボールをヒットできて)、かつよい回転でボールが飛ぶにはどうすればよいか。

それは、ラケットをインサイドアウトに振ることです。ラケットを後ろから前に(つまり0時方向に)まっすぐ振ると、うまくインパクトできません。インサイドアウト(1時から2時方向)に振ることでラケット面はボールにきれいに当たります。

当然ですが、ラケット面を伏せずに地面に垂直に立てると、0時方向にスイングすることできれいにインパクトできます。ラケット面を開いてスライスで打つと、0時よりも左側(つまり11時方向)にスイングするのがボールをきれいにヒットできます。

「イースタングリップのフォアハンドはボールを後ろから前に運ぶ」というコナーズ的なフォアハンド(「フォワードスイングは親指側から」)では、つい0時方向にボールをヒットしたくなります。しかし、イースタングリップでもラケット面を伏せてボールに順回転を与えるのですから、その分だけラケットワークはインサイドアウトになるわけです。


Mecir’s Tennis (254) 背中を曲げない・上体を立てる・ボールとの距離を取る

等も書いていることですが、フォアハンドでは背中を曲げず、上体を立てます。肩をエモンカケのように回転させます。

そのためには、ボールと体の回転軸の間に距離が必要です。肩の幅+腕の長さ+ラケット分だけボールと距離を取るわけです。この、肩の幅の分の距離感覚が難しいのです。

ボールが体に近すぎた場合にはボールを打つことはできますが、遠すぎた場合にはボールを打つことができなくなります。その本能的な恐怖心が、ボールとの距離を取りにくくします。

また、背中が曲がると、ボールとの距離感がぶれます。背中をまっすぐに伸ばすと、上記の足し算で自動的に体の中心とボールの距離が決まります。背中を曲げると、その距離が一定ではなくなります。

距離を取ることは、度胸がいります。背筋を伸ばすことは、度胸が要ります。しかし、上体を立てて距離を取る勇気が必要なのです。

Mecir’s Tennis (253) フラットドライブではテイクバックで折った腕を伸ばしていく

フォワードスイングからインパクトにかけて、二通りの打ち方があります。回転を重視する打ち方とボールに力を与えていく打ち方です。スピン系とフラットドライブ系と言ってもよいかもしれません。

スピン系では、腕の体が一体として回転するイメージです。フラットドライブ系は、フォワードスイング開始時には体と腕が一体ですが、そのあと肩と腕は独自に動きます。今回は、このフラットドライブ系について書きます。

具体的には、右肩と上腕を前に突き出し、さらに曲がった肘を伸ばしていく感覚(脳内イメージ)です。この際、腕は完全にまっすぐに伸びるとは限りません。このさじ加減は、打ちたいボールによって決めます。ただし、テイクバックで曲がった状態よりは、必ず肘は伸びているはずです。

スピン系では体の回転がボールにパワーを与えることができますが、フラットドライブ系は体(腰)の回転とラケットスイング(肩・腕)が完全同期しない分だけ、パワーが減ります。その分、肘を伸ばすことでパワーを与えることになります。肘が伸びていくことで、フォロースルーも大きくなります。

スイング全体が大きくなるので、腕の力を抜いてしっかりとボールを捉え、大きくフォローすることを忘れてはなりません。

2014年11月9日日曜日

Mecir’s Tennis (251) フォワードスイングは親指側から

以前、「ラケット面はいつからいつまでボールに垂直になるか?」で、イースタングリップのフォワードスイングでのラケット面の動きについて書きました。

これによると、イースタングリップのフラット系では(でも)、ラケット面は伏せてスイングされます。インパクトの時は(無意識に)ちゃんとラケット面が垂直のボールに当たります。

これをテイクバックに焼き直して考えると、テイクバックでもラケット面は伏せられることになります。(”行き”と”帰り”でラケット面は同じ方がスイングは安定します。)

つまり、イースタングリップでは、ラケットを引くときも振るときも、ラケット面は実は下を向いています。これは、実は(ウエスタングリップでは考えられない)意外なことを示しています。それは、テイクバックでは小指側から引き、フォワードスイングは親指側からスイングしていく、ということです。これはごく自然なことです。

このことは、図に示すまでもなく当然です。薄いグリップでラケットを伏せた状態でラケットを引いたり振ったりすれば、その方向は当然小指側、親指側と入れ替わるはずです。

画像が不鮮明で少しわかりにくいですが、Youbuteの動画像で確認してみて下さい。鮮明なフェデラーのフォアハンド映像でもフォワードスイングは親指側からです。

また、下はトミー・ハースのフォアハンドです。この場合も、1枚目や2枚目で、右手親指側が前に出てスイングしていることがわかります。(決して、真後ろからボールを押しているのではありません。)

イースタングリップの場合、上の「誤った脳内イメージ」を、マッケンローやコナーズのスイングで植えつけられてしまった往年のアマチュアプレーヤーは多いと思います。
コナーズの場合、テイクバックでラケット面が立っており、伏せられていません。フォワードスイングではラケット面が立ったまま、ボール飛球方向とラケット面が垂直な状態でフォワードスイングが行われます。そのため、コナーズはフォワードスイングの間手首をロックしてしまい、腕と体の回転だけでボールを打つという特殊な打法を使っていました。

2014年11月6日木曜日

『目標の設定』についての考察

今回の記事は、あくまで私の私見である。インターネット等の報道または記事を見ての印象であるため、事実とは異なっているのかもしれない。その点をご了解いただきたい。

少し前に、錦織がトップ10に入った時だか、2014年の全米オープンで決勝に進んだ時だったか、いずれにしても飛躍的な活躍をしたときに、解説の杉山愛さんがこんなことを言っていた。

「錦織君のすごいのは、目標設定を世界のトップにおいていることだと思います。私は目標をトップ10入りにしていたから、実際にトップ10に入った後も1位を目指すという発想になれなかった。最初からトップを目指しておくべきでした。それが錦織君と私の違いだと思います。」

何かを引用しているわけではないのでうろ覚えで書いているが、発言の趣旨はおおむねこんな感じだったと思う。

その時に、こんな風に思った。「ああ、彼女がトップに立てなかったのは、目標を1位に置かなかったからではない。こういう(恥ずかしい)発言をする意識だからだ。こんな考えでトップに立てるはずはない」と。

これは、かなり辛辣な意見かもしれないが、本当にそう思った。私は不思議だったのだ。

どうして杉山さんは、こう言わないのだろうか。『錦織君は1位を目指してここまで来たが、まだ道半ばだ。これからが楽しみです。私は10位以内を目指してそれを達成できたので、十分に達成感を感じています。』

トップ10を目指すのであればそのようなアプローチがある。トップ1を目指すのであれば、また別のアプローチがある。例えば、トップ1を目指すということは、何か別のものを失うことかもしれない。例えば、今の錦織が、小さい体を使って体力のギリギリのところで戦っていることは私でもわかる。もしかしたら、錦織は目標達成と引き換えに肉体の機能の一部を失う(たとえばけがなどで)かもしれないのだ。

トップ1になるために犠牲を払っても、トップ1になれるとは限らない。自分のすべてを賭けて目指しても報われない絶望感の可能性を恐れずに挑戦する者だけが、トップ1になる資格を持っている。

100位に入れるのだから50位を目指す。50位に入れるのだから10位を目指す。10位に入れるのだから1位を目指す。そういう甘い考えの者は絶対にトップに立てない。1位になる代償を払う覚悟が最初からなければ、決してトップには立てない。

トップ1を目指すことは立派で、トップ10を目指すのは格好が悪いわけではない。大切なのは、自分が何を大切にするかだ。何に高いプライオリティーを置くかだ。

結果がすべてのプロスポーツの世界において、こんな基本的なことを理解していない杉山さんではないはずだ。あまりにがっかりしたので、思わずこういう記事を書いてしまった。


2014年11月4日火曜日

Mecir’s Tennis (250) フォアハンドでは右脇を締めてはいけない(2)

フォアハンドで右脇(わき)を締めてはいけない(1)で、メシールのフォアハンドでは、テイクバックで右脇を締めてはいけないということを書きました。その理由について、別の角度から考察してみたいと思います。

まずは、錦織のフォアハンドテイクバックを見てください。
見事なまでに(?)右脇が締まっています。その結果、ラケットヘッドは6時方向を超えて7時または8時方向を向いています。

これは、ウエスタングリップ(とくに錦織のようなヘビーウェスタン)ではこれでよいのですが、イースタングリップでは「テイクバックでラケット面が開く」というもっとも避けなくてはならないテイクバックになってしまいます。

下の写真は、フェデラーのフォアハンドテイクバックです。イースタンに近いフェデラーの場合には、テイクバックでラケットヘッドは5時方向(6時よりも早い時間帯の方向)を向いています。つまりラケットヘッドは真後ろよりも体の前側を向いているわけです。


ここで重要なのは、フェデラーの場合には右脇が締まっていないということです。錦織のように「右腕を折りたたんでいる」というイメージはありません。(もちろん、だからと言って、右脇を完全に開いてしまっているというわけでもありませんが。)
  • ウエスタングリップではテイクバックで右脇が締まりラケットヘッドは6時よりも遅い方向を向く
  • イースタングリップではテイクバックで右脇が締まらずラケットヘッドは6時よりも早い方向を向く
その理由は何でしょうか。絵や図にすると難しいので、実際に自分の体で試してみたら簡単にわかります。

自分の正面方向を3時とします。(フォアハンドの場合は、ネットと並行方向が3時、ネット方向が0時です。)

右脇を締めると右手は「開く」状態になり、右手を後ろに引くと前腕は3時から6時の間の方向を向くことができます。一方、右脇を開いて、三角巾をつるした状態にしてみてください。別の言い方をすると、右脇をやや開いて、右ひじをネットと反対方向に突き出します。すると、右手は自然に0時か1時方向を向きます。無理をすれば2時、3時…と開いていくことはできますが、腕に負担がかかりますので、自然に0時から1時方向になるわけです。
錦織のテイクバックとフェデラーのテイクバックを、再度比較してみてください。右脇の締まりとラケットのヘッド方向が全く異なることがわかります。

2014年10月5日日曜日

2014年ジャパンオープン男子決勝 ラオニッチvs錦織

錦織がまたジャパンオープンで優勝した。ATPワールドツアー500大会とはいえ、錦織は第4シードだった。しかし、第1シート(バブリンカ)と第2シード(フェレール)はツアー500大会であるにもかかわらず、あっさりと早いラウンドで敗退した。その意味では、第4シードの錦織も、第3シードのラオニッチも、運がよかったといえる。つまり、錦織にしても、ラオニッチにしても、この結果であまり浮かれているわけにはいかない。もちろん、着実に決勝まで来た底力は評価されるべきだし、錦織の優勝の価値は何ら薄れるものではない。

さて、最近の錦織のプレーをテニスで見ていて、いくつか気が付いたことがある。もしかしたら、もう誰もが気付いていることかもしれないし、きちんと分析もされていることかもしれないが。

一つは、錦織のグランドストロークのバックハンドとフォアハンドの比率だ。錦織のベースラインでのグランドストローのフォアハンドとバックハンドの比率は、他のプレーヤと比較してバックハンドの比率が高いのではないかと思う。(きちんと調べたわけではない。)つまり、錦織はそれだけ「フォアハンドに回り込まない」のだ。この決勝戦を見ている限り、錦織がフォアハンドに回り込むのは、ウイナーかそれに準ずるボールをヒットするときだけに見える。

最近のテニスでは、全ストロークの70%以上がフォアハンドに偏っているとどこかにあった。たとえばフェデラーなどは、特にフォアハンドへの回り込みが目立つ。私にはその理由がよくわからない。フォアを軸にすることで、よりテニスを簡単にするということだろうか。それとも、単純にフォアハンドの方がバックハンドよりもボールをヒットできる(またはボールをコントロールできる)からだろうか。それは本当だろうか。

回り込む時間的なロス、そのあとオープンコートをカバーするロスやリスクを考えても、フォアに回り込む方が有利だとは正直なところ思えない。そして、錦織はそのことを証明してくれているような気がする。この点を、だれか専門家がきちんと検証してほしい。

もう一つは、錦織の配球についてだ。錦織が打ったボールの後を見ると、そのほとんど(たしか80%以上)がどちらかのサイドでバウンドしている。つまり、「錦織はセンターにボールを打たない」のだ。これは驚きだ。

確かに、2014年の全仏オープンでのナダルとの戦いで、このことは感じていた。しかし、明確に統計(Statistics)で見せられると、ううむと納得させられてしまう。

センターセオリーという言葉は錦織にはない。なぜなら、どんな球が来てもどちらのサイドにもボールを打つことができる技術があるからだ。そうなると、センターにボールを打つ理由はない。コーナーにボールを配給するのが不利な理由(センタセオリーの理由)は、コーナーからだと相手の方がコースを選択できる(ストレート、クロス、逆クロスなどから選択できる)からなのだが、相手がその選択ができない側にボールを何時も打てばよい。そうすると、錦織は断然有利になる。

これはすごい技術だ。相手が格下であればそういうこともあるかもしれない。しかし、相手が高いレベルの場合でも、つまり相手のボールが厳しい場合であっても、ボールをどちらにでも打ち分けれるのがすごい。

おそらく錦織の相手は、「攻めに攻められた」感じになるだろう。肉体的にも精神的にも、疲れ切ると思う。こうなると、錦織と対戦する際に、「相手(錦織)が小柄でパワーに欠けるから有利」などということはなくなる。むしろ、ボールスピードが速くても攻めのパターンがわかりやすい相手の方が、よっぽど楽だと思うようになるだろう。

実は、この2点は、メシールのテニスととてもよく似ている。ただし、メシールはほぼ100%、フォアハンドに回り込むことがなかった。メシールから見れば、錦織ですらフォアハンドに回り込みすぎなぐらいだ。ただし、このこと(1980年代後半)のテニスプレーヤーは、あまりフォアハンドに回り込まなかった。ベッカーやマイケル・チャンの登場が、その常識を覆した。

一方で、メシールは、錦織よりは高い割合でセンターにもボールを打った。メシールの場合は、むしろ、相手が攻めきたところを逆襲するタイプのグランドストロークだった。相手がコースを狙ってくるところからメシールの戦略はスタートする。したがって、相手がコーナーを狙ってこない場合には、メシールはあえて自分からは攻めないことが多かった。この辺りは、錦織と違う。錦織は、どのボールの場合も攻める。守るというのは、よほど相手に追い込まれた場合だけだ。これが、体格で不利な錦織の選択した戦略なのだろう。

いずれにしても、高い技術があると、テニスの戦略性は上がり、見ているものは楽しくなる。何度も書くが、錦織が日本人だからそのテニスが楽しいのではない。

2014年全米オープン男子決勝予想 リアルワールドとサイバーワールドの戦い

2014年10月3日金曜日

Mecir’s Tennis (249) ツボは一つだがスイングは一つではない

唐突ですが、まずフォロースルーについてです。スイングの中で腕に力が入るのは、フォロースルーです。ボールインパクト後に力を入れるイメージです。インパクト前に腕に力を入れると、スイングがぶれます。薄いグリップの場合はなおさらです。

さて、フォロースルーで力が入るのですが、そのために必要なことは何でしょうか。それは、打点(インパクトポイント)を一つにすることです。いつも同じ打点でボールを打つのです。それにより、インパクト後に腕に力を入れやすくなります。いつも同じ点でボールをヒットするのですから、そこから力を入れるということを体に覚えさせればよいからです。

打点の選択は重要です。力が入る点を、打点として選択せねばなりません。グリップやスイングによって、力が入る場所は違います。つまり、人によって、力が入るインパクトポイントが異なります。この点を見つけることは、自分のテニスを築き上げるためには必要なプロセスです。

ちなみに、メシールのフォアハンドでは力が入る打点は、右足付け根の前です。さらに正確に言うと、右足付け根の内側のあたりです。

この点をベストインパクトポイントと呼ぶことにします。

ベストインパクトポイントはボールに力が伝わりやすいだけではなく、同時にボールを強くヒットできる点だということもあります。これは、逆にベストインパクトポイント以外でボールをヒットすることを考えればわかりやすいと思います。力が入りにくい打点でボールをヒットすると、無理に力を伝えようとするとスイングがぶれてボールの軌道が狂います。逆にベストインパクトポイントでスイングに力を入れないとパワーがあるボールが飛ばないことになります。


さて、インパクトポイントが決まると、次はフォアワードスイングです。フォワードスイングでは、腕に力は入りません。そのことを前提として、フォワードスイングをどう考えればよいかについて説明します。

どんなボールが来ても、同じ打点でボールを打ちます。しかし、同じ打点でも、ボールのスピードや質は異なります。例えば、遅いボールも速いボールもあります。

同じフォワードスイングで異なるスピードのボールに対応することはできません。速いボールには小さなテイクバック、遅いボールには大きなテイクバックが必要です。(ただし、腕に力入れません。)

小さなテイクバックから大きなテイクバックの順序で説明します。

まず、一番小さなテイクバック&フォワードスイングはは手首だけを使います。手首だけでテイクバックし、手首だけでフォワードスイングすることで、ラケットだけが動きます。前腕と上腕は固定されています。(とはいえ、そういうケースはブロックでボールをリターンする場合など、限られた場合だけです。)

次に小さなテイクバックは手首以外に肘を使います。つまり、ラケットと前腕を使います。別の言い方をすると、上腕は固定したままテイクバックし、フォワードスイングしてボールを打ちます。ただし、体は回転しますので、上腕が全く動かないわけではなく、上腕は体の回転と一緒に回るということです。これは、相手のボールの速度が一定以上の場合には有効です。

次は、ラケット、前腕、上腕を使うテイクバック&フォワードスイングです。言い換えると、手首、肘、、肩を使います。これは、相手のボールが遅い場合です。相手のボールにパワーがないので、テイクバックとフォワードスイングでそのパワーを補うわけです。ただし、腕に力を入れるわけではありません。あくまで、手首、肘、肩を腕に力を入れずに使います。腕に力を入れるのは、あくまでフォロースルーの時です。

さて、インパクト点を固定すると書きましたが、実際には打点はバラバラです。いつも、ベストインパクトポイントでボールをヒットできるわけではありません。

では、どうすればよいか。答えは「あきらめる」ということです。つまり、打点がベストインパクトポイントからずれた場合には、その分だけスイングパワーがボールに伝わらないことになります。それは仕方がないのです。ベストインパクトポイントではないのですから。

ベストインパクトポイントでボールをヒットできない場合に、パワーを補うために腕に力を入れてはいけません。スイング軌道が微妙にずれて、ボールが安定しなくなります。あくまで、腕に力を入れるのは、フォロースルーです。

当然ですが、ベストインパクトポイントからの打点のずれが大きければ大きいほど、ボールのパワーがなくなります。実際のゲームでは、相手は、できるだけベストインパクトポイントから離れた打点でボールを打たせようとします。高い球、低い球、スピンの効いた球、スライスの効いた球、大きくバウンドする球…。

その中で、少しでもベストインパクトポイントに近いところでボールを打つことが、技術の高さ、勝負の強さになるわけです。ゲームの醍醐味といってもよいでしょう。

背筋を伸ばし、上体を立てて、肩の回転でボールを打つ。このフォームは、打点を固定させるために必要です。上体を常に一定に保ち、その結果として打点を一定に保ってボールを打つことが基本です。そこから打点がずれる場合でも、上体を倒したり、肩を傾けてはなりません。




2014年9月21日日曜日

李娜の引退 「残念なことは何一つない」

どういうわけか、日本のメディアに記事が流れていない(または私が見逃しているだけかも)のだが、李娜が引退の記者会見を行った。(記事はこちら。)引退の理由は、モチベーションやメンタルなことではなく、膝のけがが理由のようだ。すでに、今年、ウインブルドン以来大会に出場できておらず、3度も大会を棄権している。年齢を考えると、復帰するのは難しいと判断した。

李娜は、2011年全仏オープンと2014年全豪オープンの2度、グランドスラムの勝者となった。2015年の全豪オープン女子は、前年度の優勝者不在で開催されることになる。

「32歳の今、自分のキャリアには十分に満足している。」「引退を決意する前に、何度も自分に問いただした。『後悔するのではないのか』と。でも、答えはNOだった。今引退を決意するのが一番だと思った。」「引退を決意するのはグランドスラムで戦うよりもつらい決断だったが、もう体が言うことを聞かないことを考えると、これが正しい選択だと思う。」「今後は、中国の若手のテニスの指導者になりたい。」


上のWebサイトには、李娜をtrailblazerという言葉で表している。trailblazerとは、「先駆者」という意味だ。アジア初のグランドスラマーとして、まさに彼女は先駆者であったと言ってよいだろう。

記事を読む限り、いつもの李娜の軽妙洒脱な会見ではなかったようだ。(当日の映像はこちら)。今回の会見は、北京で中国語で行われた国内向けの会見だったので、「真面目に」引退の理由を述べる必要があったということかもしれない。

もちろんそれだけが理由ではないだろう。それだけ、彼女の心は揺れており、苦渋の決断だったのだと思う。李娜がこれからどのような指導者になり、中国女子テニスがどのように素晴らしい選手を生み出していくのか、李娜の第2のテニス人生が楽しみだ。

2011年全仏オープン決勝で、李娜のプレーを始めてみて書いたブログは、今でもこのブログの中で最もよい記事だと思っている。是非、読んでいただきたい。
李娜(Na Li)の全仏オープン2011決勝



2014年9月17日水曜日

NHKクローズアップ現代 錦織圭 世界の頂点への戦い(2014年9月11日放送)

2014年9月11日に放送されたNHKクローズアップ現代「錦織圭 世界の頂点への戦い」を観た。錦織をこれまで見てきたテニスファンであればおおむね知っている内容で、特に目新しい話題はなかった。なぜ、小柄な錦織がここまで頂点に近づくことができたのかを教えてくれる内容ではなかった。

NHKの番組を見るといつも思うのが、映像や資料の収集能力の高さだ。よく、こんな映像を持っているな、見つけてきたなと思う映像が出てくる。とてつもないデータアーカイブと人脈、調査の応力ががあるのだろうなと思う。

日本の男子テニスが海外の選手と比べてパワーで圧倒的に不利だという冒頭の映像は、セイコー・スーパーカップでの(おそらく)アジェノールと松岡修造の映像だと思う。よくそんな映像が出てきたものだ。(確かに、当時の日本男子選手はトップクラスの選手と対戦する機会すらあまり多くなかった(今でも錦織を除いたらそうだが)から、映像もあまりないのだろう。

それだけの話なのだが、私もっと、なぜ錦織が13歳という若さでアメリカにチャレンジしたのかを知りたかった。松岡修造は、「圭は特別だった。普通の13歳であればその若さでアメリカに行くことには賛成しない」とコメントをしている。私は、これからの時代は、若いうちから海外にチャレンジすることが当たり前になってくる時代が来ると思っている。テニスに限らず、だ。

Mecir’s Tennis (248) フォアハンドでは右脇を締めてはいけない(1)

Mecir's Tennis (226) 柔らかいスイングとは?(その1) ~前腕と上腕は同期しないにおいて、前腕は上腕に遅れて出てくるということを書きました。また、上腕は右肩と一緒に回転すると書きました。今回は、この上腕について書いてみようと思います。

フォワードスイングで右肩と同期して回転する上腕ですが、インパクト後にどうなるでしょうか。これはとても大切なポイントで、インパクト後に上腕は右肩を追い越して前に突き出されます。


この連続写真で、インパクト前とインパクトの比較をすると、右肩と上腕が同期しながらインパクトではやや上腕が前に出ていることがわかります。さらに、下のフォロースルーでは右肩よりも上腕が前に出ています。(さらに前腕が前に出ていきます。)


どうすれば、このようなスイングができるでしょうか。重要なポイントは、右肩と右ひじです。右肩は肩と上腕の蝶番(ちょうつがい)であり、右ひじは上腕と前腕の蝶番です。この2つの蝶番が、右肩⇒右ひじの順番で機能することが必要となります。

これは、言い換えると、右肩が蝶番として働く必要があります。そのポイントは、フォアハンドのフォワードスイングでは右わきを締めてはいけない、ということです。もし、右わきを締めてしまうと、右肩と上腕の同期は保証されますが、そのあと右肩の蝶番機能が働かなくなるからです。

右わきを締めないために有効なのは右ひじを体に近づけすぎないことです。右ひじを体から少し離れた位置に置くのです。それによって、フォワードスイング(またはインパクト直前)において右ひじが右肩を追い抜いていくことができます。つまり上腕が右肩を追い越すことができるのです。脇を締めていると、これができません。上の写真のように上腕を前に突き出すことができないのです。

フォロースルーが小さいなと思ったら、右わきが締まっていないかをチェックすればよいと思います。または、右ひじが体から離れているかをチェックしてもよいでしょう。

2014年9月9日火曜日

2014年全米オープン男子決勝 錦織vsチリッチ(ゲームボーイになれなかった錦織)

火曜日の早朝6時からの決勝戦。目覚まし時計をかけてWOWOWで観戦したのだが、第1セットの最初の2ゲームぐらいで眠気に勝てずに寝てしまった。どこか、きっと錦織は優勝するだろうと思って…。

だが、目が覚めた時に優勝していたのはチリッチだった。しかも、6-3、6-3、6-3というほとんどワンサイドゲームのストレート勝ちだった。グランドスラムの決勝戦としても、スコアから見る限り凡戦と言わざるを得ない。なんというあっさりとしたゲームだ。(チキンラーメンでももう少しはこってりとしている・・・。)

錦織に何が起こったのだろうと思った。この大会でトップ5を3タテにした快進撃を見る限り、こんなスコアで敗北する錦織ではないはずだ。

帰宅してビデオを観て、またメディアの報道を読んで、分かった。明らかに錦織のプレーは準決勝までとは違った。驚いたことに、錦織は緊張していたのだ。一番の敗因はプレッシャーだった。チリッチに負けたというよりも、自分に負けたのだった。

試合前には、もしチリッチが勝つとしたらそれは信じられないほどのサービスエースが決まって圧倒されるときだけだろうと思っていた。そう予想した人は多いだろう。ボリス・ベッカーがケビン・カレンにサービスエースの雨を降らせて優勝した1985年のウィンブルドン決勝のように。

しかしそうではなかった。チリッチは確かにサービスエースを取っていたが、なんと錦織は、グランドストロークの打ち合いで負けたのだった。つまり、自分が最も得意なフィールドで錦織は負けた。

普段の錦織は、ショットを打つとき、次のショット、その次のショットと可能性をすべて想定して組み立てを作りながらプレーするように見える。だから相手がどんなボールを打ってきても驚かないし、逆に準備万端の錦織が繰り出す想定外のボールに相手は戸惑う。しかし、この決勝戦の錦織は違った。チリッチのボールは、予想しやすい、想定しやすいボールなのに、錦織は簡単にミスをしてしまう。組み立てて相手の裏をかき、一本で形成を逆手にする錦織の戦略は、この日に限ってはその場のインスピレーションだけでボールを打っている。だから、時にはエースを取ったとしても、それは単発でしかない。

決勝戦を観て確信しているが、再度、別の場所でチリッチと錦織が戦ったら、まず、錦織は勝つだろう。チリッチのグランドストロークは、本来は錦織にとってむしろ組みやすいタイプと言ってもよい。エースを取ることもあるが、基本的にはイマジネーションに乏しいスピードが速いだけのストロークだからだ。

この結果には、マイケル・チャンもがっかりしたことだろう。敗北するのはスポーツである以上、覚悟はしているだろう。しかし、内容が悪すぎる。これでは、コーチングの成果も効果もほとんど感じることはできなかっただろう。敗戦後のチャンコーチの平凡なコメントは、実はがっかりした気持ちの裏返しだったのかもしれない。

どうしてこうなったのだろうか。錦織のゲームマシンのCPUが正常に動いていないのか、プログラムにバグが混じりこんだのか。

私は、決勝予想で書いたように錦織はテレビゲーム世代として育ったゲームボーイだと思っていた。しかし違った。錦織はその他大勢の日本人と同じように、緊張したのだ。生身の人間だった。それは、どこかほっとしつつも、どこかでがっかりする事実だ。

錦織は試合後の一夜明けたインタビューで、その夜は眠れなかったとコメントしたそうだ。負けて悔しかったというよりは、決勝戦では自分が変わってしまったことを後悔していたのではないだろうか。ゲームボーイに徹することができなかった自分に。

もし、錦織がふたたびゲームボーイに戻れないのであれば、錦織のランキングは、ただただ下降の一途であろう。テレビゲームでしかありえないような非現実的な、そしてイマジネーションに満ち溢れたグランドストロークを、再び取り返してほしい。そうすれば、またいつか、グランドスラム決勝戦の場で錦織を見ることがあるはずだ。

新しいことを何も求めることはない。すべきことはただ一つ。準決勝までの戦い方を常にできればよいのだ。あの、「ゲームボーイ」の戦い方を。

⇒2014年全米オープン男子決勝予想 錦織vsチリッチ

2014年9月7日日曜日

2014年全米オープン男子決勝予想 リアルワールドとサイバーワールドの戦い

錦織とチリッチというグランドスラムでの優勝経験どころか決勝戦で戦う経験すらない二人の戦いとなる2014年の全米オープン男子決勝。知名度のあるビッグ4(ジョコビッチ、フェデラー、ナダル、マレー)が一人も決勝に残らず、日本とクロアチアというテニスではそれほどなじみのない国から来た、しかも2桁ランカー同士の決勝戦は、正直なところアメリカのテニスファンの間ではそれほど盛り上がらないだろう。アメリカのスポーツメディアはなんとか盛り上げようとするだろうから、日本メディアはそれを取り上げて、盛り上がっているかのように伝えるだろうが。

実際にアメリカが盛り上がるのは、この小柄なアジア人が優勝したその後だろう。常識では、こんなに小柄でパワーにかける選手が、優勝できるわけがない。今までに見たことがない、想像もしなかったスタイルの新ヒーロー登場に対しては、アメリカという国は寛大で、そして好奇心旺盛だ。

もう5年間以上前になるが、2009年3月23日の午後、私はアメリカ・サンディエゴでの仕事を終えて、ホテルのスポーツバーで一人で飲んでいた。バーに備え付けの大型テレビには日本対韓国のWBC決勝戦が流れていた。覚えている人が多いと思うが、それまで期待を裏切り続けたイチローが、最後の最後で決定的なセンター前ヒットを打ったあの決勝戦だ。決勝戦はロスでの開催だが、予選はそのサンディエゴで行われていた。そのことを考えても、あまりにも寂しいサンディエゴのスポーツバーだった。イチローの決定的なその瞬間でさえ、テレビを見ていたのは私と韓国人観光客らしい3、4人のみ。その瞬間に思わず声を上げた私をにらみつけた数名のアメリカ人の客のことをよく覚えている。もちろんその客はテレビなど見ていなかった。単に、アジア人がいきなり奇声を上げたと私の方を見ただけなのだ。

アメリカでの盛り上がりがどうであれ、ついに日本の錦織が決勝に残った。おそらく日本のテニス界とメディアは騒然としているだろう。そして大いに盛り上がっているだろう。錦織の登場までは、いやトップ100に入り、トップ20に入り、ついには最初にトップ10に(短い間とはいえ)入った時にすら想像もできなかった日本人によるグランドスラムの決勝戦。しかも、それは、ラッキーや偶然ではない。ドロー運が良かったわけではない。錦織は、この大会でトップ10の選手を3人も追いやって、決勝のステージに上り詰めた。エキサイトしないわけがない。

決勝戦の相手であるチリッチのコメント。「(錦織との決勝は)2人にとって特別なものになる。どちらにもグランドスラムで勝つチャンスがあるということ。歴史の一部になれるということだ。」

このコメントは、ヨーロッパの中でもバルカンの火薬庫と言われた政情不安定な国の一つであるクロアチアという国のテニスプレーヤーの言葉と思うと理解しやすい。彼らにとっては、テニスは歴史なのだ。チリッチにとって全米オープンの決勝を戦い優勝者としてカップに名前を刻みこむことは、長く続くヨーロッパの歴史の中で、そしてテニスの歴史の中でプレーをするという意味なのだ。チリッチの決勝に臨む発言は、そういう意識から来ている。

以前、中国の李娜のことをブログに書いたことがある。彼女が、中国人として、アジア人として初めグランドスラム優勝の試合を見ながら書いたブログだ(李娜(Na Li)の全仏オープン2011決勝)。WOWOWの解説をされている神尾米さんにも読んでいただき、個人的にメールをいただいたことが懐かしい。(神尾さんは、このブログを読んで、優勝の翌日に行われた李娜のプレスインタビューの様子をわざわざ教えてくださったのでした。)

このブログで、私は、李娜がテニスの歴史を持たないアジア人(中国人)が歴史の重圧に打ち勝った瞬間を感じた。アジア人だからこそ分かるその重圧。それを乗り越えた李娜の偉業の意義。

錦織が優勝したら、日本人としてはもちろん、もしかしたらアジア人男子として初めてのグランドスラム優勝なのかもしれない(たぶんそうだろう)。しかし、今の錦織には2011年の全仏オープン女子決勝で李娜に感じたテニス歴史の重圧のようなものを全く感じない。テニスの歴史を持たない日本という国の出身選手がヨーロッパやアメリカのテニスの歴史に挑んでいるという印象がない。

それはなぜなのだろうか。李娜の時と今回の錦織と、何が違うのだろうか。

錦織のエピソード(3)でも書いたが、錦織が子どものころからテレビゲームが大好きで、テニスとテレビゲームを取り上げられたら自分は生きていけないとまで言ったという小学生時代のエピソードは印象的だ。テレビゲームが大好きな子どもという言葉からは、良いイメージは湧いてこない。しかし、良いとか悪いとかではなく、錦織の世代はまぎれもなくテレビゲーム世代なのだ。

それは、こういうことだと思う。「テレビゲームは錦織の体の一部であり、錦織の世界の一部である」と。錦織は、ゲームの世界に生きている。ゲームは限りなく現実(リアル)で、目の前の全米オープンという現実は錦織にとってはゲームなのである。」

錦織は、おそらく歴史を背負うという意識や重圧などはほとんど感じないのだろう。錦織にとって全米オープン決勝戦は、壮大なリアルテレビゲームの一部であり、決勝戦はついに到達した最終ステージなのだ。このステージをクリアすると、錦織は全米オープンというゲームをクリアして、ゲームを終了することができる。勝利して終了(クリア)できるのか、負けて再度(つまり来年)ゲームを再起動(リロード)して挑むのか。

そんな馬鹿なと思うかもしれない。それは考えすぎだと思うかもしれない。しかし私はそうは思わない。

サイバーな世界がリアルと混ざり合い、人生とゲームがクロスオーバーする。錦織にとってはそれが事実だ。そんなことないだろうと思うのは、生まれた時にサイバー世界が存在しなかった(私のような)古い世代の人間だ。錦織が物心ついたときにはテレビゲームは存在していた。サイバー世界が錦織の生活の一部となっていたとしても不思議はない。

考えてみてほしい。私たちには電車も飛行機も車も、あって当然なものだ。しかし、100年前の人たちは言うだろう。「君たちは電車世代だ・飛行機世代だ・車世代だ」と。電車という非現実の空間を当たり前に生きている私たちに、なぜテレビゲームの現実感を批評することができるだろうか。この感覚は、「モテキ」という映画を見た時と同じ感覚だ。この映画を見た人であればわかるだろう。デジタルはすでに我々の生活に隅々まで溶け込み、もはや自然界の一部なのかもしれない。

歴史と動乱を現実の出来事として背負うチリッチ(そして準決勝の相手であるジョコビッチも同じバルカンの小国の出身だ)。サイバーなゲームの中で動乱(いわゆる対戦型・戦闘型のロールプレイイングゲーム)をリアル体験している錦織。言い換えれば、今回の決勝戦は、国と歴史を背負ったチリッチと、サイバー世界の中で一人の戦士として戦う錦織の決勝戦でもある。

この決勝戦は、その意味でもテニスの歴史の中でターニングポイントとなる決勝戦ではないかと私は感じている。そう考えれば、180㎝にも満たない(テニスの世界では)小柄なアジア人が、全米オープン男子決勝にまで進んだ理由がわかる。テニスの神様は、時代の転換をこの若い小柄なアジア選手に託したのだ。

歴史を背負うことは、戦争により流される血を背負うことだ。リアルな戦争はもういい。もう充分だ。人と人が本当の血を流す必要ない。スポーツは、人のDNAに埋め込まれてしまった戦闘の本能の昇華・代替として発明されたという。そうであるならば、これからはバーチャルなスポーツという場でのみ、我々は戦おうじゃないか。それは、リアルな戦場とテレビゲームというバーチャルな戦場の違いだ。バーチャルな戦争は、言い換えるとそれは平和の象徴なのだ。

今、テニスの神様がそんな風に言っていると思うのは、考えすぎだろうか。大げさだろうか。しかし、それ以外に、日本の小柄な青年が130年以上の歴史を持つ全米オープンの頂点に立つ理由を受け入れることが私にはできない。

私はこの試合は錦織に勝利してほしい。それは、錦織が日本人だからでも、アジア人だからでもない。テレビゲームというバーチャルな世界が血なまぐさいリアルな世界を凌駕する瞬間が見たいからだ。私だけではない。今、世界はその瞬間を求めている。マンガ文化やゲーム文化で象徴される平和なアジアの小国から来た小柄な若者が、血なまぐさい歴史を背負って東欧からやってきた2m近い大男を倒すのだ。一見軽薄にすら見える錦織のテレビゲーム感覚の勝利こそが、テニスを通じて実現する平和の世界への第一歩なのだ。

1988年生まれのチリッチは、幼いころでおそらく記憶はないとはいえ、ユーゴスラビアから独立にするために血が流れたクロアチアで育った。1990年から1991年ごろのことだ。当時の東欧諸国にはスーパーの棚に食品が並ばないことも珍しくなかったそうだ。クロアチアから移住せざるを得なかったセルビア人は20万人とも言われている。チリッチやジョコビッチが背負っている歴史は重く悲しい。

1989年生まれの錦織は、まさにバブルの時代の中で生まれた。クロアチアが独立した1990年は、日本ではバブルの絶頂期(崩壊の直前ではあったが)だった。任天堂のゲームボーイが登場したのが、まさに錦織が生まれた1989年だ。当時の日本には戦争という言葉は全く現実感のない言葉だった。日本にも多くの在日韓国人が住んでおり、その数は30万人以上と言われている。様々な問題はあるとはいえ、彼らが全員移住せざるを得ない状況には今の日本はない。

そんな二人の決勝戦をしっかりと見届けたい。

2014年ジャパンオープン男子決勝 ラオニッチvs錦織
⇒錦織のエピソード(3)
⇒錦織のエピソード(2)
⇒錦織のエピソード(1)

錦織のエピソード(3)

錦織が子どものころ、自分からラケットとテレビゲームを取り上げるのは生きるなと言っているのと同じだ、と文句を言ったことがあるそうだ。

今、錦織とジョコビッチの全米オープン準決勝の試合中だが、解説の坂本さんが「錦織はラオニッチ、バブリンカと勝ち進んで次にジョコビッチと対戦することを、テレビゲームで画面をクリアするような感覚でエンジョイしている」と解説している。なるほど、そうかと思った。

一方で、ジョコビッチは、まじめで理詰めな性格、そして祖国の内乱を背景に「自分は勝たなければいけない」という使命感のようなものもあるとも。

どちらが正しいのではない。しかし、対照的なキャラクターといってよいだろう。この準決勝の戦いには、そんな人生や世界観の違いからくるキャラクターが背景にあり、それを考えると楽しめるのかもしれない。

⇒錦織のエピソード(2)

2014年全米オープン 男子準決勝 錦織vsジョコビッチ(1)

まだ試合途中(第1セットを錦織がとって第2セットに入ったところ)だが、すでに、錦織のテニスの技術がジョコビッチを超えたことがよくわかる。

錦織は、多くのショットで、フルショットをしている。というよりも、フルショットができる。フルショットするということは、フルパワーでボールを打つことだ。それでもボールは相手のコートに入る。というよりも、そのショットでポイントを取ることができる。

繰り返すが、フルショットだ。普通だったらボールはコート2つ分ぐらい向こうまで飛んでいきそうなフルスイングで、ボールをたたくことができる。

これまで、これだけのフルスイングができるのは、精度の高いコントロールが不要なヘビースピンによるつなぎのショットだけだった。錦織のようにコース・コーナーを狙って打ち込むのではなく、100%安全なショットとしてのヘビートップスピンの場合だ。たとえば、ヴィランデルなどがよくそういうショットを打っていた。

錦織は、全米オープンの準決勝で、世界No.1で、おそらくもっとも優勝の可能性が高いプレーヤーに対して、そのショットが打てるのだ。これができるのは、私が知っている限り、錦織以外に思い当たらない。いや、今のテニスでは、そこまでリスクのあるショットを打つプレーヤーがいない。

錦織がフルショットするのは、それがリスキーではないからだ。つまり、錦織のフォームはフルショットしても狙ったところにボールを打てるフォームだということだ。そのプレーが続く限り、このゲームが3-0で錦織が勝利してもおかしくないように思う。

錦織のエピソード(2)

グランドスラム大会でここまで来ると、普段テニスを取り上げないめでぁいまで錦織を取り上げる。その結果、本当かどうか怪しいエピソードも出てくる。

どこかのWebサイトで「トップランカーになった今でも、実家に帰ると両親と一緒に公営コートでテニスをねだる」というエピソードを見た。何とも微笑ましい、そして錦織のキャラクターが出るエピソードだ。

かなり怪しいエピソードのような気もするが、一方で、家族団らんの時でも、相手が家族であってもテニスを楽しみたいというのは、錦織のキャラクターをよく表しているように思う。家族にたっぷりとハンデをつけられて負けて悔しがる錦織の表情が何となく目に浮かぶ。


2014年9月6日土曜日

錦織のエピソード(1)

錦織のグランドスラム準決勝進出は、当然のことながらメディアを賑わしている。錦織のことをよく知っているファンにはよく知られているのかもしれないエピソードが、この時とばかりにネット上のニュースで流れてくる。

錦織の原点、松江市・グリーンテニスクラブの柏井正樹コーチ(54)は、小学生時分の思い出を懐かしんだ。「ボールコントロールは100人に1人でゲームセンスも100人に1人。2つ合わせて1万人に1人の天才だった」。

興味深いエピソードだ。錦織のボールコントロールの才能は100人に一人程度だということだ。100人といえば、そのあたりの市民大会のドローぐらいだ。つまり、このエピソードは「錦織のボールコントロールの能力はその程度だった」と言っている。

一方で、ゲームセンスも100人に一人程度の能力だったと。つまり、当時の錦織はそこまでの突出した才能を持っていたわけではないということだ。

しかし、その両方を兼ね備えるとなると、それは1万人に一人となる。そうなると、それは突出した能力だ。同時に、二つの必ずしも突出いているわけではない能力を兼ね備えることが、今度は突出した才能になるということも示唆している。

錦織の才能は、そういう総合的な能力なのだ。なんと示唆的なコメントか。


2014年9月4日木曜日

Mecir’s Tennis (247) タメを作る・ボールを落とす

錦織のグランドストロークを見ていると、往年の米国選手であるアンドレ・アガシを思い出します。アガシは、いろいろな意味で、テニスのスタンダードをひっくり返したプレーヤーでした。それは、テニスのプレースタイルだけではなく、テニスウェアやライフスタイルなどを含めて。

錦織とアガシに共通するのは、その打点の高さでしょう。二人ともそれほどの長身ではなかったこともあり、打点が高いという印象があります。高いところでボールを打つということは、逆に言うとボールを落とさないと言うことです。

高い打点とかボールを落とさないというのは、では、どういうことでしょうか。

相手から飛んでくるボールを1歩後ろで打つと、一般的には打点の高さが少し低くなります。さらに下がると、さらに低くなります。前で打つか、後ろで打つかで、打点の高さはほんの少し変わります。


この高さの違いが、別のところでは本質的な意味を持つように思います。そのことを考えてみようと思います。

私なりに考えてみたのですが、ボールを落として打つというのは、「タメを作ってボールを打つ」と言うことではないかと考えています。別の表現をすると「引きつけてボールを打つ」と言うことです。立ち位置が後ろになれば、打点は低くなりますが、ボールを打つタメが作りやすくなります。

ボールが飛んできたときに、ボールに向かっていきそのままタメなしにボールをヒットするのがアガシや錦織の打ち方です。タメなしで打つというのは、0からいきなりボールを打ちに行くようなイメージですので、高度な技術です。動きの素早さ、パワー、正確さと体のバランスなど、すべてがそろわなくてはうまく打てません。錦織はベースラインの中で高い打点でボールを打つことが多いですが、それはボールを落とさないで(タメなしで)打つ場合です。

一般に安定したストロークを打つには、タメが必要です。メシールの場合で言うと、ボールがバウンドするまでに腰を回転させ、テイクバックを終了します。これがタメになります。バウンドしたところでフォワードスイングが開始するのですが、そこからインパクトまでに十分な時間が必要です。言い換えると、この時間が短いとタメが作りにくくなります。

後ろに下がりすぎると、タメを作る時間の余裕はできますが、今度は打点が低くなってしまい、ボールを持ち上げるために、また回転をかけるために,余計な力が必要になります。高い打点よりもボールに角度をつけくい(ネットする可能性が高くなるため)というのもマイナス要素です。相手に時間的余裕を与えてしまうのもよくありません。

つまり、立つ位置が前過ぎるとタメが作りにくく、後ろ過ぎるとパワーや時間のロスが大きくなります。つまり、タメが作れる範囲でできるだけ前で打つ、と言うのが理想と言うことになります。

この、バウンド位置と打つ位置の関係(距離)は自分で作るものです。勝手に「なってしまう」ものではありません。

この距離がボールごとにばらばらになると、ストロークは安定しません。ボールによって、タメのタイミングが異なるからです。一定のタイミング、一定のタメでボールを打つには、常にこの距離を意識しておき、一定のタメでボールを打つことが肝心です。

メシールのテニスでは、ストロークでのラケットスイングは下から上になります。すなわち、打点が高すぎると、ラケットを下から上に振ることができません。したがって、そのためには、ボールがバウンドする場所から一定の距離をとる必要があります。高い打点がモダンテニスのセオリーかもしれませんが、メシールテニスではそれはタメが作れない分だけ危険なのです。

ゲームでグランドストロークが不安定になってきたら、タメを作るためのボールのバウンド位置と立ち位置の関係を確認して、ボールが落ちてくるところでインパクトできているかをチェックしてみるのも有効です。

2014年全米オープン 男子準々決勝 錦織vsバブリンカ

WOWOWでの放送が朝だったので、目が覚めてから第4セットと第5セットをテレビで観た。錦織が第5セットでマッチポイントを取った時、錦織の表情がアップになった。

なるほど、勝つ人の表情はこうなんだと思った。それは、「よし、次のポイントを取れば勝てる」というような表情ではなかった。勝つか負けるかは、結果でしかない。結果を意識するのではなく、その過程を意識している表情。自分の中で次のポイントをどうとるか、次のプレーはどうするかだけを考えている表情だった。その頭の中に「勝利」という文字は全くなかっただろう。

錦織は最初のマッチポイントをものにして、バブリンカに勝利した。これまでの対戦成績が0勝2敗と分が悪い世界第4位の第4シードに、世界11位の錦織が初めて勝利したのは、全米オープン準々決勝のセンターコートという場だった。

試合直後のインタビューでも、錦織は言った。「最終セットでは何度もブレークポイントをしのいだが、最後にいきなりこちらのブレークポイントが来た。」次のゲームを取れるか、落とすか、そんな結果を起点として考える発想であればこのコメントは出てこない。

テレビ解説者の岩渕さんも言っていたが、勝利の後の振る舞いも、この試合に勝って満足というのではなく、次の試合のことを考え始めているという振る舞いだった。勝利を喜ぶのではなく、勝利に満足しながらすでに次のゲームについて考えはじめている。そういうスタンスだった。

ラオニッチとのナイトセッションでは深夜2時を超え、バブリンカとのデイセッションではナイトセッションの時間まで食い込む時間のロングゲームゲームをとなった。4時間を超える試合をハードコート上でセンターコートで戦った後、これからますます厳しくなる準決勝、決勝を戦うには、この短い間でどこまで体が回復するかが一つのポイントになると思われる。

→2014年全米オープン男子4回戦 錦織vsラオニッチ

2014年9月3日水曜日

2014年全米オープン 男子4回戦 錦織vsラオニッチ

「まだ喜べない。上まで行かないといけないというプレッシャーもかけてやっている。勝てないという相手はいないと思うので、上を向いてやりたい」

ラオニッチに勝利した錦織のコメントだ。勝てないという相手はいない、そう思えることは素晴らしい。これは、自分の型ができたという自信からきている。

誰にもで勝てると言っているのではない。自分の型で戦うことができれば、自分の能力を100%出すことができれば、どのプレーヤーにも勝利する可能性があるという意味だ。

自分の型ができたということは、テニスプレーヤーとしてというだけではなく、どの分野においても、例えばビジネスの分野、政治の分野、芸術の分野、どんな分野よりも、世界で戦う人であれば分野に関係なく幸せなことだ。

自分の型ができること、こんなに幸せなことはない。勝ち負けも大切だが、自分の型が完成していないのに勝っても、本当はそれほど嬉しくはない。幸せなのは、自分の型で戦うその瞬間だ。自分の型が世界で通用することを実感できることだ。勝ち負けは、その結果でしかない。

日本という国の中で、世界で戦う多くの「戦士」を見てきた。その中に、どれほどの「コピー」がいたことか。世界で誰かが作った型を真似しているコピー戦士が、どれほど多く日本にいるか。それを自分の型だと言い張るのは自由だが、幸せなのかどうかを決めるのはその人自身だ。

錦織のテニスの価値は、錦織がベスト10近くにいるからではない。錦織が、世界に通用すると自覚できる自分の型を作ったからだ。そのように、自分が感じることができるからだ。そういうことができるのは、ごく限られた一握りの人だけなのだから。

錦織は、準々決勝でバブリンカと対戦するそうだ。もはや、勝ち負けではない。大切なのは、自分のオリジナルなテニスがバブリンカに通用するかを知ることだ。結果を求めるのではなく、その過程を求めてほしい。

2014年8月26日火曜日

Mecir’s Tennis (246) My edition of Mecir Warm-up Video

I have uploaded a video onto Youtube concerning with Mecir's warm-up, espacially forehand strokes.

メシール練習風景の動画像をYoutubeにアップロードしました。ご覧ください。

2014年8月19日火曜日

Mecir's Tennis (245) なぜフォアハンドテイクバックでは左肩を入れるのか?

ほとんどのテニスの教科書には、「フォアハンドのテイクバックでは左肩を開かないようにします」「左肩を入れます」と書かれています。


それは正しいのですが、どこにも、なぜ左肩を入れなくてはならないのかが書いてありません。多くのプレーヤーは、ただ経験的にそれがうまくいくからという理由で左肩を入れています。

そして、私のような未熟(で頭でっかちの)プレーヤーは、その理解ができないためにいつまでもテイクバックで左肩を入れることが出来ていません。

では、なぜ、左肩を入れるのでしょうか。答えは、実は「左肩を入れるというのは正しくない」です。「フォアハンドのテイクバックでは左肩を開かないようにします」というのは正しい。ただし、「フォアハンドのテイクバックでは左肩を入れます」というのは正しくないのです。

試しに、フォアハンドテイクバックで左肩を入れて、左手をそのまま胸につけてください。(左手は、ちょうど右の胸の前辺りに来るはずです。)そのスタイルでフォアハンドストロークでボールをヒットしてみてください。ボールを打つことは出来ますが、スイングは不安定になり、また力強く安定したボールを打つことは出来ません。

つまり、「左肩を入れる」だけではだめなのです。「左肩を入れて、さらに左手を前に出す」のです。これが正しいテイクバックです。

では、「左肩を入れて左手を前に出していればよい」のでしょうか。それでもだめです。その理由は、なぜ左手を前に出すかを考えれば分かります。

Mecir's Tennis (198) フォアハンドは阿波踊りで、右腕と左腕が同期するフォアハンドの打ち方を説明しました。また、メシールのテニス(80) えもんかけとフォアハンドでは、両肩をえもんかけ(ハンガー)のように使って肩の回転でフォワードスイングをする(腕の力ではない!)ことを説明しました。下の写真をよく見てください。確かに、両腕がきれいに並行になった状態で(腰と)肩を回転しています。


この二つを考えると、テイクバックでするべきスタイルは明らかです。両肩から「前に習え」の形で両腕を伸ばして、そのまま肩の回転(そのまえに腰が回転しますが)で体を回転させるのです。ラジオ体操第1にそういう体操があります。イメージをつかむために、見てみてください。

こんな変なポーズでボールが打てるのかと思うかもしれません。もちろん、実際には、まったくラジオ体操のままではないですが、テニスのフォアハンドの基本はこのスタイルです。


両腕を肩の前にまっすぐ出してそのまま肩を回転させるのは、両手がばらばらに動いて方を回転させるよりもスムーズで安定します。メシールのフォアハンドやフェデラーのフォアハンドが無駄なくきれいに見えるのは、それが理由です。ジョコビッチは厚いグリップですが、それでも理にかなったフォアハンドのスイングになっています。たとえば、このジョコビッチのグランドストロークの練習を見てください。よく見ると、確かにラジオ体操と同じフォームです。



それは当然です。これが、一番安定してボールを打つことが出来るフォームだからです。

両手打ちのバックハンドがフォアハンドよりも安定しやすい理由のひとつもこれです。両手打ちバックハンドでは自然に(勝手に)両肩に対して両腕が前に出て、そのまま肩が回転するからです。

2014年8月18日月曜日

Mecir's Tennis (244) フォアハンドテイクバックで作るループ(4)

メシールのフォアハンドは、かつてレンドルのフォアハンドと比較されることがありました。ともに、チェコスロバキアのプレーヤーだったことも理由かもしれません。

もう一つの理由は、(プロセスは違うものの)テイクバックで右肘が後ろに突き出ているため、テイクバックの写真では似ているたことがあるかもしれません。

しかし、レンドルとメシールのフォアハンドは、実はかなり違います。レンドルのフォアハンドを見てください。実は、レンドルはテイクバックであまりループをしていません。レンドルはメシールのようにテイクバックからのラケット軌道によりスピンをかけません。ラケット軌道を一定にして、手首でボールを擦りあげることでボールに強い順回転をかけています。これは、レンドルが厚めのグリップであることが理由です。

メシールは、むしろスイングの中でスピンをかけるので、スイングそのものが重要です。言い換えると、ラケットの軌道が重要です。そのため、スピン系のボールを打つためにはテイクバックでのループが必須となるわけです。

Mecir's Tennis (243) フォアハンドテイクバックで作るループ(3)

テニスをする者であれば、誰もが必ず一度は言われたことがあるはずです。「テイクバックが遅い、もっと早くラケットを引きなさい。」

そのこと自身はもちろん間違いではありません。というか、大切なことです。メシールは、特にテイクバックの早いプレーヤーでした。

テイクバックを早くせねばならないと思いつつそれが難しい理由の一つは、タイミングの問題だと思います。例えば、相手のボールが極めて遅い場合に、極めて早くテイクバックするとどうなるでしょうか。当然ながら、テイクバックが完了した状態を維持することになります。フォワードスイングとテイクバックは完全に分断され、フォワードスイングは0から力を入れることになります。

相手の急速が一定ではない場合(そして、上級者の多くは、様々なボールを打ち分けてきます)には、ボールごとに固定したテイクバック完了の長さが異なってきます。これでは、安定したタイミングでのボールヒットは容易ではありません。

そこで、テイクバックのループスイングです。テイクバック完了の「待ち」が入る場合には、テイクバックルにループを入れます。相手のボールが速くて「待ち」が入らない場合には、ループなしで引いたタイミングで今度はフォワードスイングに切り替えます。

つまり、テイクバックにループスイングを入れることで、相手のボールに合わせてスイングの「タメ」を作ることができるわけです。スピンボールを打ちやすいだけではなく、タメを作ることができるのがテイクバックでのループスイングのメリットです。

Mecir's Tennis (242) フォアハンドテイクバックで作るループ(2)

フォアハンドテイクバックで作るループ(1)で、メシールのような薄いグリップでもテイクバックでループを作ることがあることを書きました。ただし、いつもループを作るわけではなく、使い分けるということです。

また、腰より高いボールの打ち方(テイクバックでの上腕の使い方)では、腰よりも低いボールではもちろん、高いボールでもラケットは下から上に振り上げる(そのためにはどんな場合でも上腕が下を向くイメージ)ことを書きました。

では、ループの場所(高さ)は、腰よりも低いボールや腰よりも高いボールで、どのように変わるでしょうか。答えは、ループの高さはいつも同じ、です。そして、ループの高さはいつも腰の高さ、です。

なぜでしょうか。なぜ、ループの高さはいつも同じでしょうか。

まず、腰よりも高いボールです。腰よりも高いボールの場合、腰より高いボールの打ち方(テイクバックでの上腕の使い方)で書いた通り、スイングは下から上です。つまり、腰の高さでループを作ればそのまま下から上のスイングになるわけです。

腰から下の場合には、そのままラケットは下に降りていきます。つまり、上腕が下を向いていきます。上腕を下げる+三角巾=インサイドアウトで述べたとおり、腰よりも低いボールでは(も)上腕は下を向きます。上腕が下を向いた状態でフォワードスイングします。そのためには、腰の位置でループするのが都合がよいのです。

右肘の位置を固定してテイクバックでループするには、安定した右ひじの位置が望ましいのですが、最も安定するのは右腰の前です。スイングで一番力が入る場所でもあります。

気を付けることは、メシールのテニス(87)Mecir's Tennis (145)で書いた通り、テイクバックの過程ではラケットヘッドは下を向いていることです。ループするのはその後です。ループ中には上腕が上を向くことは許されます。(というよりも、そうしないとループできません。)

最後に気を付ける点は、テイクバックのループと上腕を下げることは連動するということです。試してみればわかりますが、ループ開始時に上腕が上を向いているとテイクバックで右ひじを固定してループを作ることはできません。

Mecir's Tennis (241) フォアハンドテイクバックで作るループ(1)

フラット系のグランドストロークでは、ラケットをまっすぐ引いてまっすぐ振り出すイメージがあります。実際、コナーズの厚いグリップでのフラットフォアハンドはこのタイプです。このタイプのスイングは、単調な(しかもスピードが速い)ボールには有効ですが、緩急を混ぜられた時に不利です。また、スピンポールに弱い(自分もスピンボールが打ちづらい)という弱点があります。

もちろん、厚い当たりが打ちやすい、コースが狙いやすいなどの利点もありますが、マイナスの方が多い打ち方でしょう。

薄いフォアハンドグリップでも、ループスイングは可能です。というよりも、ループスイングをするべきです。それによって、スピン系のボールを打つことができ、また相手の緩急をつけたスピン系のボールに対応することも可能です。

相手のボールが速い時にはテイクバックでループを作る必要はありません。まっすぐに引いて、まっすぐに振りだします。(動画像はこちら。)
逆に、相手のボールが速くない場合や、時間的余裕があってスピンボールを打ちたい場合には、テイクバックでループを作ります。(動画像はこちら。)

テイクバックループでは、右肘の位置は固定されています。ラケットだけがループします。


2014年8月17日日曜日

Mecir's Tennis (240) 腰より高いボールの打ち方(テイクバックでの上腕の使い方)

メシールのフォアハンドではフォワードスイングにおいて上腕は必ず水平よりも下に向けるということを書きました。これは、腰より低い場合には簡単ですが、では腰より高いボールではどうでしょうか。腰よりも高いボールのテイクバックで、どのように上腕を下げればよいでしょうか。

ここで大切なことは、腰より上のボールであっても、(腰より低いボールと同様に)下から上に振り上げるということです。「ラケットスイングは下から上」のイメージは、ボールの高さに関係なく同じです。

腕の構造上、腰より高い球で上腕を下に向けることはできません。ただし、この、「スイングは下から上に」を意識することで、脳内イメージにおいて(構造的にはあり得ないのですが)上腕を下に向けることはできます。つまり、脳内イメージでは上腕を下に向けることで、ラケットスイングは下から上に振り上げやすくなるのです。

実際には、上腕はほぼ水平になるはずです。つまり、この場合でも、フォワードスイングにおいて上腕を上に向けてはなりません。

メシールのフォアハンド(スローモーション)を見てください。バックハンド側からの撮影であるので見づらいですが、ラケットを下から上に振り上げることで上腕が(脳内イメージでは)下向きになっている様子がよくわかるはずです。


Mecir's Tennis (239) 体とグリップの距離は遠すぎても近すぎてもいけない

メシールのフォアハンド、というよりも現在のほとんどのプロテニス選手のフォアハンドは、腕と体が一体になって回転します。これにより、体(体幹)の回転が腕を通じてラケットに伝わります。

特に、グリップの薄いフォアハンドでは、ラケット面の微妙なずれがヒットするボールの大きなずれに直結します。したがって、スイングにおいてラケット(面)を高い精度でぶれないようにコントロールせねばなりません。

その際、体から腕(ラケット)が離れていると、言い換えると右脇が空いていると、それだけラケット面はブレやすくなります。したがって、ラケットを握る腕は、一定以上体から離れてはなりません。

では、逆に腕が体に近い場合はどうでしょうか。言い換えると、右脇が締まったスイングです。このスイングも、次の理由により望ましくありません。

一つは、ラケットの遠心力が使えないということです。これまでに何度も書いている通り、メシールのフォアハンドでは、肩が「えもんかけ」(ハンガー)の様に回転し、そこからぶら下がった腕がしなるように肩の回転に引っ張られてスイングします。したがって、腕の力はできるだけ抜かなくてはなりません。相手の強いボールに対して打ち返すだけのラケットのパワーが必要となりますが、そのパワーは腕力ではありません。(腕の力を使うのはインパクト直前になってから。)

では、ラケットのパワーはどこからもらえばよいでしょうか。それは遠心力です。腕の力を抜いて肩の回転でスイングするときには、ラケットの力は肩の回転からくる遠心力により得ることになります。

もし、脇が締まり、回転半径が小さくなると、その分だけ遠心力はなくなります。(遠心力は回転半球が大きくなるほど大きい。)遠心力が使えなくなると、腕の力を頼らざるを得ません。腕でラケットを振ると、腕には力が入り、肩の回転主導のスイングができなくなります。

回転半径を小さくするだけで、スイングが根本から破たんしてしまうのです。

つまり、フォアハンドのスイングでは、「遠心力が使える程度は右脇を空ける」ことになります。ラケットと体の一定の距離が必要です。



2014年8月14日木曜日

Mecir's Tennis (238) 上腕を下げる+三角巾=インサイドアウト

最近の(厚いフォアハンドグリップの)テニスでは、テイクバックでラケットヘッドが上を向く傾向にあります。これは、言い換えると、最近のテニスでは上腕が水平よりも上を向くということです。

右ひじを支点としてその水平面で見ると、手や手首は水平面よりも上にあるわけです。錦織、フェデラー、ナダル(右利き)のテイクバックを見てください。すべて右手首は右ひじよりも高いところにあります。またラケットヘッドは上を向いています。




実は、メシールのテニスでは、上腕は必ず下を向きます。打点が高い場合でも、上腕は地面に水平までです。したがって、テイクバックでラケットヘッドが上を向くことはありません。

これは、メシールのスイングがインサイドアウトであることと無関係ではありません。薄いグリップで、テイクバックでラケットを立てると、スイングをインサイドアウトに振ることができないのです。上腕が下がっているからこそ、そこからインサイドアウト(かつ下から上に)スイングできます。


テイクバクで上腕を下に向けることで、いかにインサイドアウトにスイングするかが、メシールのフォアハンドの大きなポイントです。このような打ち方の場合、腕に力がいれにくいというのがポイントです。右ひじを曲げてラケットを立てると、体の回転と腕の回転が同期するため、フォワードスイングの最初から腕の力を使うことができます。メシールのような打法では、腕に力が入るのはボールインパクト直前からです。

そのためには、Mecir's Tennis (157) 3対7と言うよりも0対10のテイクバックとフォロースルー(その2)に書いた通り、肩の回転を使うことです。腕を三角巾のように肩からつるし、肩の回転でフォワードスイングを行います。そして、インパクトから初めて腕を使うのです。したがって、腕は肩の回転から遅れて出てくることになります。

上のメシールの写真をもう一度見てください。右側では腕は肩よりも遅れています。左側の写真では腕が肩よりも前に出ています。そして、上腕は下を向いています。スイングがインサイドアウトであるのは、インパクト(左)の写真でラケット面が外(2時方向)を向いていることからわかります。

2014年7月31日木曜日

2014年7月28日月曜日

Mecir's Tennis (237) レディーポジションとテイクバックの間に…(テイクショルダー)

20年前であっても、世界のトッププロの試合は、私の様な上級レベルにも届かないプレーとは全く違います。それを承知のうえで、残っているビデオ(DVD)を見ながら、メシールのプレーを分析し、それを実践しようとしてきました。

レベルの違いからくる差異について、つい、見落としてしまうことがあります。その顕著な例が、ボールのスピードです。当然ですが、トッププロのボールは私のレベルのボールよりも速い。一言で書くとそうなってしまいますが、もう少し正確に書くと、次のようになります。
  • トッププロのボールはそのほとんどが速いが、ごくたまに遅いボールが来る。
  • 私のレベルのボールは、たまに速い球と遅い球が混在している。
これでも、まだ正確ではないので、さらに詳しく書きます。
  • トッププロのボールでも、つなぎの球はある。ただし、それはスピードはそれほど速くなくても、ヘビーな回転などがかかっており、素直な遅いボールではない。ただし、自分の打ったボールが厳しい場合や、相手のミスショットで、なんの変哲もない遅いボールがたまに返ってくることがある。
  • 私の様なレベルでは、相手のボールは極めて速いという事はほとんどない。ただし、自分のボールが甘い場合など、速いボールが来ることはいくらでもある。一方、自分の打ったボールが厳しい場合を含め、相手のボールが遅いことはいくらでもある。
相手の緩いボールは、トッププロにとっては一発で仕留めるチャンスボールです。(だから、私レベルのアマチュアがプロとゲームをしても、全く歯が立つわけがありません。)トッププロの世界では、そんなチャンスボールを試合の中で相手が打つことはありません。

つまり、トッププロのプレーをコピーしていると、相手の遅いボールを学ぶことができません。そんなボールはほとんど来ないからです。そのことは、当たり前のように思えますが、実は案外と落とし穴になっています。

では、トッププロのプレーではほとんど見ることができない遅いボールには、どのように対応すればよいでしょうか。

これも案外難しいのですが、速いボールの場合にはボールに合わせて無意識にテイクバックが始まりますが、遅いボールでは余裕がありすぎるためにどのタイミングでテイクバックをすればよいか分からないことがあります。(ウソのようですが、実際、「頭で考えてテニスする」場合には、こういうことが起こるものです。理屈に頼りすぎる弊害ですね。)

答えは、「ボールが飛んできたらすぐにラケットを引くこと」です。もう少し正確に言うと、フォアハンドではボールが飛んできたら、すぐに右肩を引きます。最初のステップよりも先に、または同時に右肩を引きます。ここでは、後で述べるように、この右肩を引くのを「テイクショルダー」と呼びます。

右肩を引く際に、左手をラケットに添えておきます。というよりも、右肩を引く際には左手を使ってラケットを押すことで右肩を引くのがよいでしょう。右手だけでラケットを引くと、スイングが不安定になります。次に、この形のままステップワークします。これはテイクバックではなく、テイクバックの前の「テイクショルダー」です。レディーポジションとテイクバックの間に、もうひとつ「テイクショルダー」が入るのです。テイクショルダーは、テイクバックではありません。テイクショルダーの後、ステップワークを行い、ボールのバウンドに合わせてテイクバックを行います。つまり、ある種の二段モーションのようになります。

テイクショルダーでは、相手のボールが跳ね上がる場合にはラケットヘッドは上を向き、相手の‐ボールが低く弾む場合には下を向きます。これにより、ボールの高さに合わせたテイクバックがスムーズになります。

ここで大切なのは、テイクショルダーでは右肩を単に引くのではなく、「張る」ように引くという事です。単に右肩を引いたのでは、次のテイクバックで、再度さらに右肩を引かねばなりません。テイクショルダーは、言い方をかえるとテイクバックの最初の部分です。右肩を張ったままでステップワークを入れて、その後のテイクバックにつなげます。




テイクショルダーでは張るように右肩を引きますので、その分右肘が背中の側に出ます。上の写真を見てください。単に右肘を引くのではなく、左手でラケットを引きながら右肩を張り出します。この違いは重要です。単に右肘を引くのでは、左手が(写真のように)内側に引き込まれません。左手を使わずに右肘を引くのではなく、左手でラケットを引きながら、右肩を張ることで、結果的に右肘が背中側に出るわけです。

肩のところでラケットをセット(テイクショルダー)して、そこからは腰の回転だけでテイクバックします。腕は肩の前で固定したままのイメージ(三角巾のイメージ)ですので、テイクバックでは大きくラケットを引くことができません。肩の位置からしかテイクバックが取れないからです。その分、左手の使い方が重要です。左手が体の回転をリードすることで、小さいテイクバックでも強いスイングになります。小さなテイクバックと大きなフォロースルーです。

2014年7月24日木曜日

Mecir's Tennis (236) 左肩がオープンなフォアハンド・左肩がクローズドなフォアハンド(2)

Mecir's Tennis (235) 左肩がオープンなフォアハンド・左肩がクローズドなフォアハンド(1)において、浅くバウンドするボールは左肩をクローズド(0時方向)に入れると書きました。また、深くバウンドするボールは左肩を開いた状態で打つことができると説明しました。

その二つの良いところを取った打ち方があります。これは、メシールがそのキャリアの最後(1989年~1990年ごろ)で身に着けた打ち方で、デビューしたての頃(1985年~1986年ごろ)には使わなかった打ち方です。

それは、左足をオープンにして、さらに足を開く(つまり「がに股」)という足の使い方です。がに股にすることで、右足のつま先は0時方向ではなく2時方向(大げさに表現すると3時方向)を向きます。さらに、それに加えて、左肩を入れます。つまり、左足をオープンにしたまま、右つま先を2時方向(3時方向)に向けることで、体を横向きにできるわけです。当然、左肩を入れる(0時方向を向く)ことができます。

この打ち方は、やや浅めにバウンドするボールを左足をオープンにしたまま打つことができます。逆に深い球をタイミングで打つのではなく、しっかりとインサイドアウトのスイングで打つことができます。

つまり、両者の「いいとこどり」ができるわけです。

がに股での打ち方ですので見栄えはよくないのですが、安定して強い球を打てるので便利な打ち方です。バラエティーに富んだメシールのスイングの中でも、利便性の高いフォームだといってよいと思います。

かなり万能な打ち方ですので、「どんな場合でも、右足は原則的にはがに股で、右足のつま先は常に2時方向を向く」と決めておくのもよいと思います。

2014年7月23日水曜日

Mecir's Tennis (235) 左肩がオープンなフォアハンド・左肩がクローズドなフォアハンド(1)

メシールのフォアハンドで、時々、肩(左肩)がオープンのままボールを打っているシーを見かけます。もちろん、足もオープンスタンスなのですが、体全体が前を向ているようなケースです。正面を向いて、ボールが体の右側にあるイメージです。

一方で、左肩が入って、両肩がボールに対してクローズドになることもあります。横を向いて体の正面ネット方向を0時とすると、体に対してボールが3時の場所にあるイメージです。

この二つの打ち方を、メシールはどのように使い分けているのでしょうか。一言でいうと、バウンドする場所の違いです。

ボールが深くてベースライン近辺でバウンドする場合には、前者の打ち方をすることがあります。(後者の打ち方の場合もあります。)

一方、ボールが浅い場合(サービスラインあたりでバウンドする場合)や、やや深めでもゆるく高く弾むボールなどの場合には、絶対に前者の打ち方はしません。必ず、体をボール飛球方向に対して9時側に移動し、横を向いて打ちます。

特に、浅くてボールが弾む場合、つまりチャンスボールでは肩は必ず0時と6時を結ぶ方向になります。肩が開くことはありません。

以前、Mecir's Tennis (225)でフォアハンドチャンスボールの打ち方を説明しました。右腰を前に突き出すのですが、その場合ですら左肩はネット方向(0時の方向)を向きます。左肩が0時方向で右腰を突き出すので、かなり体をひねっていることになります。

浅くバウンドするボールの場合に肩を開いた打ち方ができないのは、この打ち方ではタメが作れないからです。「ぱっと来てぱっと打つ」場合にのみ、左肩を開いてボールを打つことができます。多少、バウンドが浅くても、相手のボールが速い場合にもタメは作れませんので、この打ち方ができます。

相手の技量が高ければ高いほど、深いボール、速いボールが来ますので、この打ち方をする機会が増えます。一方、相手の技量が見劣りする場合には、逆に浅いボール、高く弾むボールがよく来ます。その場合には、絶対に左肩を開いて打ってはいけません。タメが作れませんので、本来は易しい球を逆に難しくしてしまうことになります。

相手のボールが浅い、ゆるく跳ねるなどの場合には、これでもかとボールの9時側に回り込んで、しっかりと左肩を入れてボールを打ちます。左肩を開くのはもちろんNGですが、左肩が入りきらないだけでもNGです。つまり、左肩が9時方向はNGですが、10時でも、11時でもNGです。しっかりと、12時方向を向けなくてはなりません。

相手のボールが速い場合にはオープン左肩で打つのであまりステップが必要ありませんが、相手のボールが緩い時にはボールの9時側に回り込み、勝左肩を十分に入れるため、ずいぶんと忙しくなります。動きも大きくなり、ステップ数も格段に増えます。遅いボールを打つプレーヤー(一般にはよりレベルが高くないプレーヤー)ほど、メシールの側は足を動かさねばなりません。

一般の人がメシールのフォアハンドでボールを打つのが難しく、特に遅い球に意外に弱いのは、上のことを忘れてしまい、遅い球でも左肩を入れずにフォアハンドを打ってしまうためです。特に、一級前のボールが速区、次の球が遅い場合に、ミスをしがちです。速い球に通用する打ち方が、遅い球にも通用するとは限らないのです。一球、一球のボールごとに打ち方を変えて対応しなくてはなりません。

2014年7月22日火曜日

Mecir's Tennis (234) どのぐらい腰を落とすか・どのぐらい膝を曲げるか 

メシールは、当時、腰がよく落ちている、膝がよく曲がっていると言われていました。では、どのぐらい腰を落とせばよいのでしょうか。どのぐらい膝を曲げればよいでしょうか。

どういえばよいのでしょうか。人の感覚なので、人によって違うと思うのですが、一言でいうと「洋式便器に座っているぐらい腰を落とす脳内イメージ」です。こんなに腰を落とし、こんなにお尻を突き出して大丈夫かというほど腰を落としてください。

膝も、同様に曲げこんでください。お尻を突き出すぐらいに、膝を曲げこみます。インプレー中は、サーブの場合も、ストロークの場合も、ボレーの場合も同じです。膝の下(いわゆる弁慶の泣き所)が地面と平行になるぐらいの脳内イメージで、お尻を突き出してください。

さらに、そのままでボールを追いかけてください(ステップワーク)。また、そのままでボールをヒットしてください。

なんとなく、こんなに腰を落としては動きがぎこちなくなるのではないかと思うかもしれません。しかし、実際にはその逆です。これだけ腰を落とすと、安定した体勢でボールを打てるため、自由に上半身が使えます。スイングの自由度が高くなります。

メシールの「上体を立てたスイング」のためには、この腰を落とし膝を曲げこむことは必須といってもよいでしょう。実際、メシールのビデをを見ていると、感覚的(脳内イメージ)には洋式便座に座っているぐらい腰を落としていると思います。(もっとかもしれません。)

それはまさに、メシールのスイングです。つまり、自由なスイングのためには、それほどまでに腰を落とすことが有効なのです。「動きづらくなるのではないか」と思うぐらい、腰と膝を落としてプレーしてください。

2014年7月21日月曜日

Mecir's Tennis (233) ゾーンとスコープ(2)

スコープは、点ではありません。ある一定の範囲で照準を当てます。一定範囲は、大きすぎてもいけません。スコープの意識がないと、自分の視野のすべてでボールを見てしまうでしょう。それもいけません。

スコープの大きさは、ゾーンの大きさと一致します。つまり、スコープの中にボールをロックオンできれば、それは言い換えるとゾーンでボールをヒットできるということです。

スコープで相手コートやボールを見る場合、スコープの中は透明です。そして、スコープの外は半透明です。ボールが半透明の場所にある場合、体を移動させてボールを透明なスコープの中に移動して、そこでロックオンするのです。

スコープの位置は、意図的に選んではいけません。つまり、頭を動かしてスコープの側からボールを追いかけてはいけません。頭とスコープの位置関係は、常に一定です。したがって、スコープの中にボールを入れるということは、前後左右(さらには上下)に体を動かすことです。それ以外に、ボールをスコープでとらえてロックオンすることはできません。

メシールのテニスでは、上体が固定されます。頭を動かすことができません。頭の向きを変えることなくスコープでボールをとらえるのは、意外に大変です。実際、そのようにしてボールをロックオンすることを意識すると、それまでどれほど楽に(手を抜いて)ボールを追いかけていたかがわかります。

逆に言うと、どれだけ難しい場所でボールをヒットしていたかがわかります。上体を立てて頭の位置(目線)を固定し、ボールをスコープでとらえて、ゾーンで打つ。これは、ボールをとらえるまでは大変ですが、一度ロックオンしてしまえば安定してボールを強くヒットできます。

Mecir's Tennis (232) ゾーンとスコープ(1)

どれほど正しいフォームを身に着けていても、ゲームで使えなければ意味がありません。練習の時は、ボールは自分のところに飛んできます(練習相手は打ちやすい場所にボールをうとうとしてくれるでしょう)が、ゲームではその逆です。打ちづらいところ、打ちづらいところを選んで、相手はボールを配球します。

そんな打ちづらいボールであってもそれを強く打ち返すのが、テニス(グランドストローク)の基本です。つい、我々は、「ボールをどこに打つか」という、つまり配球を考えます。しかし、ボールの配球よりもまず強いボールを打つことが大切です。

強くボールを打つためには、よい打点でボールを打つことです。よい打点とは、つまり、ボールを強く打つことができる打点です。ここでは、その打点を「ゾーン」と呼ぶことにします。ゾーンでボールを打てば、自然なスイングで自然に強いボールを打つことができます。(自然なスイングで強いボールを打つことができる打点をゾーンと呼ぶというのが正しいかもしれません。)

テニスは、ミスをすると負けるスポーツです。ボールを打つときには、常にミスをする可能性とのメンタルな戦いがあります。ゾーンでボールを打つということは、メンタルストレスなく強いボールが打てるので、より安定したよいボールを打つことができます。きちんと打てば必ずボールが相手のコートの入るため、相手のコートにボールを入れるという意識も不要になります。

つまり、相手が打ちづらいところにボールを打ってきた場合であっても、体を移動して自分のゾーンでボールを打つことが最優先事項となります。どこを狙って打つか(ボールの配球)は、その後の課題です。まずは、ゾーンにボールを入れること、それにより強くボールをヒットすることが重要です。

つまり、相手のボールがこちらに飛んでくる間に、ボールをゾーンに持ってこなくてはなりません。もちろん、相手のボールの軌道を変えることはできません。したがって、まずは自分の体をスムーズに移動して、ボールをゾーンに入れる必要があります。

「ボールをゾーンにひきつける」というイメージです。

メシールのテニスでは、上体はできるだけ立てた状態を維持します。これは、言い換えると、目線の高さが一定に保たれるということです。つまり、ボールを追いかけながらも、目線の高さは一定に保たれるのです。

目をライフルの照準(スコープ)と考えると、スコープはボールを捉えます。そして、ボールがゾーンに入ってきたときに引き金を引くのです。言い換えると、目でボールを追いかけながら、体をゾーンに移動し、ボールがゾーンに入ってきたら、引き金を引いてボールをヒットします。

ポイントは、なんとなくというイメージでボールを打つのではなく、しっかりとボールをゾーンにひきつけるイメージを持つことです。引き付ける役割をするのが、スコープです。したがって、スコープ、すなわち目の高さを一定にしてボールを引き付けるイメージは重要です。なお、スコープはどうしてもゾーンにボールを入れることができなかった場合には、強くボールをヒットするのを諦め、ミスしない最善の強さでボールを運ぶことになります。

一球一球のボールごとに、ゾーンでボールを打てているかどうかを判断することが大切になります。ゾーンでボールを打てれば何も考えずに強いボールが打てますので、ストレスなくボールをヒットできます。少しでも多くの場合にゾーンでボールを打つことろ心がけるのは、もちろんです。

2014年7月13日日曜日

Mecir's Tennis (231) サーブではどこまで膝を曲げるか?

九鬼潤さんのレッスンで、「サーブでは膝を十分に曲げて、膝を戻す勢いでボールをヒットする」ということを教わりました。

では、サーブではどこまで膝を曲げこむのでしょうか。

その答えは「可能な限り」です。「可能な限り膝を曲げこむ」ということは、決して体の限界まで膝を曲げるという意味ではありません。

プレーヤーの体力、脚力、パランスにより、膝を曲げこんで力をため込み、膝を伸ばす力で跳ね上がることができるレベルは異なります。

つまり、バランスを崩すことなく曲げこんだ膝を伸ばしてボールを打つことができるレベルまでがその人が膝を曲げることができる限界です。この限界まで膝を曲げるというのが正解です。

最近の男子のトッププロでも、たとえばスイスのバブリンカなどはそれほどまでは深く膝を曲げこみません。かつてのボリス・ベッカーはかなり深く曲げこんでいました。

どこまで曲げこめるのかは、その人によります。それを超えてまで曲げる必要はないのです。その人の限界まで曲げこむのが理想的な膝の曲げこみということになります。

2014年7月12日土曜日

Mecir's Tennis (230) クラシックだろうがフォアハンドスイングは絶対にインサイドアウト!のワケ

最近のテニスでは、フォアハンドは「アウトサイドイン」でスイングするそうです。昔ながらのテニススタイルの私には、ちょっと驚きのセオリーです。

メシールのテニス、まさにオールドクラシックスタイルのテニスでは、フォアハンドではアウトサイドインのスイングはあり得ません。それは不可能です。その理由を今回は書きたいと思います。

Mecir's Tennis (226) 柔らかいスイングとは?(その1) ~前腕と上腕は同期しないで書きましたが、メシールのスイングでは、右手前腕が右手上腕・右肩から遅れて出てきます。さらに、その上腕・肩は腰の回転から遅れて出てきます。

スイングがアウトサイドインになっている場合、上腕・肩が腰の回転から遅れて出てくることを考えると、上腕・肩が回転するときには左肩は大きく開いていることになります。まさに「振り遅れ」のフォームになってしまいます。

これでは、ボールコントロールができません。

一方、スイングがインサイドアウトであればどうでしょうか。この場合には、右手上腕と右肩が遅れ出て出てきても、左肩が開くことはありません。つまり、左肩を開くことなく右肩が腰の回転から遅れ出てくることができます。

腰の回転と右肩・右手上腕の回転のずれが、ボールにパワーを与えます。(そして、右肩・右手上腕の回転と右手前腕の回転のずれがボールにコントロールを与えます。)どうしても、このずれは必要です。体が開かずに(左肩が開かずに)このずれを作るためには、スイングはどうしてもインサイドアウトにならざるを得ないのです。


2014年7月11日金曜日

Mecir's Tennis (229) Mecir vs Gilbert

Mecir vs Gilbert match is now available on Youtube.
メシールとブラッド・ギルバート(Winning Uglyの著者で有名)の試合をユーチューブで見ることができます。(こちら

2014年7月8日火曜日

Mecir's Tennis (228) 柔らかいスイングとは?(その3) ~前腕のイメージのサーブへの応用

柔らかいスイングとは?(その1)(その2)で述べた自由な前腕のイメージは、サービスでも有効です。サービスの場合も、前腕を自由に使うことでサービススイングに柔軟さが出てきます。メシールのサーブは、スイングスピードは速くないものの自由自在に相手のいやなところに打つこと出来るフォームでした。そのヒントは、自由な前腕に隠されています。

面白いことに、ここでも、(その1)で述べたコナーズとメシールの違いが現れています。コナーズの肩と前腕と上腕が一体となって動くサーブに対して、メシールは肩と上腕が一体ですが前腕は自由に使っています。

コナーズとメシールのゲームを見ていると、その違いがよく分かります。

Mecir's Tennis (227) 柔らかいスイングとは?(その2) ~前腕のイメージ

Mecir's Tennis (226) 柔らかいスイングとは?(その1)で、「前腕と上腕は同期せず、上腕は方と一緒に動き、前腕はそれに遅れて出てくる」と書きました。

もともと、右腰の回転に対して肩(と上腕)が遅れてくるので、前腕はさらにそこから遅れることになります。このイメージどおりにスイングすると、さすがに「遅れすぎ」たスイングイメージになってしまいます。

逆に、スイング中に前腕が送れ過ぎないように意識すると、今度はラケット面が早くかぶってしまい、むしろ、上腕よりも先に回ってしまいます。

そうならないコツとして、「前腕はボールをヒットした後に回転する」というのが有効な脳内イメージです。Mecir's Tennis (226) で書いたとおり、前腕は自由度が高く、メシールの自由なスイングは、この前腕の自由さから来ています。ただ、その自由な前腕のコントロールは、脳内イメージではインパクト後になるのです。

それでも実際には、インパクト前後で前腕が上腕とは独立して動きますので、十分にコントロールが効いたスイングが可能です。この微妙なタイミングは、練習することでつかむしかありません。

もし、これまで、前腕と上腕が同時に動くタイプのスイング(コナーズ型)をしていた場合には、ほんの少しだけいままでよりも前腕を自由に使うだけでよいのです。上腕や肩の回転イメージを変える必要はありません。

2014年7月7日月曜日

2014 ウィンブルドン 白のウェア

ウィンブルドンの選手のウェアについて、アンダーウェアまで白で統一するようにというオールイングランド・ローンテニス・アンド・クロケット・クラブの通達について、選手から不満の声が上がっているという。フェデラーも、「規則には従うが、(個人的な意見としては)厳しすぎるのではないか」とコメントしているそうだ。

クラブ側のこの通達の趣旨は、「ウィンブルドンはコマーシャリズムには流されない」ということなのか。それとも別の理由があるのか。ウィンブルドンは、素晴らしいプレーを見せる(魅せる)プレーヤーがいてこその大会だ。クラブ側は、プレーヤーが納得するような説明をするべきだと思う。

オールイングランド・ローンテニス・アンド・クロケット・クラブが白にこだわる理由は、伝統か、格式か、それとも権威か。

ウィンブルドンが特別な大会であることは、世界中の誰もが認めるところだ。それでも、やはり、伝統や格式、権威を誇示する必要があるのだろうか。そういえば、最後まで白のボールにこだわったのもウィンブルドンだった。あの有名な、スラセンジャーの白のボールだ。(さすがに、ボールの色まで白に戻すことはしていないが。今のところは。)

オールイングランド・ローンテニス・アンド・クロケット・クラブが白にこだわる理由は、伝統か、格式か、それとも権威か。

おそらく、本音は権威なのだろう。数少ない、残された英国の権威の象徴がそこにある。グローバル化の流れと一致するのが難しい権威という目に見えない力に、クラブはどこまでこだわり続けることができるか。今や、それは、「昔懐かしい伝統」では済まなくなりつつある。いや、正しいかどうかに関係なく流れに逆らってこだわり続けることこそが、もしかしたら伝統の言葉の意味するところなのかもしれない。

今となっては、ジョン・マッケンローのセンターコートでのタッキーニのウェアはなつかしい。特に、赤の肩のラインのウェアは、多くのテニスファンが忘れることができないだろう。あのウェアを見るだけで萎縮した選手が、あのころどれほどいたことだろうか。

そういえば、伝統に逆らって黒のパンツでコートに立とうとして白に換えるように指示されたのも、マッケンローだった。小さな大会であれば、おそらくデフォ(棄権)していただろうマッケンローも、さすがにウィンブルドンでは棄権ができなかった。

Mecir's Tennis (226) 柔らかいスイングとは?(その1) ~前腕と上腕は同期しない

昔(確か1986年)にジャパンオープンでメシールと対戦した福井烈選手(今はNHKのテニス解説者として知られていますね)が、メシールを評して、こんな風に言っていました。

「素人にいるじゃないですが、振り遅れてスイングする人が。メシールはあれなんです。あ、振り遅れたなと思ったらすごく回転の良いボールが返ってくる。」

これは、どういうことでしょうか。今回は、このことについて考えてみます。

メシールのスイングは、まず右足が回転し、右ひざが回転し、次に右腰が回転し、肩と腕が一緒に回転してスイングを構成します。この順番が、ほんのわずかにずれています。力が、足からだんだん上半身に伝わってくるイメージです。

ずれは少しずつですが、結果的には最初から最後までが大きなずれになります。「ラケットが遅れて出てくる」ようなイメージです。これが、メシールのスイングが振り遅れたように見える(打点が遅れているように見える)理由です。

ここで、大切なことが一つあります。それは、上に書いた「肩と腕が同時に回転する」という部分です。忘れていけないのは、腕です。

腕は肘を境に、肩に近い方を上腕(じょうわん)、手の方を前腕(ぜんわん)と言います。そして、肩と同時に回転するのは上腕だけなのです。前腕は、上腕からさらに遅れて回転します。このことがとても大切です。

もし、上腕と前腕が肩と一緒に回転するとすると、それはとても「硬い」スイングになります。このスイングをする選手が昔いました。それは、アメリカのジミー・コナーズです。コナーズは、肩と腕(上腕および前腕)を同時に回転することで、ブレの少ないスイングをしました。こちらの動画像を見てください。見事なまでに、肩と腕が一体になって回転しています。

この打ち方はスイングのブレが少ない代わりに、大きなリスクがあります。それは、スイングに遊びがないということです。また、スイングに強弱がないため、打ったボールに伸びを与えることができません。コナーズのフォアハンドでは、それを補うために体を大きく回転します。コナーズは、多くの場合にジャンプしながらボールをヒットすることで、ボールにパワーを与えようとしました。それは、安定感とボールのパワーを両立させるための、コナーズの工夫だったのだと思います。

実は、最近のウエスタングリップのフォアハンドは、やはり肩と腕が一緒に回転します。例えば、錦織圭のフォアハンドを見てください。ボールがヒットする直前までは、ほぼ、肩と腕が一緒に回転しています。錦織はヘビーウエスタングリップですが、グリップが厚くなればなるほど、この傾向が強くなります。

メシールのような、イースタングリップで柔らかいフォアハンドは、どうやって実現するのでしょうか。そして、なぜメシールのスイングは振り遅れているように見えるのでしょうか。

その答えは、上に書いた通り、肩と上腕の回転から前腕の回転を少し遅らせることにあります。言い換えると、ボールをヒットするときに前腕は上腕よりも遅れて出てきます。

メシールのフォアハンドを見てみてください。肩と上腕が一体になって回転し、前腕が上腕より少し遅れて出てくるのがわかると思います。そして右ひじは常に曲がっています。これは、そこにゆとりがある証拠です。

前腕が上腕よりも遅れるということは、前腕の動きは上腕に支配されないということです。前腕には自由度が与えられます。その自由な腕の動きで、ボールを押し出すことができます。または、ボールに下から上への回転を与えることもできます。つまり、ボールをここで操ることができるのです。

前腕がボールを操ることができることは、ウエスタングリップのフォアハンドにはできないことです。微妙なずれがボールコントロールに影響するテニスのスイングで、こんな自由が許されるのは、そこまでのお膳立てがしっかりしているからです。足、腰、肩、上腕の回転がきちんと連動しているおかげで、最後の前腕には自由度が与えられます。

乱暴な言い方をすれば、「すべてのお膳立ては前腕に自由度を与えるため」だったのです。上腕と前腕を固定してしまっては、せっかくのお膳立てが台無しです。最後の最後に、前腕を遅らせてスイングしてください。その代わりに、そこで、自由を満喫するのです!

メシールとコナーズのゲームをこちらで見ることが出来ます。両者の違いがよく分かります。

2014年6月20日金曜日

Mecir's Tennis (225) ついに見つけました!遅いボールを強く打つ方法

遅い球を打ち込むのが不利な薄いフォアハンドグリップ。私自身、これが苦手でいつも苦戦してきました。

相手の速い球には比較的強いイースンタングリップでは、ストローク戦になった時には有利です。特に相手のボールを逆サイドに振り、相手に甘い球を返させるというのはよく使う方法です。しかし、せっかく相手に甘い(浅い)ボールを打たせても、それをアプローチショットで強く打ってネットしたりアウトしたり、またはちびってしまって悔しい思いを何度もしてきました。チャンスボールが、むしろピンチボールです。これでは何のために相手に甘い球を打たせているのか分かりません。

これは、イースタンフォアハンドが、相手のボールが緩い時や特に自分が走りながら打つ(またはボールのところに移動してから止まって打つ)時には難しいからです。

これは、プロのプレーではめったに見ることができないショットですので、メシールのビデオではなかなか分析できませんでした。プロのゲームで、そこまでのイージーボールは、逆にめったにないからです。

さて、緩いボールを強く打つポイントはなんでしょうか。それは、軸をスゥエー(移動)回転だけでボールを打つという事です。そして、ここでいう軸とは右腰(右利き)です。つまり、スイングを右腰回転で打ち、しかもその際に右腰を固定するのです。

具体的なスイングイメージは次のようになります。

  1. ボールが飛んできたら、まず、ボールを打つ位置に右足を持っていく。その際に、右ひざを曲げておくこと。
  2. 右腰をボールに向かって突き出す。右腰を引いてはいけない。(腰を引くとその後でその腰を前に出すことになり、そこにスゥエーが発生するため。)
  3. 右ひざのばねでフォワードスイングする。その際、右腰を軸として体を回転するイメージでスイングする。
  4. スイングは強くラケットを振ること。大きくラケットを振り切ること。
ここで、特に、右腰をボールに向かって突き出すイメージが重要です。これで右腰が固定されます。「これではテイクバックが取れない」と思われるかもしれませんが、それでよいのです。遅いボールでは、腰の回転によるテイクバックは不要です。逆に、テイクバックを作らないために、右腰を前の方で固定してしまうのです。

また、右腰を突き出せば、左足は後ろになります。極端なオープンスタンスになりますが、これも問題ありません。相手のボールが遅い場合には、右腰固定により左足はオープンでよいのです。その体勢から、順クロスにも、逆クロスにも打つことができます。

この打法を、実際にゲームで試してみました。相手の技量にもよりますが、技量が高くない場合には、頻繁にこの打法でボールを打つことになります。場合によっては、サーブレシーブからこの打法で打つこともありました。一方、相手のボールが一定以上の強さの場合には、もちろんこの打ち方はしません。これは、あくまで相手のボールが緩い場合の打ち方です。




2014年6月3日火曜日

2014 全仏オープン 男子シングルス 準々決勝 モンフィス vs マレー

モンフィスが、準々決勝でマレーと当る。準々決勝4試合のうちでは最も楽しみな試合だ。

互いに身体能力が高いといわれている二人のプレーヤーだが、どちらかというとマレーの方が基礎的な身体能力が高いように思える。というよりも、モンフィスは体の使い方がうまいために身体能力が高いように見えているだけかもしれない。(それでも、他の男子選手よりは高いとは思うが。)

マレーにモンフィスが対抗できるとすれば、モンフィスがどれだけリズムに乗ってボールを打ち返せるかだと思う。モンフィスは、マレーのようにパワーでボールを打ち切らない。ボールの配給、つまりプレースメントが命綱だ。ボールを引き付けてマレーの予想の逆の場所に打ち返すだけの余裕があれば、モンフィスの勝ちだろう。いったんタイミングをつかめば、そのままモンフィスのペースで試合が進むだろう。そして、私は、今のモンフィスであれば、その可能性は十分にあるように思う。

いずれにしても、楽しみなゲームだ。

2014年6月2日月曜日

2014 全仏オープン 男子シングルス 4回戦 来るかモンフィス

以前も書いたが、私が今一番好きな男子テニスプレーヤーはモンフィスだ。ガエル・モンフィスはフランスの黒人選手で、おそらく今のテニスプレーヤーでは最もイマジネーションのあるプレーができる男子選手の一人だろう。

ヤニック・ノアやアンリ・ルコントなど、往年のフランスの男子プレーヤーはユニークなキャラクターが多いが、モンフィスは彼らに負けず劣らずだ。しかも、とても理にかなったフォームでボールを打つところが、前者の二人とは大きく違う。

モンフィスのことを、身体能力が優れているからプレーがユニークだという人がいるが、私はその逆だと思う。よいフォームで打つからこそ、そのたぐいまれな身体能力が活きてくるのだ。

たとえば、以前にも書いたが、生で見たアンディー・マレーの身体能力はすごかった。対戦相手のフェレールがかわいそうに思えるぐらいだった。しかし、マレーはその身体能力を活かしきっていない。むしろ、その身体能力でプレーを100%ではなく80%ぐらいに抑えることでも、まだ勝つことができる。そういうスタイルがマレーだ。それは、マレーのフォームが理想的ではないからに他ならない。マレーが今のフォームで100%でボールをヒットしたら、相手のコートにはボールは入らないだろう。

モンフィスは、100%の力を出し切る理想的なフォームで、だから100%の能力を出し切ることができる。モンフィスがもっとまじめに(?)テニスに取り組めば、おそらく、もっと上位にランクされるプレーヤーになるだろう。そのあたりのこだわりのなさは、ルコントを思い出してしまう。歯がゆいばかりだ。

そのモンフィスが、2014年の全仏オープンでベスト8をかけてガルシア・ロペスと当る。その次がベルダスコとマレーの勝者との対戦だ。今のモンフィスであれば、いやいつのモンフィスだって、この3者に対しては十分な勝機がある。そして、あと2回勝てばナダルとフェレールの勝者と準決勝だ。

モンフィスにはあと2回勝ってもらい、ナダルとの準決勝を見せてほしい。そして、ナダルに対して、100%で戦うモンフィスが見てみたい。今のところ、ローラン・ギャロスの赤土で調子が良いナダルと対等に戦えそうなのは、ジョコビッチとモンフィス(ただし100%の力を出したとき)ぐらいしか見当たらない。

モンフィスは、ほかの選手よりもボールを打つまでの歩数が平均的に少ない。細かく足を動かすモンフィスは想像がつかない。そのあたりは、メシールとよく似ている。理想的な体の使い方でボールを打つから、そういうことができる。というよりも、自然にそういうスタイルになる。

究極的に体を効率的に使うモンフィスと、究極的に強引にボールを打つナダル。レッドクレーの上での芸術と格闘技のせめぎあいだ。同じようなプレースタイルばかりでは面白くない。全く反対のスタイルが戦うことができるのが、テニスの面白いところなのだから。

2014年5月19日月曜日

テニスグッズ紹介(6) モトカワ比較

私はラケットのグリップにはオーバーグリップをまかないタイプです。つまり、もともとのグリップをそのまま使います。といっても、元のグリップがシンセティックの場合には、革のグリップに巻き替えています。

つまり、多くのプレーヤーが自分に合ったオーバーグリップを探すように、私は自分に合ったレザーグリップを探しています。

もともとのグリップテープのことをモトカワ(モトグリ)というそうですね。漢字で書くと素革でしょうか。アメリカではReplacement Grip(取り換え用グリップテープ)と呼ぶみたいです。

主要なラケットメーカーのほとんどはレザーグリップを販売しています。どこがどこのOEMなのかわかりませんが、それぞれ特徴があるように思います。

試した中でやはりよいと思うのはフェアウェイのオリジナルです。これに勝るものはないと思いますが、値段が高いことと手に入らなくなってきたことがネックです。

キモニーが出しているフェアウェイグリップテープは革(レザー)ではありません。以前購入しましたが、フカフカしていて、使いにくかったです。インターネットで見るとフェアウエイレザーは輸入モノ(?)の中国製のオリジナルと、キモニーがライセンスを引きついた日本製のものがあるようですね。前者の方が後者よりも倍ぐらい高いようです。私が購入したのは日本製の方だと思います。

以前はGAMMAのリプレースグリップを使っているのですが、グリップエンドが汗をかくとすべるので、あまり良い製品だとは思いません。米国出張の時に購入したのですが、安いのですがよいとは言えないと思います。

Winning Shotのレザー製のリプレースメントグリップが結構気に入ったのですが、なかなか見つけることができません。インターネットでさがしてみると、どうやら完売とのことです。残念。

現在は、YonexのレザーグリップとBabolatのレザーグリップを使っていますが、前者の方がしっくりきます。革独特のざらつきを感じ、汗をかくとつるつるになるGAMMAのレザーとは対照的です。Babolatの方はYonexよりもやや劣る感じがしますが、実用的には問題ないと思います。




テニスグッズ紹介(5) Wilson Leather Bag (ラケット6本入り)続報

テニスグッズ紹介(1)で、Wilsonのレザーのテニスバッグを紹介しました。

この時点でほぼ売り切れだったのですが、人気があったからでしょうか、Wilson社は後継となる新たなモデル(Wilson Black Leather 6 Pack Bag)の発売を始めたようです。値段は、前回同様$600で、決して安いとは言えません。
前回よりも濃い色調になっており、より「テニスバッグに見えない感」が強いようです。Tennis Warehouseでの紹介はこちら

私は、旧モデルの3本入りの方を使っています。(Tennis Warehouseでの紹介はこちら。)「テニスバッグに見えては困るとき」にはたいへん重宝しています。

Mecir's Tennis (224) Happy Birthday!

Happy Birthday, Miloslav Mecir (Sr.)! Today (9th May) is your 50th birthday.

I hope someday I visit Slovakia again and have a talk to you on your tennis.

I found your son's singing videos on Youtube (Here and Here). He looks like you when you were young and playing on court.


Mecir's Tennis (223) 腕をリラックス

Mecir's Tennis (222)で、腕が遅れて出てくることを書きましたが、このうち方のよい点の一つは、最後に腕が出てきたときに、その腕を自由に使えることです。

腰の回転と腕によるスイングが一体になると腕の自由度が下がります(腰に連動せねばならないため)。逆に腕が後から出てくると、そのまま腕を使って自由な打ち方ができます。

メシールのフォアハンドが、しばしば「自由な打ち方」と言われるのは、その理由です。たとえば、ぎりぎりまで打つコースを隠すことができるのも、この自由さがあるからです。

このように腕を自由に使うためには、フォワードスイングがドアスイングになってはいけません。フォワードスイングの前半では、腰の回転に合わせて腕も一緒についてくることが必要です。Mecir's Tennis (179) 腕が遅れて出てくることと打点が後ろになることは別の話なのです! で書きましたが、右腕は右胸の前でセットされていなくてはなりません。

腰回転の後でボールを打つ段に、自由なスイングをするために大切なことが2つあります。

一つ目は、腕に力を入れないことです。極端に言うと、腕の力をほとんど抜きます。これは、腕をぶらぶらさせるということとは別です。Mecir's Tennis (179)で書いたとおり、腕の位置は右胸(右腰)の前に固定します。ラケットヘッドはネットの方向を向きます。腕をそこで固定した状態で、腕の力を抜くのです。実際には全く腕が動かないわけではなく一定のテイクバックがありますが、その場合でも極力、腕には力を入れません。

もう一つは、肘をわずかに曲げておくことです。スイングの途中で右ひじを伸ばしてはいけません。インパクトでボールを捉えるまでは、右ひじを少し曲げておくことで「遊び」を作ります。この遊びにより、微妙な調整やコントロールができます。そして、ボールをインパクトした後に、その右ひじを伸ばしていきます。今度は、ボールに体重を乗せ、ボールを前方に運んでいくのです。

メシールのスローモーションのフォアハンドの映像を見てみてください。テイクバックからフォロースルーで腕の力が抜けて、さらにボールヒットの前後でも右ひじがわずかに曲がっていることがわかります。これがスイングのゆとりを生んでいるのです。

九鬼潤さんのレッスン

以前、メシールのテニス(16) メシールのフォアハンド(基本はオープンスタンス)で、メシールと九鬼潤さんのプレースタイルが似ているということを書いた。九鬼さんは1945年生まれなので、これを書いているときに70歳まえ、お元気なうちにそのプレーをぜひ見たいと思っていた。

その九鬼さんのレッスンを受ける機会があった。自分のテニス人生の中でも、かなり貴重な機会だったと思う。

九鬼さんは、終始、基本的なことが大切だと言っていた。そして、生徒たちに体の軸がぶれることを何度も指摘していた。

九鬼さんによると、ストロークは3つの段階からなるらしい。

一段階目は、何も考えずにボールをしっかり打つ段階。この段階では、ボールを自分の打点でしっかり打つことだけを考える。(もちろん、体の軸はブレないこと。)素早く、その打点に入り、しっかりボールを打つことが大切だそうだ。

二段階目は、相手のボールに合わせて打つ強さを変えること。例えば、相手のボールが遅ければしっかりとボールを押し出す、相手のボールが速ければスイングを小さめにして面がぶれないようにする。場合によってはスピン系で打つこともある。ボールの打つ強さを変えるのは、右腰、右手の前の「ふところ」の部分だ。この部分で、ボールの打ち方をコントロールする。

三段階目は、ゲームでのプレーだ。ゲームの中では走りながら打ったら、深いボール、浅いボール、跳ねるボールなど、いろいろなボールが来る。それらのボールに合わせて、相手に合わせて打つボールを選択していく。

また、私自身は、ストロークにおいてはとにかくボールを深く返すようにと何度も言われた。ボールが浅くなれば、相手に攻撃される。そうならないように、どんなボールでも深く返球する。そのことが大切だと。実際、九鬼さんと打ち合いの練習をした際にも、自分のボールが浅くなると強い球を打ち返され、結局、その圧力でどんどん不利になっていくことが何度もあった。

サーブについても、基本的なことを教わった。まず、腕に力を入れない。腕への意識を忘れ去ること。二つ目に、膝を使ってスイングすること。そして、膝の伸び上がる方向にトスを上げること。後ろにあげすぎると、力がボールに伝わらない。そして、背中をそらせた状態からそれを戻す力でスイングをすること。その反動で内側に体を畳み込んではいけない。言い換えると、前のめりになってはいけない。それは、スイングの後半で体の軸が前に倒れこむことを意味している。もう一つ大切なことは、ボールをしっかりと包むようなイメージを持つこと。ボールに力がきちんと伝わることが大切だと言い換えてもよいと思う。

ボレーについては、まず体の力を抜くこと、そしてボールをしっかりと打てる位置に早く移動することを言われた。よいポジションでボールをとらえ、前への体重移動(だけ)でボールをヒットすること、そのためにはパワーは不要だと。そして、ボールを深く打つことを、ここでも指摘された。

よい位置に素早く移動して、自分の懐でボールを打つことは、グランドストロークにおいても重要だと何度も言われていた。(上の第一段階と同じこと。)そのためには、常に攻撃する意識を持つこと。下がったり、守ったりしてはいけない。攻める気持ちが、素早い移動に通じていく。攻める気持ちを持つことと、ボールを強くたたくことは同じことを意味しているわけではない、と。

全体の3分の2は練習だったが、最後に九鬼さんも入ってゲームをした。自分が休みの間は、穴が開くほど九鬼さんのプレーを見ていた。九鬼さんが日本で初めてオープンスタンスでフォアハンドを打った人だという話題に以前触れたか、本当にその通りだった。特に、体の近いボールを逆クロスにインサイドアウトのスイングで打つボールは、おそらく九鬼さんの得意球なのだろうと思うが、切れ味が鋭く、厳しいボールだった。また、ここぞというときに前に攻め込んでいくプレーは、迫力満点だった。ボールを打つ際に、ボールに力と体重をしっかり乗せていく様子は迫力があったし、自分でもぜひ真似をしたいと思った。九鬼さんはもうすぐ70歳になるはずだけれど、そのプレーの本質的な部分は昔のままなのだろうと思った。

1時間40分程度だったと思うが、本当に「あっ」という間の時間だった。「自分はあの九鬼潤とストロークの打ち合いをしている」「自分はあの九鬼潤とゲームをしている」という時間は、まるで夢のようだった。最初は緊張したが、ゲームになると、逆に何とかして九鬼さんに厳しいボールを打ちたくて懸命で、緊張するどころではなかった(その代わりに心身ともに疲れた。)数名がぐるぐる回ってチーム分けした(全部の試合に九鬼さんは入った)が、私は九鬼さんと反対のコートにしか入れられなかったので、もしかしたら、それなりに技術を評価してくれたのかもしれない。

教わった内容は、ある意味では基本的なことばかりだ。それは、基本は大切だということを改めて教えてくれた。しかし、それよりもはるかに大切なことがある。それは、あまたある基本的なことの中から九鬼さんが指摘したことが、基本の中でも特に重要だということがわかったということだ。自分は何に注意してプレーすればよいのか、どの点が大切なのか、そういうことを自分のプレースタイルからすると憧れである九鬼さんの口から直接に聞くことができた経験は、何にもかえがたい。

Mecir's Tennis (222) ラケット面が開かないために重要なこと

フォアハンドのフォワードスイングではラケット面が開いてはいけないのですが、開かないために重要なことがあります。それは、腰回転主導でスイングするということです。

手の力を抜き、腰の回転を主導で腕とラケットがそれについてくるスイングです。これにより、ラケット面がフォワードスイングで開かなくなります。

とはいえ、この打ち方は相手のボールが速い時には振り遅れに持つなります。したがって、それほど極端でなくてもよいのですが、最低でも腰の回転と腕の回転は同時でなくてはなりません。相手のボールが速くない時は、腰が先に回り腕が遅れるイメージになります。

また、腰の回転だけではパワーが不足する(ほとんど場合がそうですが)には背筋を使います。(目シールのストロークで上体が立っているのはその理由。)腰の回転→背筋→腕が出てくるという流れになります。

なお、このポイントは、特に弾んだ高い打点の場合や、相手のボールが速くない場合に特に有効です。逆に、低いボールや速いボールの場合には、腰、背中、腕は同時に出ていくイメージの方がよいです(振り遅れてしまうため)。

メシールのフォアハンドは、しばしば「腕が遅れて出てくる」と評されていました。これは、まさに、腰の回転が腕の振りよりも先である証拠です。


2014年3月27日木曜日

2014 ソニーオープン 錦織の快進撃

2014年のソニーオープン(アメリカ・マイアミ)での錦織のプレーは、快進撃と呼んでよいだろう。世界ランク21位の選手が、15位、4位、5位に勝ったのだから十分に評価できる。

4位のフェレールに勝った2日後に、5位のフェデラーにも勝利した。ともにフルセットマッチの試合だったが、錦織のプレーは2つの試合では別人のようだった。

フェレールのゲームでは恐る恐る打っていたボールを、フェデラー戦ではフルパワーで打ち込んでいたのだ。こんな世界のトップ選手でも、思い切ってボールを打てる試合と、アウト・ネットを気にしながらボールを打つ試合があるのだと思うと面白い。

それは、相手によるのか、自分の体調か、それともコートコンディションによるのか。おそらく、それらすべての組み合わせなのかもしれない。

このことは、アマチュアプレーヤーにも勇気をくれる。トッププロでもボールを100%の力で打てないことがあるのだ。アマチュアでそういうことがあっても、当たり前。言い換えると、試合で大切なことは、まずは「ボールをこわごわ打つのではなく、思い切って打つことができるように自分を調整する」ことだ。それがどうすればよいのかは、私にはよくわからないけれど。

フェデラーとの試合はゲームは競っていた(フルセットで第3セットも4-4まではタイ)にも関わらず、錦織の試合後のコメントは自信に満ちていた。それは、錦織にとってこの試合が楽しかったからに違いない。

最後のバックハンドクロスは、本当はリスキーで難しいショットだと思う。しかも、エラーすると、デュースになってしまう。しかし、錦織には躊躇は全くなかった。まさにエラーするという発想がないショットだ。

試合直後の錦織は、意外なほど落ち着いていた。むしろ、精神的苦しんだ試合のほうが勝利の喜びは大きいのだろう。抑圧されたコーラ瓶の空気が栓を抜いたときに爆発するように。試合を楽しんだ錦織は、勝利の喜びよりも自分のプレーができた幸せな感覚のほうが大きいのだろう。

ボールを強く打つことができれば、コースやコーナーを狙うこともできる。そうすれば、テニスは楽しくなる。エラーするのではないかというマイナス思考ではなく、どうやってポイントを取るかというプラス思考でプレーできる時ほど、テニスは楽しいことはない。

昨年のウィンブルドンで私は「錦織は優勝する有資格者」と書いた。今回のソニーオープンでは、「有資格者」どころか「候補者」といってよいだろう。次の試合はジョコビッチだが、フェデラー戦と同じように錦織がボールを打ち切ることができるなら、勝利するチャンスは十分にあるだろうし、それよりも、なによりも、錦織自身が試合を楽しむことができるだろう。

2014年3月3日月曜日

Mecir's Tennis (221) サーブレシーブのTIPS

レディーポジションは「女の子のもじもじポーズ」ですが、その際に、ラケットとへその距離を少しとります。そして、ボールが飛んでくるときに手を体にひきつけます。

これによって、むしろ体が前に出てステップインする力になります。

ステップインを足で行うと、バランスが微妙に変わります。それよりも、腕(手)を引き付けることでそれをステップインの力に変えてしまうのです。

同時に、それはテイクバックのスタートにもなります。静から動はどのスポーツでも難しいですが、手の引付により、レディーポジションという静からステップインという動に簡単に移ることができるのです。

Mecir's Tennis (220) ただ一つ守るべきこと

相手のボールによって、フォアハンドはいろいろです。

ボールが遅い場合、よく跳ねる場合はテイクバックを大きくとるでしょう。腰を十分にひねって体の横、遅い打点でボールを打ちます。

相手のボールが低く速い場合、特に相手のボレーに対するパッシングショットでは右肩はあまり深く入らず、オープンスタンスで打点も前になります。

相手のボールによって、フォアハンドの打ち方は変わります。が、変わらないことが一つあります。

それは、テイクバックでラケットヘッドがネット方向を向くという脳内イメージです。どんなことがあっても、それがショートラリーの練習であっても、テイクバックでのラケットヘッドはネット方向を向きます。

どんなことがあっても、ラケット面を開いてはなりません。大げさに言うと、テイクバックではそのことだけを考えていればよいぐらいです。

それを達成するイメージとしては、体ではなくラケットを中心に考えることです。テイクバックでは、ラケットを固定してしまい、それに合わせて体を動かせばよいのです。ラケットは両手でしっかりと位置を固定するイメージです。

2014年2月2日日曜日

2014年 デビスカップワールドグループ1回戦 添田の役割の大きさ

何度も書くように、私はテニスを見るときにナショナリズムとは無縁なのですが、デビスカップは例外です。国対抗戦ですので、テニスのプレーを楽しむというよりも、好きな国を応援する意識になります。

デビスカップはよくできていて、最低で2名でも戦えます。ダブルスとシングルスが別のプレーヤーの場合はシングルス2名、ダブルス2名の4名でも戦えます。

シングルススペシャリスト2名とダブルススペシャリスト2名がもちろん一番良い布陣ですが、たった一人のプレーヤーでも突出していれば勝ち上がれるのがデビスカップの面白いところです。そのプレーヤーがシングルス2勝して、さらにダブルスでも勝てばよいわけです。

選手層が厚い国で、特にダブルススペシャリストを有する国は有利です。ダブルスでの勝利を計算できると、シングルスプレーヤーの一方がランク・レベルが低くても勝ち上がるチャンスが大きくなります。

もちろん、強いシングルスが2枚あると圧倒的に有利です。しかし、シングルスは体への負担が大きい(とくにデビスカップはタイブレークなしの5セットマッチというもっとも厳しいルール)ために、強いシングルスを2枚そろえるのは容易ではありません。

一般的な個人戦とは違い、国のテニス協会やキャプテンの役割がかなり大きいのがデビスカップです。どのようなメンバーで戦うかが、勝ち上がるためのの最も大きなカギになります。

今の日本チームは、突出した一人のプレーヤーに依存するタイプになっています。もちろん、そのプレーヤーは錦織です。錦織がシングルスで2勝することが勝利の条件になります。さらに、ダブルスにも出場して、そこでも勝たなければ3勝できない(勝ち上がれない)という状況です。

そう考えると、錦織に続くプレーヤーの重要性がよくわかります。もう一人のシングルスプレーヤーが「絶対負ける」という状況であれば、錦織にかかる負担は大きすぎます。たとえ2割でも3割でも、小記す可能性があれ、No.1プレーヤーはそれだけ負担が小さい中で戦うことができます。

その意味では、今の日本では添田豪の役割はもっとも重要です。添田が少しでも勝つ確率を上げることができれば、錦織は負担が減り、デビスカップにかける時間を増やすこともできるでしょう。(逆に、デビスカップが負担になりすぎたり、それが故障につながったりすると、錦織自身がデビスカップに参加できなくなります。)

今回のデビスカップ1回戦では日本が3勝を挙げて、2回戦進出を決めました。最終戦はエキシビションマッチですが、添田がカナダのポランスキーと対戦しました。

添田のプレースタイルは、ポランスキーや錦織とも比較的近いグランドストロークを主体とするプレーで、見ている限り、合理的なフォームで強くボールを打つことができるスタイルです。今、世界ランキングは140位台のようですが、これだけのテニスでも100位に入れないことに、男子テニスの世界の壁の高さを感じさせます。

体を合理的に使えることは、体格的に不利な日本人には大切なことです。添田は錦織よりも5つほど年上ですが、錦織よりも早くから合理的なテニスフォームを身に着けていたようです。もしかしたら、添田の道を錦織が辿っているのかもしれません。

私は(おそらく素人だからだと思いますが)添田と錦織のプレースタイルそのものには、それほど大きな差を感じることができません。もちろん、錦織の球際の強さは添田の比ではないですし、またプレーのイマジネーションの深さは添田は錦織にはかないません。ただ、小さなテイクバックから腕力ではなく体の回転でボールをヒットする基本的なボールを打つフォームそのものは、二人は似たタイプだと思います。

30歳を前にした添田には厳しいかもしれませんが、添田に求められるのはフィジカルの強さかもしれません。強引なプレーをするための体力ではなく、合理的なフォームを維持するための体力が必要だからです。それは、添田のテニスを長持ちさせ、ランキングを上げるためにも大切なことかもしれません。

2013年のデビスカップで大躍進したカナダですが、ラオニッチが出場できないというだけで(実績的には)格下の日本に敗退することになりました。同じことが、錦織が出場できないだけで日本にも起こりえます。そうならないための対策として、シングルス・ダブルスともに全体の底上げは必須でしょう。

2014年2月1日土曜日

Mecir's Tennis (219) 腰の回転の次に何を回転させるか?

フォアハンドにおいて、フォワードスイング(前半)では腰の回転でリードするということを何度も書いています。一方で、腰の回転だけで打つ脳内イメージは間違えています。

腰の回転では、微妙なコントロール無理です。

では、フォワードスイング中盤から後半にかけて回転させるのはどこでしょうか?

答えは、腕ではありません。肩です。腰に続いて、肩を回転させます。腕については、ひじや手首は、固定します。がっちりと固定するのではありませんが、ひじや手首は使わないと追っているほうがよいです。

肩の回転というのは大切な割にはあまり注目されていないような気がします。現代テニスでも、腰の回転の次は腕を使うイメージがあります。

メシールのフォアハンドでは、腰でフォワードスイングを始めたら、その次には(ひじや手首を使わずに)肩を回転します。

Youtubeのメシールのふぉわハンドのスローモーション(こちら)を見てください。肩を支点に腕が回転しています。また、腕の(ひじの)角度はフォワードスイング内で(肩を中心に回転している間)あまり変わっていません。

腕を肩を支点として回転させる場合、肩甲骨よりも腕の付け根の体の前側の金忍苦を使う方がイメージが正しいと思います。すでにフォワードスイングが始まって腰の回転で進んでいますので、さらにそれを前に引っ張るには前側の筋肉が最適です。この筋肉の名前は、筋肉に関するサイトによると大胸筋というそうです。

腰の回転でフォワードスイングを始めたら、次は大胸筋で肩を引っ張って回します。

この2つの回転を正しくすると、以前「腕の力を抜くこと」で書いたように、腕に力を入れる必要がなくなります。実際、コート上で試してみると、肩を回すという感覚があれば、腕にはほとんど力を入れなくても重くコートに突き刺さるボールを打つことができます。

また、フォロースルーが明らかに大きくなります。その結果、ボールコントロールの精度が上がります。

腕に力を入れてはいけないですし、また入れる必要もないのです。

2014年1月27日月曜日

Mecir's Tennis (218) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その5) スイングのパワーはどこから?

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」
Mecir's Tennis (215) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その2) 1980年代後半のメシールのフォアハンド

「Mecir's Tennis  改めてフォアハンドテイクバックを考える」(1)〰(4)において、ラケットヘッドをネットに向けてテイクバックすることの重要性を書きました。これをコートで試しすと、特にそれまでテイクバックでラケット面が開いていたプレーヤーの場合には、ボールのパワーが極端に落ちると思います。

スピンのかかった安定したボールは打ちやすくなりますが、同じ打ち方をしていては、ボールの力が落ちるはずです。(それまでは、ボールをラケット面に垂直にあてることでパワーを得ていたのですから、当然かもしれません。)

では、どこからパワーを得ればよいでしょうか。

テイクバックを大きく、または自由にする(力を抜く)ことかと思います。腕の力を抜き、ゆっくりと大きくテイクバックを取ることで、ボールにパワーを与えやすくなります。ラケットヘッドがネットを向いている限り、テイクバックを多少大きくとることには問題がありません。また、(もし、これまでの打ち方が右わきの締まった打ち方をしているのであれば)多少は脇が空いても大丈夫です。

右腰と右足です。つまり、スイング状態に頼らないように、右足、そして腰の回転でしっかりとフォワードスイングをして、しっかりボールを運ぶことです。その際、スイングそのものでボールにパワーを与えようとすると、ラケットスイングが速くなりすぎてしまいます。スイングスピードを上げるのではく、足と腰でボールを運ぶ意識が必要です。

力を入れようとして状態が傾くことはNGです。状態はあくまで地面に垂直になります。背中の軸をしっかりとまっすぐ立てて体を回転します。

次に、ラケットを下から上に振り上げることです。ボールをスピードで打ち込むのではなく下半身で運ぶイメージのためには、ゆっくりと振っても大丈夫だという安心感も大切です。そのためには、ラケットスイングを下から上にすることで、確実にネットを超え、かつベースライン近く深くバウンドするボールが有効です。

ラケットの重さを信じることも有効です。メシールのラケットはかなり重たかったそうですが、この重さがボールを運んでくれます。逆に、そのために、重いラケットを使っているのです。

腰の回転で行うテイクバックを早めにとることも有効です。それによって時間の余裕ができ、腰の回転によりフォワードスイングをリードできます。テイクバックが遅れると腕でスイングをすることになり、ラケット面をボールに垂直にあてたくなります。その方がボールにはパワーが伝わるからです。

情をまとめると、次のようになります。「早めに右足を決めて腰の回転でテイクバック・フォワードスイングをリードすること。瀬長が丸まらないようにしっかりと地面に垂直に立てる。ラケットヘッドがネットを向いていれば、スイングは比較的自由に振ってもよい。低いボールは下から上に、高いボールは水平に。ただし、ラケットスイングが速くならないように気を付けること。」

Mecir's Tennis (217) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その4) ヘッドがネット方向を向いていれば何をしてもよい

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」
Mecir's Tennis (215) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その2) 1980年代後半のメシールのフォアハンド

Mecir's Tennis (216) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その3) ラケットヘッドはどこを向くかにおいて、ラケットヘッドがテイクバックでネット方向を向くフォアハンドの練習方法を説明しました。

しかし、実際のグランドストロークでは、テイクバックでラケットをロック(セット、固定)することはできません。それでは、ボールに威力を与えることができません。テイクバックをなくすことはできません。

しかし、繰り返しますが、そのテイクバックでラケット面を開くことは許されません。言い換えると、ラケットヘッドはネット方向を向き続けなくてはなりません。

テイクバックでのラケットの動きを、許される方向(OK)と許されない方向(NG)に分けると、次のようになります。
  • OKな方向
    • ラケットヘッドはネット方向を向いたまま、(ラケットを伏せた状態で)ラケット面方向に動かす。
    • ラケットヘッドをネット方向に向けたまま、ラケットの中心軸方向にラケットを動かす。
    • ラケットヘッドをネット方向に向けたまま、ラケットのフレーム方向(ラケット面を含む面内で)にラケットを動かす。
これらの方法は、すべて、ラケットヘッドはネット方向を向いています。つまり、これら3つの方向、およびそれらの組み合わせではどんな動きをしても構わないのです。実際メシールのフォアハンドテイクバックは、ボールに合わせていろいろな動きをしています。
  • NGの方向
    • 体の回転に合わせてラケットヘッドを扇型方向に動かす。(ラケット面がだんだん開いてしまう。)
体の回転に対してラケットを動かしていないのでよいテイクバックのように思いますが、正しくありません。ラケットヘッドは、体に固定すると勝手に後ろ向きになっていくです。

Mecir's Tennis (216) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その3) ラケットヘッドはどこを向くか

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」
Mecir's Tennis (215) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その2) 1980年代後半のメシールのフォアハンド

フォアハンドのテイクバックでのラケットヘッドの向きの脳内イメージは、「テイクバックの間、ずっとネット方向を向く」です。テイクバックで体が開店することを考えると、「肩を結ぶ線と平行である」でもよいかもしれません。

そして、なんとしても「テイクバックでラケット面が開く」ということを阻止せねばなりません。どんな場合でも、テイクバックでラケット面が開いてはいけないのです。これは、絶対に守らねばならないことです。

一方で、テイクバックは腰が回転します。ここに、イメージを誤りやすい点があります。もし、レディーポジションでラケットヘッドがネット方向(0時方向)を向いているとすると、テイクバックでフォアハンド側に腰を90度回したらラケットヘッドも3時方向を向いてしまいます。(テイクバックは腰で回転して、手を使いません。)そのままテイクバックを続けると、ラケットヘッドは0度(ネット方向)からどんどん後ろを向いてしまいます。

それを避けるためには、以下のような脳内イメージが有効です。

テイクバックをする間、ラケットはそのままネット方向を固定した状態でロックします。腰は時計方向に回転します。テイクバックトップからフォワードスイングに入ると、腰の回転は逆時計回りに回転します。ある段階に入るとちょうどラケットを振り出す位置に腰が戻ってきます。

そのタイミングでラケットを振り始めるのです。つまるところ、腰が回転している間、ラケットの動きを止めておくわけです。

こんな打ち方ができるのかと思うかもしれませんが、例えば、一番最初に良く行うショートラリーで試してみるとよいと思います。意外に簡単にできます。そして、これにより、①ラケットヘッドがネット方向を向いたままスイングするイメージ、②腰の回転でテイクバックからフォワードスイングをするイメージをつかむことができます。

この打ち方は、また、アプローチショットで使うことができます。アプローチショットは、イースタングリップでは、スピン量を増やすという打ち方をしませんので、「テイクバックを小さく、フォワードスイングを大きく」が有効です。その時に、ラケットをロック(セット)してしまうとラケットスイングのブレが小さくなり、コントロール精度が上がります。

Mecir's Tennis (215) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その2) 1980年代後半のメシールのフォアハンド

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」の続き

では、メシールはどうだったでしょうか。メシールの選択は、この中でとてもユニークだったように思います。

メシールは、この時代の最後のウッドラケットプレーヤーであったにもかかわらず、ウッドラケットのフォアハンドの呪縛にはかかっていませんでした。マッケンローやエドバーグがグラファイトラケット時代になってウッドラケットの呪縛から抜け出すことができなかったのに、ウッドラケットを使い続けたメシールは苦しまなかったことは、面白いと思いませんか?

これはどういうことかというと、メシールはジュニアのころから近代的なフォアハンドを身に着けていたということです。よく、海外の解説者がメシールの試合で「まるでクラブプレーヤーのようだ」と称していたのは、正しくありません。クラブプレーヤーの多くは、テイクバックからフォワードスイングでラケット面が開いて打つ打ち方です。そして、そのようなプレーヤーは、ほぼ間違いなくあるレベルから上に行くことはできていません。

メシールは、テイクバックで決してラケット面が開きません。言い換えると、ラケットヘッドは決して6時方向には向きません。(ましてや、7時、8時方向を向くことはありません。)

その代わりに、メシールは腰の回転を使いフォワードスイングをするわけです。ラケットでスイングしたい気持ちを抑え、フォワードスイングを腰の回転でリードします。これは、現代テニスでは誰もがすることですが、1980年代後半のテニスでは容易なことではありませんでした。飛ばないラケットであるウッドラケットのプレーヤーはむしろ腰の回転でボールを打つ習慣があるだろうと思うかもしれません。しかし、そのことよりも、ボールをラケット面に垂直に打つことでパワーを得るという習慣が邪魔をしたのです。この方法でパワーを与えるためには、フォワードスイングからラケット面が開きます。言い換えると、ラケットヘッドが6時の方向を向きます。

ウッドと比べてはるかにパワーがある(ボールが飛ぶ)グラファイトラケットの出現が、皮肉にも、イースタングリッププレーヤーを苦しめたのです。

メシールが、ラケット面の小さいウッドラケットで、なぜラケット面が開かないフォアハンドを身に着けたのかわかりません。当時のトッププロには珍しい190㎝もの長身がパワーの助けになったからかもしれません。重いウッドラケットの特性を無意識に活かそうとしていたのかもしれません。

ぜひ、本人から聞いてみたいものです。

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」

Mecir's Tennis (209) プロのテイクバックではラケットヘッドが後ろを向かない理由において、フォアハンドテイクバックではラケットヘッドが後ろを向かないことの理由について書きました。

このところ、ずっと、そのことを考えている。「イースタングリップのフォアハンドで最も大切なことと、つまりもっとも守らなくてはならないことは、テイクバックでラケットヘッドが後ろ(6時方向)を向かないことなのではないだろうか」と。

言い換えると、脳内イメージでは、テイクバックではラケットヘッドは常にネット方向(0時方向)を向いていなくてはなりません。

このイメージが、フォアハンドでは、何よりも大切なのではないだろうかと思うのです。なぜなら、イースタングリップのフォアハンドでは、ラケット面がボールに垂直に当たってはいけないからです。

ラケットがウッドからグラファイトにほぼシフトしたメシールの世代は、イースタングリップ多難の時代でもありました。ボールが飛ばないウッドラケットではラケット面がボールをまともにとらることが、むしろちょうどよかった時代がありました。その時代は、基本的なイメージとしては、ラケット面がボールと垂直になり、ラケット面はボールをまともに捉える打ち方がベストでした。

しかし、ラケットがグラファイトに移行し、アマチュアでさえ高速なボールが打てるようになって、ラケット面とボールが垂直に当たる時代は終わりを告げました。その移行期が、ちょうど1980年代の後半だったのです。

メシールがプレーヤーであった1980年後半は、ラケットはほぼグラファイト系に移行しましたが、選手たちはウッドラケットで育った時代でした。厚い当たりでフォアハンドを打ってきた選手たちは、グラファイトへの移行に苦しみました。

コナーズは厚いグリップでしたが、スイングとしてはボールに対してラケット面を垂直当てるスイングでした。コントロールしにくいこの打ち方を、コナーズは脚力(フットワークという意味と、腰を落としてスイングのぶれを極限まで小さくするという意味)で補いました。が、年齢の衰えと同時に、この打法はだんだんと通用しなくなっていったのです。

マッケンローは、テイクバックをほとんど取らないことでこの問題に立ち向かいました。マッケンローのフォアハンドは、感覚としてはフォアボレーのようでした。ラケットをセットするとほとんどテイクバックを取らずにラケット面の操作だけでボールの方向や球質をコントロールします。この方法は、ラケット面を作ることに天才的なマッケンローでのみ許される方法でした。比較的スピードの速い単調なプレーヤーに対しては有効ですが、緩急をつけるプレーヤーや、極めて速いボール(全盛期のベッカーやレンドルなど)に対しては難しいスタイルです。

エドバーグは、もっともフォアハンドに苦しんだ選手だと思います。イースタングリップであるにもかかわらずテイクバックで面を伏せて、スピン系のボールを打とうとしました。これは、かなり不安定なストロークになり、エドバーグはテイクバックの大きさを大きくしたり小さくしたりすることでこれに挑みましたが、最後まで安定したフォアハンドストロークを打つことはできませんでした。

ベッカー、ヴィランデル、チャンなどは、おそらく若いころからグラファイトのラケットを使っていたのではないかと思います。スタイルはいろいろですが、ウェスタングリップとテイクバックでラケット面を伏せて下から上に擦りあげるスイングでヘビースピンのフォアハンドプレーでした。




2014年1月26日日曜日

2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(番外編) 号泣

「今までのナダル戦の中では一番手応えを感じスコア的にも惜しいところまでいきました。」「そのせいか試合後は悔しさを感じずにはいれませんでした。ちょっと恥ずかしい話ですが試合後シャワーを浴びながら号泣。久しぶりにこんなに悔しかったです。」

オンラインニュースに、《錦織、ナダル戦後「シャワー浴びながら号泣」<全豪オープン>》という記事が出ていた。錦織のブログをフォローした記事のようだ。

これまで、数えきれないほどのプロスポーツ選手がトップ選手に挑戦し、敗戦直後にシャワールームで号泣してきたであろう。珍しい話でも何でもない。それが記事なるのはやりすぎというのか、うらやましいというのか…。それだけ錦織が注目されているということだろうが。

「一番悔やむのは3セット目5-4の自分サーブのゲーム。思い出すだけでも苦しいです。ここまで善戦して1セットも取れないことが自分としては許せませんでした。」

2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(2) 意義ある敗戦に書いたが、このゲームは、テレビで観戦していても、本当にがっかりのゲームだった。たとえ敗戦してもナダルから1セットを取るのは、単にゲームが競るからではない価値がある。つまり、試合全体から見ても、そのセットから見ても、錦織の試合の組み立てが奏功し、将来に対しての可能性を証明できるということだ。

おそらくこのセットを取れば、錦織は、試合後にも将来に向けての明るいビジョンを持てたことだろう。自分の戦略に自信が持てたことだろう。

「今でもたくさんの人がいい試合だったと言ってくれますが、いいプレーをしただけでは勝てないんですよね。この試合で自分に何が足りないのかが全く見えなくなった気分です。少し悩んでるんですかね。」

私には、このメッセージが、第3セットを5-4で自分のサービスゲームをアンフォースド・エラーの繰り返しで落としたことからくるように見える。錦織の戦略は決して間違えていないのに、その戦略の上でこんなゲームをしてしまうことで、戦略そのものが正しいのかどうか、自信がなくなってしまっている。もちろん、マイケル・チャンがその部分はきちんと伝えるのだろうが。

 2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(2) 意義ある敗戦
⇒ 2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(1) 錦織の戦略