昔(確か1986年)にジャパンオープンでメシールと対戦した福井烈選手(今はNHKのテニス解説者として知られていますね)が、メシールを評して、こんな風に言っていました。
「素人にいるじゃないですが、振り遅れてスイングする人が。メシールはあれなんです。あ、振り遅れたなと思ったらすごく回転の良いボールが返ってくる。」
これは、どういうことでしょうか。今回は、このことについて考えてみます。
メシールのスイングは、まず右足が回転し、右ひざが回転し、次に右腰が回転し、肩と腕が一緒に回転してスイングを構成します。この順番が、ほんのわずかにずれています。力が、足からだんだん上半身に伝わってくるイメージです。
ずれは少しずつですが、結果的には最初から最後までが大きなずれになります。「ラケットが遅れて出てくる」ようなイメージです。これが、メシールのスイングが振り遅れたように見える(打点が遅れているように見える)理由です。
ここで、大切なことが一つあります。それは、上に書いた「肩と腕が同時に回転する」という部分です。忘れていけないのは、腕です。
腕は肘を境に、肩に近い方を上腕(じょうわん)、手の方を前腕(ぜんわん)と言います。そして、肩と同時に回転するのは上腕だけなのです。前腕は、上腕からさらに遅れて回転します。このことがとても大切です。
もし、上腕と前腕が肩と一緒に回転するとすると、それはとても「硬い」スイングになります。このスイングをする選手が昔いました。それは、アメリカのジミー・コナーズです。コナーズは、肩と腕(上腕および前腕)を同時に回転することで、ブレの少ないスイングをしました。こちらの動画像を見てください。見事なまでに、肩と腕が一体になって回転しています。
この打ち方はスイングのブレが少ない代わりに、大きなリスクがあります。それは、スイングに遊びがないということです。また、スイングに強弱がないため、打ったボールに伸びを与えることができません。コナーズのフォアハンドでは、それを補うために体を大きく回転します。コナーズは、多くの場合にジャンプしながらボールをヒットすることで、ボールにパワーを与えようとしました。それは、安定感とボールのパワーを両立させるための、コナーズの工夫だったのだと思います。
実は、最近のウエスタングリップのフォアハンドは、やはり肩と腕が一緒に回転します。例えば、錦織圭のフォアハンドを見てください。ボールがヒットする直前までは、ほぼ、肩と腕が一緒に回転しています。錦織はヘビーウエスタングリップですが、グリップが厚くなればなるほど、この傾向が強くなります。
メシールのような、イースタングリップで柔らかいフォアハンドは、どうやって実現するのでしょうか。そして、なぜメシールのスイングは振り遅れているように見えるのでしょうか。
その答えは、上に書いた通り、肩と上腕の回転から前腕の回転を少し遅らせることにあります。言い換えると、ボールをヒットするときに前腕は上腕よりも遅れて出てきます。
メシールのフォアハンドを見てみてください。肩と上腕が一体になって回転し、前腕が上腕より少し遅れて出てくるのがわかると思います。そして右ひじは常に曲がっています。これは、そこにゆとりがある証拠です。
前腕が上腕よりも遅れるということは、前腕の動きは上腕に支配されないということです。前腕には自由度が与えられます。その自由な腕の動きで、ボールを押し出すことができます。または、ボールに下から上への回転を与えることもできます。つまり、ボールをここで操ることができるのです。
前腕がボールを操ることができることは、ウエスタングリップのフォアハンドにはできないことです。微妙なずれがボールコントロールに影響するテニスのスイングで、こんな自由が許されるのは、そこまでのお膳立てがしっかりしているからです。足、腰、肩、上腕の回転がきちんと連動しているおかげで、最後の前腕には自由度が与えられます。
乱暴な言い方をすれば、「すべてのお膳立ては前腕に自由度を与えるため」だったのです。上腕と前腕を固定してしまっては、せっかくのお膳立てが台無しです。最後の最後に、前腕を遅らせてスイングしてください。その代わりに、そこで、自由を満喫するのです!
メシールとコナーズのゲームをこちらで見ることが出来ます。両者の違いがよく分かります。
メシールのフォアの謎がすこしわかりました。ありがとうございます。
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