テニスのスイングはゴルフのショットや野球の打撃などと比較して、フォームのセオリーが確立していないスポーツだと言われています。止まって打つことができるゴルフや野球のバッティングと違い、移動してから打つ(または移動しながら打つ)ことや、ボールを打つ範囲が広いこと、また飛んでくるボールを打つことなど、ボールとスイングの関係が複雑だからでしょう。
空間3次元と時間(つまりタイミング)の4次元でボールを打ち返す正確さがスイングに求められるのがテニスの特徴であり、また難しさです。
多くの教科書はあるものの、実はそれらもまだ試行錯誤の段階であり、絶対的な教科書がないのが世界のテニス界の現状です。実は、テニスの教科書はトップ選手を追いかけます。教科書がトップ選手を作るのではなく、トップ選手たちが教科書を作っているのです。正しいフォームを身に着けたらトップランカーになるのではなく、トップランカーが正しいフォームを決めているのです。そのために、テニスの技術には「流行」が発生します。つまり、その時その時で、時代とともに教科書の内容は変わり、いまだに何が正しい技術なのかを理解している人がいないのがテニスです。同じサイズのコートで、同じ規格のボールを使い、同じ規格のラケットを使っているにもかかわらず、です。(ラケットはずいぶん進化しましたが。)
このブログでは、現在の教科書を追いかけるのではなく、1980年代後半のメシールのテニスを分析してきました。そして、私自身がその技術を実証するために、コート上で試行錯誤してきました。
その経験の中で最も難しいと感じることの一つは、「ピースが一つでも足りないジグソーパズルは未完成である」ということです。部分部分は正しいフォームであっても、たった一つが足りないために、スイング全体としては0点になってしまうことがあります。
これは、特にテニスという複雑なスイングにおいては無視できないジレンマです。どこかで妥協して60点のスイングで納得するか、あくまで100点を目標にしてそれまでは0点でも我慢するか。
先日、あるテニスのインストラクターと話す機会がありました。そのインストラクターは、私に前者を勧めました。おそらく、ほとんどのインストラクターやコーチは、前者を勧めるでしょう。そして、60点を70点に、70点を80点に積み上げていけばよい、と言うでしょう。
が、私はそれを良しとしません。なぜならば、60点のフォームを70点にアップグレードすることはそんなに簡単ではないからです。多くの場合、60点のフォームを70点にするために、一度0点に戻すか30点に戻すか、これまでのフォームの多くの部分を解体しなくてはならないことがあります。
テニスのフォームは、積み上げ型ではありません。積み上げ型であれば、10点分を単に足し算すればよいのですが、そんな単純ではないのです。60点のフォームを完成させれば、多くの場合はそのまま60点のフォームでテニスをすることになります。70点に、80点に上げるためには、一度グレードダウンをする覚悟が必要です。その難しさを理解せずに、テニスの上級者は簡単に「上達」という言葉を使います。
テニスのフォームを理解する際に大切なのは、最初から「ピースが欠けたジグソーパズルは0点になる可能性がある」ことを知っておくことだと思います。「理屈では正しいはずなのに、ボールが思うように飛ばない」のであれば、ほかに修正個所があるということです。そこで、せっかく正しい部分を調整して、結果的に60点のフォームにならないように気を付けたいのです。
正しいフォームを一つ一つ積み上げること。そして、完成までは安易な妥協をしないこと。これがテニス技術習得において重要なことなのではないかと考えています。
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