2020年10月22日木曜日

Mecir’s Tennis (289) フォアハンドストロークのサマリ:フォアハンドで強くボールをたたく方法

 これまでのサマリのため、強くボールを打つという視点で、グランドストローク(フォアハンド)のポイントを整理しましょう。結論から先に言うと、ボールを強くたたく力は腕ではもちろんなく、背筋でもなく、両方の肩甲骨です。これはメシールのフォアハンドでは上体が地面に対して垂直に立っていることと関係があります。

  • テイクバック
    • テイクバックはラケットを手で引かず右腰を回転させます。それに伴い肩や手が回転します。そのために、右手(ラケット)は右腰に追随させるイメージが重要です。侍が刀を抜くイメージです。右腰の回転に合わせて後述の左肩の回転も重要です。右腰につられて右肩が回転しますので、右肩と左肩の直線状態を維持するためには左肩も回転せねばなりません。
    • テイクバックではひじからラケットを引きます。ただし、手で引くのではなく、右腰の回転で引きます。その結果、右腕は、体の近くに”くっついて回転(ぴったりくっつけるわけではない)”します。レンドルのテイクバックでも見られるラケットの引き方です。
    •  テイクバックの際には、右肩甲骨をできる限り引きます。ここが重要です。右ひじを引くのにあわせて、右肩甲骨をしっかりと引きます。(これもレンドルのテイクバックでよく表れています。)
    • テイクバックにおいて、左肩は右肩と直線を維持するため、一緒に回転します。テイクバック開始時に左手をラケットに一定時間は添え続けることで右肩と左肩の同時回転を支持します。(左手をラケットに添えることを怠ると、右肩と左肩がバラバラに動いてしまい、安定感を欠くフォームになります。)例えば左手をボールの方に伸ばすイメージは必ずしもよくありません。スペインのフェレールのフォアハンドに安定感を感じないのはその理由です。ただし、いったん左手を添えてテイクバックをしてから左手を前方に伸ばすことは問題ありません。低くばウドするボールに対しては有効でしょう。(ソウルオリンピックの試合前練習のメシールのフォアハンドなど。)
    • テイクバックが完了したときには、左肩は1時の方向(右肩が7時の方向にある限り12時の方向よりも深く入る) を向いています。右肩甲骨は背中側に押し出され(そのために上体が立ち)、右ひじも背中側に突き出しています。
    • 両肩甲骨を引くことで、上体が自然に地面に垂直に立ちます。なぜだか理屈はよくわかりません。両方の肩甲骨を引くイメージを持つと、自然に上半身が地面に垂直に立ちます。この状態がまっすに立った形で(右ひじを伸ばさず)スイングすると、ボールをしっかり打つことができます。力加減をする必要がありません。背筋に力を入れません。あえて言うなら首の後ろあたりの筋肉に力を入れます。
    • テイクバックトップでは左肩が入っており、右腰が引かれているので、いかにもボールを呼び込むようなイメージになっています。この呼び込むイメージも重要です。相手のボールが速い場合にはこのイメージを作る余裕はないのですが、可能な限りボールを呼び込んで打つことが有効です。
  • フォワードスイング・インパクト
    • 折れた右ひじをまっすぐ伸ばさず、右ひじを折り畳んだ状態で体と一緒に回転させたままフォワードスイングします。体の回転に対して右腕を固定しているイメージです。強くボールを打ちたい場合にどうしてもここで右ひじを伸ばしてしまいがちですが、できるだけ右ひじを伸ばしてはいけません。
    • インパクトにおいて、右ひじを伸ばすこともできますし、右ひじが曲がったまま打つこともできす。ここで初めて、右ひじに自由度が与えられます。相手のボールが遅い場合はインパクトで右ひじを伸ばすイメージですし、速い場合には右ひじは曲げたまま打つイメージです。
    • フォワードスイングからインパクトにおいて、上体を立てます。両肩甲骨に力を入れると、自然に上体が立ちます。この状態が立つという点がメシールのフォアハンドでは重要です。
    • フォワードスイングの最後には、背中側に引かれた右肩甲骨はリリースされていますが、その代わりに左肩甲骨を背中側にぐっと引きます。右肩甲骨を左肩甲骨で入れ替えるイメージです。その結果、左側(左肩)にいわゆる「壁」ができます。メシールのフォアハンドでは、左側の壁は肩甲骨で作るのです。メシールのフォアハンドにおいて、どのような場合でも左肩甲骨での壁(=左肩甲骨と左ひじが背中側に引かれている)状態が崩れている例はありません。
    • 頭や目を含めて上体が立つことをイメージしてスイングします。その結果、ボールを強く打ってもバックアウトしません。また、自分が思う方向にボールを運ぶことができます。肩甲骨に力を入れることで、上体を立たせることができます。上体が立ったまま体を回転するイメージを身につけます。
  • 相手のボールが遅い場合の対処法(例えば遅いセカンドサーブのリターン)
    • 時間に余裕がある場合には、まず先にテイクバックを開始して、ラケットをテイクバックトップの状態に固定(セット)してしまいます。ここで無理にラケットスイングを始動する必要はありません。右肩甲骨と右ひじが引かれた状態で、左肩が1時の方向(右肩は7時の方向)に固定した状態を先に作ります。そのあと(またはその作業と並行して)、フットワークを使って打ちやすいところにステップワークします。そうすると、すでにテイクバックされた状態で、ボールを打つ態勢が完成します(ボールが遅い場合は、まだボールはこちらまで来ていません。)これは、いわゆる「間」となるわけです。余裕がある場合には、ボールを呼び込んで打つイメージとなります。なお、テイクバックは完成しているので、そこで余計な動きは不要です。タイミングに合わせてフォワードスイングを開始するだけです。上記の通り、力(フォワードスイングのパワー)は肩甲骨からもらいます。右肩甲骨を戻す力です。さらに、左肩甲骨を引くことで左側に壁ができるので、オーバースイングの心配がありません。
    • 相手のボールが極端に遅くない(通常のスピード)であっても、この「テイクバックセット」は有効です。イメージとしては、ボールの飛球線上にラケット面がセットされているとわかりやすい(ただし実際にはそうではない)と思います。これにより、いつでもフォワードスイングをスタートできる精神的安心感を得ることができます。
    • 重要な脳内イメージとしては、足を動かして良いポジションに入ってからテイクバックの形を作るのではなく、先にテイクバックを作ってから移動します。ステップワークよりも先にテイクバックを作っていまうというイメージです。足を動かして良いポジションに入ってからテイクバックの形を作る場合、「もしステップワークが間に合わず、正しいテイクバックをとる時間が確保できなかったらどうしよう」という不安が常に付きまといます。その結果、遅いボールに対してスイングがバラバラになってしますというリスクジレンマがあります。後者では、すでにテイクバックしているのですから、その心配がありません。あとはどれだけよりよいポジションにステップワークできるかだけです。100点のポジションまでは至らない場合でも、ベストエフォートのポジションからフォワードスイングに入ることで、80点とか60点のスイングを確保できます。