2013年6月30日日曜日

Wimbledon 2013 錦織vsセピ

準決勝や決勝まで残っても不思議ではないと感じていた錦織のウィンブルドン2013だが、意外にも3回戦で終わった。足などの具合がかなり悪かったようで、4セット目から先のプレーは、明らかに肉体的な影響があるように見えた。相手がどんなに厳しい配球をしても、それをむしろ逆襲の始点としてしまう錦織のテニスでは、肉体的なトラブルは致命傷だ。驚くばかりにきめ細やかで繊細な配球が、錦織の最大の持ち味であり、肉体はその完成度を維持する基盤となる。

錦織は、これから(得意な)ハードコートのシーズンに入るが、怪我や故障が心配だ。精神的にもプレースタイルも充実しているようなので、それを支える肉体が万全であれば、必ず良い結果を出しそうに思える。

一方、私はセピのプレーを初めて見たのだが、メシールのテニスを愛する者としては、とても好きなプレースタイルといえる。セピのグランドストロークのボールは、あまりサービスラインの内側でバウンドしない。これは、セピがスピン系ではなくフラットドライブ系のボールを打つことを意味している。李娜(Na Li)もそうだが、原則的にはフラットドライブ系のプレーヤーが好きだ。

この試合を見ながら、メシールというプレーヤーは、このセピのボール質と錦織の配給を組み合わせたような選手だったなあぁと、ちょっと奇妙なことを考えたりした。セピも十分に素晴らしい配給をする選手だったが、錦織の(元気な時の)プレーは見ていてドキドキするような切り返しが随所にある。メシールも、(充実しているときには)すばらしい切り返しをいつも見せてくれた。特に、相手がスゥエーデンプレーヤーの場合に顕著だった。

ちなみに、セピは最近では珍しいプロケネックスの契約選手であり、同社のWebサイトでも紹介されている。セッピではなくセピとあるので、ここでもセピと書いた。

2013年6月29日土曜日

Wimbledon 2013 錦織は優勝する「有資格者」

2013年のウィンブルドンの1週目は、男女ともシードダウンが相次ぎ、波乱の様相を呈している。シードダウンと言っても、上位シードの有名選手がバタバタと敗退しているので、例年にない雰囲気が漂っている。

その中で錦織は順当にシードを守って勝ちあがっている。

メシールの「美しい」テニスを愛する私は、他の選手にも美しさを求める。美しいテニスをする選手が好きだ。

美しいテニスにもいろいろあると思うが、私が美しいと感じるのは体の使い方に関する場合が多い。理想的な、言い換えると効率的な体の使い方をするテニススタイルが好きだ。肉体のポテンシャルの高さに任せて強引な体の使い方をするフォームには、美しさを感じることだできない。

ナダルは、そのキャラクターを含めて尊敬をしているが、美しさを感じることができない。

私は、いいプレーをしているときの錦織は好きだ。それは日本人選手だからではない。日本人だから好きだというある種のナショナリズム(というほど大げさではないが)は、私には全くない。美しい選手は、美しい。それは国籍とは全く関係ない。

ただし、体型とは関係ある。日本人である錦織は世界のトッププロ選手としては、明らかに体型で見劣りする。限られた肉体の機能をフルに使い切ることができるのが、錦織の素晴らしい点だ。言い換えると、体をうまく使えなければ、錦織の将来はない。

錦織はうまく体を使う。特に、今年(2013年)の全仏、ウィンブルドンでは無駄の少ない、強引な打ち方をしない見事なフォームでボールに向かっていく。だから、つまらないミスショットが少ない。また、相手の良いボールであっても、それを上回るボールを返球することができる。

選手たちは、コートの上で、相手と戦うのではない。飛んでくるボールと戦っているのだ。飛んでくる千差万別のボール。遅いボールと速いボール。深いボールと浅いボール。素直な球質と厄介な球質。高いボールと低いボール。角度のあるボールとまっすぐに来るボール。球威の違い。回転の違い。

体を効率的に使って、この複雑怪奇で多種多様なボールに対応できるものが、最終的に勝利する。対応できるプレーヤーが、勝者というご褒美をもらえる。

私は、今年のウィンブルドンは、錦織にはそのご褒美をもらえる資格があるように思う。それほどまでに、錦織のプレーは美しくなりつつある。他の選手と比較しても、明らかに美しさが際立ってきている。

錦織が優勝できるかどうかは分からないけれど、優勝する資格があることだけは間違いない。少なくともシードは守れるだろうし、準決勝、決勝に進んでも違和感がない。

⇒ Wimbledon 2013 ナダルとフェデラーの早期敗退
⇒ Wimbledon 2013 開幕直前

2013年6月27日木曜日

Wimbledon 2013 ナダルとフェデラーの早期敗退(特に驚くことはなかった)

予想通り(?)、ナダルとフェデラーが早いラウンドで敗退した。誰が勝つのか、負けるのかを予想するためにブログを書いているのではないけれど、負ける時にはそれなりに理由があることが多いと思う。特定の試合の勝ち負けは相手にもよるが、トーナメントを勝ち上がれるかどうかにはそれなりの理由がつきまとう。

ナダルの初戦敗退は、私は全く驚かなかった。この早期敗退は、全仏オープンから伏線が引かれていたと思う。ナダルが2013年の全仏オープンのために払った代償は大きい。

フェデラーは、最後まで残るとは思っていなかったが、早いラウンドで敗退したのにはちょっと驚いた。何しろ、昨年のチャンピオンなのだから。ただし、今のフェデラーを支えているのは技術と集中力の総和だ。どちらかが少し欠けても、フェデラーの優勝はなくなる。リスクマネージメントがフェデラーの生命線であることを、昨年(2012年)のウィンブルドンの時に書いた。

第1セットしか見ていないが、フェデラーに勝ったセルジー・スタホフスキー(ウクライナ)は、今は珍しいサーブアンドボレーを中心とするプレーヤーだ。1980年代の懐かしいテニスを見ているようで、心地よかった。やはり、ウィンブルドンはサーブアンドボレーがよく似合う。

残念ながら、第2週目に入るとウィンブルドンの芝ははげていってしまい、ただでさえボレーヤーにとっては難しい最近の男子プロテニスでは、サーブアンドボレーは不利になる。スタホフスキーも最後まで残るのは難しいだろう。それでも、できるだけ長く見ていたいと思った。数年後から、全仏オープンと全英オープンの間が1週長く開くそうだ。選手の対応時間(クレーからグラスへの適応)や体力回復を考えてのことだろう。

だとしたら、是非、サーブアンドプレーヤーが対応できる工夫を考えてほしい。ボールがもう少し硬く、速くなれば、サーブアンドボレースタイルは増えるだろう。トーナメントごとにボールを変えることはできないだろうけれど。

芝がもう少しはげにくくなり、2週目にも芝が残っているようなコートであれば、選手のスタイルも少しは変わるのかもしれない。スタホフスキーには今年のウィンブルドンでは少しでも頑張ってもらい、サーブアンドボレーヤーが生き残るべきという議論が是非巻き起こってもらいたい。

Wimbledon 2013開幕直前(予想)

2013年6月23日日曜日

Wimbledon 2013 開幕直前(マレーとジョコビッチを中心に展開?)

ウィンブルドンの2013が開幕する。今年のウィンブルドンは、年齢などから来るフェデラーの(集中力の)衰退は避けれないだろう。ナダルは、あまりにもクレーにチューニングした全仏オープンのゲームを見ると、優勝は難しいだろう。結局、ジョコビッチとマレーを中心に、展開の早いゲームに対応できる第2群の選手たちが優勝を争うのだと思う。

五輪で同じ会場で優勝しているマレーと、オールラウンドなコートに対するプレースタイルを身に着けているジョコビッチ。どちらが優勝するのかは私にはわからない。個人的な気持ちだけで書くと、全仏オープンをスキップしてウィンブルドンに焦点をあててきたマレーよりも、全仏に参加してオールラウンドなスタイルで最後まで戦い抜いたジョコビッチに優勝してほしいような気がする。

GAORAでは、ウィンブルドンにあわせて、2010年のイズナーとマウーのウィンブルドン(というよりもテニス史上)最長試合を放送していたので、第5セットを途中から観た。途中と言っても30-30ぐらいからで、それでも1試合分よりも長い時間なのだからすごい。見始めた時はまだ明るかったのに、サスペンデッドになった時点で外は真っ暗になっていた。

2日目の最後の20ゲームほどは、イズナーは体力的に消耗しきっていて、アマチュア選手のようなプレーをしていた。しかし、それが興味深かった。

イズナーは、もう、足も動かず、最低限のステップワークとスイングでボールを打とうとしていた。それは、裏返すと、無駄をすべて省いた力の抜けたスイングになる。それが、(ミスもあるが)エース級のボールになって、面白いようにマウーからポイントを取っていく。

イズナーは、結局、ほとんどピンチを迎えることなくサービスをキープしていった。

イズナーだけではなく、今のトッププロは物心がつかない頃からラケットを振っているだろうから、体の動きを最も効率的に使ってボールを打つことができる。だから、どんなに疲れていても、一番大切な「ボールを打つ」ことに関しては(というよりも関してのみ)、失うことがない。

つまるところ、体が疲れた結果、ウィンブルドンという最高の舞台で、無駄のないスムーズなフォームを見ることができたわけだ。逆いうと、戦略のため、この基本的なフォームにいろいろなものを加えてゲームで戦っているわけだ。アマチュアの我々には、実は、この裸になった基本フォームが参考になる。ああいう力の抜けた打ち方でも、あれだけキレの良いボールを打つことができるのだ。よいフットワークとステップワーク、よいスイング、よいタイミングがあれば、十分に良いボールが打てる。アマチュアには、それで十分だ。

IBMの設定ミス(というよりも想定しないゲーム数)でLEDが消えてしまったスコアボード。夕暮れのオレンジ色になったコートで二人の選手がほぼすべての体力を失って、いちばん基本の力だけで戦っている様子。これが、この伝説の試合で、観客の記憶に残る映像だったのかもしれない。

2013年6月17日月曜日

Mecir's Tennis (170) サーブではラケットを速く振る(当然ですが…)

フラットドライブ系のグランドストロークでは、ラケットを押し出すイメージでボールをヒットします。この打ち方は、ボールコントロールができるために私はとても好きな打ち方なのですが、このイメージの弊害もあります。

それは、本来このような打ち方をしてはいけないショットも、つい、同じイメージで打ってしまうという事です。例えば、サーブがその例です。

スピン系サーブ(ヘビースピンではなくても)については、内転・外転の重要性などがあちらこちらで書かれていますが、もっと基本的なこととして、ラケットを速く振るという事があります。ラケットをゆっくりと振っては、どんなに正しいフォームでサーブを打っても、ボールにはスピンはかかりません。ラケットを速く振る、つまり腕に力を入れてラケットを振ることは必須です。(腕に力を入れることは、ラケットがボールを厚く打つという事とは関係ありません。サーブでは、フラットドライブとは違って、ボールを厚く打ってはなりません。)

メシールのサーブのフォームを見ると、(グランドストロークのイメージがあるせいか)ラケットをゆっくり振っているように思います。しかしメシールのサーブでも、スピンをかける場合(特にセカンドサーブ)にはラケットを非常に早く振っています。もちろん、ラケットを振る方向は相手コート方向ではなく、ボールが飛び出すのに対して垂直方向(の脳内イメージ)です。「サーブを打つ場合はいつも全力でラケットを振る」という基本は、メシールのテニスでも共通です。

私の個人的なことですが、いろいろな教則本を見て、書いてある通りに打ってもどうしてもスピンサーブが打てなかったのですが、ラケットスイングを速くする(端的に言うと、力いっぱいラケットを振る)ようにしたとたん、スピンがかかるようになりました。こういう事って、教則本には意外にはっきりとは書いていないものです。

Mecir's Tennis (169) フラットドライブ系とスピン系の使い分け(イースタンフォアハンドグリップ)

イースタングリップ(薄いグリップ)の有利な点の一つは、薄いグリップでもスピン系のボールを打つことができるという事です。イースタングリップではスピンボールが打てないと思われがちですが、そんなことはありません。(もちろん、ウエスタングリップのようなヘビースピンは無理ですが。)

フラットドライブ系とスピン系の使い分けは、イースタングリップの武器になりますので、身に着けておくと有利になります。

まず大切なことは、フラットドライブ系とスピン系でグリップを換えてはいけません。あくまで、イースタングリップで打ち分けるという事です。

打ち分け方は比較的簡単です。フラットドライブ系ではボールを押し出すように打ちますが、スピン系では下から上にボールをこすり上げるように打ちます。スピン系では、できればレディーポジションからラケット面を伏せておくと打ちやすくなります。ただし、レディーポジションで麺を伏せることができるのは、最初からスピン系で打とうと考えている場合だけです。一般には、テイクバックのタイミングでラケット面を伏せることになります。また、テイクバックでは、スピン系の場合は、ラケットがやや下に降りるイメージです。逆にフラットドライブ系の方はやや横にラケットを引くイメージです。

このような打法の使い分けは、大切です。間違えると、ボールをコントロールすることができません。

スピン系の時には、ラケットを速く振ります。力加減は不要です。ボールを打つ力加減が不要ですので、ラケットコントロールがしにくい場合には、スピン系が有効です。つなぎのボールで逃げたいとき、トップスピンログ、走らされて打つ場合、アプローチショット、相手のボールが緩い場合などではスピン系ボールを主体にするとよいと思います。スピンボールでは、ラケットをゆっくり振ってしまうと、ラケット面が下を向いていますので、多くの場合にボールはネットしてしまいます。フラットドライブの時の癖でボールを押し出すように打ったり、ラケットを横に振ってはいけません。

一方、フラットドライブ系の時には、ボールを押し出すように打ちます。その分、ボールコントロールがしやすくなります。相手のボールが速い場合や、コーナーやダウンザラインを狙う場合に有効です。イースタングリッププレーヤーが相手のボールが速い場合にスピン系で打つと、ボールコントロールを大きく失う可能性があります。逆に、相手のボールが速い場合にはその力を利用できるフラットドライブ系は有利です。ラケットはややゆっくり目に、ボールを押し出すように打ちます。

両者の中間的な打ち方が有効なのが、相手のボールがバウンドが低く速い時です。フラットドライブで打つとボールがネットを超えてそのままバックアウトする可能性があります。逆に、スピン系で打つと(相手のボールが速い場合には)スピンがかかりにくくネットしてしまうことがあります。(イースタングリップのスピンボールは、一般にはヘビースピンにはなりません。)このような場合には、両者の中間をとり、ややゆっくり目に、しかしスピンをかけた打ち方が有効です。ヘビースピンでネットを超えたところでボールが落ちるようなことはありませんが、コントロールしやすいためにボールを想ったところに運びやすいという利点があります。

2013年6月11日火曜日

Mecir's Tennis (168) 困った時の逆クロス

「遊び」のないハンドルは危険:膝の使い方は二通りでは、練習ではスムーズに打てているフォアハンドがゲームでは打てなくなることがあると書きました。

多くのイースタングリッププレーヤーは、おそらく同じことで悩んだことがあるでしょう。ゲームでは、フォアハンドイップスになることがあります。

ゲーム中になるイップスには、なかなかよい特効薬はありません。ついつい、フォアハンドスライスで逃げたくなりますが、一度スライスをフォアハンドで打ってしまったら、そのゲームではフォアハンドはスライスしか打てなくなってしまいます。

そういうケースを(自分のプレーで)調べてみると、比較的多いのは打点が体に近くなってしまっている場合です。一度でもミスをすると、怖いのでついついボールに近づいてしまいます。そうすると、ますますボールが打てなくなり、その結果ボールに近づいてしまい…という悪循環です。

フォアハンドのアプローチショットなどで、その傾向はすぐにわかります。ボールの飛球線に対して左側に体を持ってこなくてはいけないのに、ついボールの後ろ(飛球線上)近くに体を持ってきてしまうのです。

結局、体とボールが近すぎると、フォロースルーで腕が伸びません。

そういう場合に役に立つ(ことがある)のが、とにかくフォアハンドを逆クロスに打つことです。逆クロスに打つためには、どうしてもボールに対して回り込むことになりますので、自然と、ボールと体の距離を取ることができます。右足を踏み込む(12時よりも1時や2時方向)ために、ボールとの距離を取ることも怖くありません。逆クロスにボールを運ぶためには、そちらの方に腕を伸ばさざるを得ないので、フォロースルーで自然に腕が伸びてくれます。

万能薬ではないのですが、ゲーム中に試す価値はあると思います。


2013年6月10日月曜日

Mecir's Tennis (167) 「遊び」のないハンドルは危険:膝の使い方は二通り

車を運転する人であれば分かる通り、自動車のハンドルには「遊び」があります。この「遊び」は運転にとってとても大切な機能です。もし、ハンドルに「遊び」がなければ、運転はとても危険なものになるでしょう。ハンドルを切った瞬間に、車はそちらの方向にすぐに動き出すでしょう。

この遊びは、ある意味では機械らしくない機能のように思えます。入力に対して正確な出力をするのが機械の特質だとすれば、遊びの部分は「機械らしくない」あいまいさがあるからです。

人間が機械を操る時には、この機械らしくない部分が人間と機械を結びつける役割を果たすのです。

テニスについて考えてみると、人間はあいまいです。完全なスイングで、完全なフォームでボールを打つことはできません。したがって、その都度微妙に異なるスイングを吸収して、よい結果(つまり、一定の範囲内の結果を)生み出すためには、人間には遊びが必要なのです。遊びが、人間のあいまいさの部分を吸収してくれるのです。

グランドストロークにおける遊びは、どこにあるでしょうか。それは膝です。膝を柔らかく使うという事は、言い換えれば、そのあいまいさを吸収してくれる機能を活用しているという事になります。

遊びは遊びでしかないので、遊びの機能は主機能ではありません。主機能のあいまいさを受け入れる機能でしかありません。

膝も同じです。膝を使うというのは、遊びの機能としては正しくありません。膝は、遊び、つまり余裕として使うものなのです。

一方で、膝にはもう一つの機能があります。それは、フォワードスイングを開始する機能です。何度も書いている通り、そして世の中でよく言われている通り、スイングは膝(足)から始まります。膝をしっかりと折り込んで、体の回転をスタートします。

この事は、サーブなどでも同じです。サーブでは、駆動力としての膝の使い方がメインとなります。サーブの場合は、自分でボールをトスアップするので、グランドストロークほどあいまいさがないためです。それでも、膝の遊び(クッション)が、トスアップの微妙なずれを吸収してくれることは間違いありません。

つまり、膝には、エンジンの機能と遊びの機能の、異なる二つの機能が求められるのです。これが、話をややこしくします。もちろん、それら二つは厳密に区別する必要はなく、両者を同時に使えばよいだけのことです。しかし、膝には仕事が二つある(特に遊びの機能を忘れやすい)ことは覚えておく必要があります。

練習ではうまく打てるのに、試合になると思うようにボールが打てないことがよくあります。これは、おそらく、スイングには問題がないのです。(練習ではうまく打てているから。)ゲームでは、ミスができない緊張感などから、完全を目指すあまり、微妙なずれに対応できないことがあります。つまり、遊びが足りないのです。膝を遊びに使うことで、うまくいくことがあります。

Mecir's Tennis (166) 何とも厄介なフォアハンドだ③

何とも厄介なフォアハンドだ①と、そのあとに書いた何とも厄介なフォアハンドだ②で、メシールの(ようなイースタングリップの)フォアハンドでは、腕に力を入れるタイミングが難しいと書きました。そしてそのタイミングは、フォワードスイングの開始時ではなく、インパクト直前だと書きました。

しかし、実際には、インパクト直前に腕の力を入れるというは、かなり微妙で難しい技です。ちょっと、ゲーム中に実現するのは容易ではなさそうです。

そこで、良い方法があります。それは、腕に力を入れるのをあきらめて、背筋でボールを打つのです。背筋は腕とつながっているために、背筋に力を入れることで腕の振りを強くすることができます。これは、腕と直結していない骨盤や足ではできない技です。

ボールをヒットする直前に背筋に力を入れることで、腕に間接的に力が伝わる。場合によっては、フォワードスイングの最初から背筋に力を入れることもできます。(例えば、相手のボールが速くて十分なテイクバックを取る時間がない場合など。)

Mecir's Tennis (165) 何とも厄介なフォアハンドだ②

何とも厄介なフォアハンドだ①で書いた、何とも厄介なメシールのフォアハンド。ポイントは、腕に力を入れるのはインパクト直前だという事でした。そして、その感覚を身に着けることが大切だと書きました。

どうすれば、この、奇妙で優しくはないインパクト直前の力の入れ方をマスターできるでしょうか。

これは「感覚」なので言葉にするのは難しいですし、また身に着け方は人によると思います。私の考える感覚をまとめてみようと思います。

一番近いのは、自分の中ではフォワードスイングがインパクト直前からスタートするというものです。この感覚(イメージ)は、おそらくこれまでにテニスで培ってきた感覚をかなり変えることになると思います。フォワードスイングの前半は、まだ、スイングではないのです。スイングの準備でしかない。スイングそのものは、インパクト直前からスタートします。

スイングが始まったらすぐにインパクトですから、修正は効きません。スイングの準備のところで、ステップワークが正しくなかったり、右足がボールに向かってしっかりと踏み込まれていなかったり、骨盤が回転していなかったり、肩が(えもんかけのように)回っていなかったり、左ひじがボールを指してさらに左側に(反時計方向に)体の回転を引っ張っていなかったり、そしてなによりもそれらが原因でラケット面が違う方向を向いていたら…、スイングはできないという事です。スイングがスタートできるには、すべてそろっていなくてはならないのです。

感覚的には(まさに感覚の話を書いているのですからあたりまでですが)、感覚的にはゆっくりとフォワードスイングをしながら、スイングのスタートを探ります。よし、ボールを打つぞ!と思ったところから始めて腕に力を入れてスイングを開始するのです。

相手のボールのスピード、高さ、回転のタイプに関係なく、この感覚は同じです。
下がってボールを打つ場合にも、右には知らされてボールを打つ場合にも、この感覚は同じです。

スイングがボールを捉えるその直前。その瞬間からスイングを始めるというイメージです。

→何とも厄介なフォアハンドだ①
→何とも厄介なフォアハンドだ③

全仏オープン2013男子決勝 ナダルのプレーを見て思ったこと

大方の予想通り、ナダルが優勝しました。事実上の決勝が終わっていたのだから、フェレールには厳しい書き方ですが、私の興味は勝敗にはありませんでした。

テレビをつけっぱなしにしながら、チラチラとみていた時に、頻繁に出てくるナダルのスローモーションを見て、ふと思ったのです。

ナダルのフォアハンドやサービスは、利き腕と反対の腕(ナダルの場合は左利きなので右腕)が体の前に残っているのです。つまり、ナダルのプレーでは、体は最後まで回転せず、逆に右腕が体の回転がブロックされているわけです。

写真ではわかりにくいのですが、ナダルのサーブやフォアハンドでは、右手の位置がずっとこの(下の写真の)場所にあります。つまり写真の右手の位置は、取った瞬間の位置ではなく、ずっとここにあるのです。言い換えると、スイングは左肩・左腕だけで行われているのです。



これは、現代テニスでは、当たり前なのでしょうか。メシールを追いかけている私は、最近のテニス技術はあまりよく分かりません。が、こんな形で体の回転を止めるのは、現代テニスの教科書には載っていないのではないでしょうか。

どなたか、技術に詳しい方に、是非、解説をしてもらいたいと思いました。

とにもかくにも、ナダルの8回目の全仏オープン優勝は素晴らしいです。すごいです。今、ナダルの優勝インタビューを聞きながら書いています。おめでとう、ナダル。

→全仏オープン2013男子準決勝 ナダル-ジョコビッチ:ナダルの払った代償とジョコビッチの未来
→全仏オープン2012男子決勝 短いコメント

Mecir's Tennis (164) 何とも厄介なフォアハンドだ①

メシールのフォアハンドは、本当にコピーするには厄介な打法だなぁ。そう、つくづく思います。

レディーポジションから、ステップワーク、テイクバック、フォワードスイング、フォロースルーと、すべてをコピーしてもまだ足りないのです。では、何が足りないのか。

それは、スイングする腕に力を入れるタイミングです。

一般的なウェスタングリップの場合、体と腕が同時に回転し、フォワードスイングします。したがって、その回転のタイミングで腕に力を入れます。言い換えると、腕に力を入れてボールを打ちにいことができるわけです。ウェスタングリップのインパクトはイースタングリップと比べて後ろですから、飛んできたボールに向かって体の回転と腕のスイングでボールを叩きにいくことができます。

メシールのフォアハンドでは(イースタングリップフォアハンドでは)は、それができません。フォワードスイングでは、腕に力を入れてはいけないのです。では、どのタイミングで腕に力を入れるのか。

フォワードスイングは、右足→骨盤回転(腰の回転)→肩の回転と伝わっていき、腕も回転します。しかし、まだ、腕には力を入れません。そして、ボールをラケットがヒットする少し前に、初めて腕に力を入れます。そして、そのギリギリのタイミングで入った力でボールを打つ(運ぶ)のです。

体の回転の時に腕にも力を入れ始めることができれば、どれほどスイングはシンプルでしょうか。しかし、メシールフォアハンドでそれをすると、必ずラケット面が狂います。ほんの少しの力の加減を間違えるだけでボールは全く制御不能になります。

また、フォワードスイングの前半から腕に力を入れると、ラケット面が開きます。(グリップが薄いから。)これも、コントロールを狂わせます。全く、イースタングリップというのは厄介な代物なのです。

フォワードスイング(の前半)で腕に力が入らない(足と骨盤と肩の回転でフォワードスイングをする)ため、ラケットスイングのスピードはそれほど出ません。メシールのフォアハンドが「ラケットスイングがゆっくりに見える」と言われるのはそのためです。

足と、骨盤と、肩にお膳立てをしてもらった腕はインパクトの直前からボールを打ち始めます。そして思った方向にボールを打ち出します。だから、メシールのフォアハンドは、ボールを運ぶように見えるのです。「ラケット面に、他のプレーヤーと比べるとほんの少し長くボールが乗っているような気がする」と言われる理由も、ここから来ています。

腕の仕事はスタートが遅い分、仕事の終わりも遅くなります。ボールをヒットしても、まだ、腕の仕事は終わりません。力を入れたばかりの腕は、ボールをヒットした後、大きくフォロースルーを取ることになります。インパクト直前に力が入ったばかりなのに大きくフォロースルーが取れないということは、逆にできないはずです。

この、インパクト直前から腕に力を入れるという感覚が難しい。感覚をつかむための練習が必要です。特に、振り遅れには注意せねばなりません。決して振り遅れてはなりません。振り遅れてしまっても、腕の力でスイングを挽回することができないのですから。ゆっくり打つことは早く動くことです。

スイングの際、左腕がスイングを止める作用をしてはなりません。大きくフォロースルーを取ることができるように、左肩がしっかりと時計と反対方向に回っていかねばなりません(右利きの場合)。コントロールが微妙なイースタングリップでは、ややもすると、左肩を止めて、ボールを置きに行くような打ち方になってしまいます。それではだめです。大きなフォローするに合わせて左肩も大きく回っていくのです。

私の印象では、このような力の入れ方を身につけるには、本当に練習が必要です。上に書いたように、練習が必要です。フォワードスイングで腕に力を入れず、インパクト直前で初めて力を入れることをゲームで実際に行うには、勇気がいります。練習で、十分にその感覚を身に着けることが、何よりも大切です。

→全仏オープン2012男子決勝(短いコメント)

2013年6月9日日曜日

全仏オープン2013男子準決勝 ナダル-ジョコビッチ:ナダルの払った代償とジョコビッチの未来

ナダルが5セットの試合を制した。見終わった後どっと疲れて、試合中ずっと体に力が入っていたことが分かる。

ツォンガとフェレールには申し訳ないのだけれども、この試合が事実上の決勝戦だ。これを書いている時点で、どちらが決勝に進むかはわからないけれど、いずれにしてもナダルの優勝は動かない。決勝では、ナダルから1セットをとれるかどうかが注目になるだけだろう。

ナダルを止めることができる唯一の選手がジョコビッチだったのだろうが、ナダルを追い詰めたものの最後の一歩が届かなかった。この一歩は、しかし、あまりにも大きな一歩だ。5セット目を見ていて、そんな風に思った。

ナダルは、誰もが言うように、機械のようにぶれることなくボールを叩く。隙を見せると、必ずエースをねらってくる。ナダルのエースはすごい。相手は、ラケットにボールを当てるどころか、ボールのそばまでよることもできずにエースをとられる。トップ選手ですら、ナダルが(特にフォアハンドで)エースを取る時には、もう何もすることができない。

ボールを追いかけ、スライディングしながらボールをヒットして、しかも相手は3mも離れているところにボールがバウンドしてノータッチエースを取る。これは、まさに全仏仕様のテニスだ。

一方で、ナダルは相手にボールを打たれるところにも強烈なショットを放つ。相手に向けて強く打つわけだ。相手が、そのボールでエースを取ることができないことを知っているからだ。これは、ボールのパワーだけの話ではない。ナダルの戦略だ。相手を走らせるのではなく、自分のボールの力で返ってきた次のボールで仕留めるというやはりナダルの全仏仕様の戦略だ。

ジョコビッチの戦い方は、もっと「まとも」だ。まともというのは、つまり、定石に従っているということだ。例えば、ナダルが打ったボールが浅い場合、ジョコビッチは、相手が2歩動く場所に強くボールを打って、ネットに出る。決して、ラインぎりぎりは狙わない。しかし、相手が動かずに打てるところも狙わない。

これは、一般的な攻撃だ。一般的というのはどういう事か。それは、どのようなサーフェスでも使える戦略ということだ。

ナダルとジョコビッチの決勝戦は、分かりやすく言えば、こういうことなのだ。ナダルは赤土のコート専用の戦い方をした。ジョコビッチは万能なテニスの戦い方をした。

ナダルは、絶好調だった2010年の後、2011年以降はグランドスラム大会では全仏オープンでしか優勝していない。ナダルにとって最も大切なのは、全仏オープンの王者の位置を守ること。その次が、その他の大会での優勝なのだ。

一方のラインキング1位に君臨するジョコビッチは、すべての大会で優勝を狙う立場にいる。これから歴史に名を残すジョコビッチにとっては、全仏オープンだけを特別扱いできない。生涯グランドスラムであとは全仏オープンだけを残すジョコビッチが、しかし、テニススタイルを全仏オープン仕様に変えないことに、私は敬意を表したい。(もちろん、全仏オープン向けのトレーニングと戦略はあるだろうが、他の大会での結果を犠牲にしたりはしていない。)ジョコビッチも、2011年以降は全豪オープンでしか優勝していないが、ジョコビッチはどの大会でも優勝を狙っているように見える。

賭けてもよいが、おそらく、もう、ナダルはウィンブルドンを取ることはない。これほどまでにクレーコート用に完成したテニスを、どうすれば芝のコート用にチューニングすることができるだろうか。ましてや、どうすればハードコート用にチューニングできるだろうか。ナダルが再び怪我をするとしたら、ハードコートであろう。今のプレースタイルを、無理にハードコートにチューニングしようとしたときに、ナダルの選手生命に影響があるほどの怪我が心配だ。

ナダルの全仏オープンに特化したプレースタイルは、もう誰にも止めることはできないのかもしれない。生涯グランドスラムを狙うジョコビッチは、しかし、決して全仏オープン専用のプレースタイルを磨いてほしくはない。ジョコビッチは、フェデラーに続く真のオールランドプレーヤーを目指してほしい。かつて、「残りのすべてのグランドスラムの優勝と取り換えてでもウィンブルドンの優勝カップがほしい」と言ったイワン・レンドルの、あのみじめな姿をジョコビッチには見せてほしくないのだ。

→2013全仏オープン男子決勝 ナダルのプレーを見て思ったこと
→2012全仏オープン男子決勝 短いコメント