2010年10月20日水曜日

メシールのテニス(3) グリップ

メシール(メチージュ)のフォアハンドのグリップは、コンチネンタルか薄めのイースタンです。(そのどちらかは、ビデオからはわかりませんでした。)いずれにしても、いわゆる薄いグリップです。フォアハンドの薄いグリップの選手を、最近ではあまり見かけなくなりました。おそらく、ラケットの性能向上のおかげでしょう。今は、厚いグリップからラケットを横に振り、フラットドライブ、またはトップスピンを打つのがトレンドです。メシールは、薄いフォアハンドグリップから、きれいな(ヘビーすぎない)順回転のスピンボールを打ちます。トップスピンと言うよりも、いわゆる、厚いあたりの順回転ボールです。ボールはネットを超えて、比較的ベースラインに近いところで沈みます。最近で言うところのエッグボールと呼んでよいと思います。
テニスに詳しい人には全くの釈迦に説法ですが、フォアハンドも、バックハンドも、ラケットを引いたときに、①ラケット面は90度(地面に垂直)またはそれよりも伏せる、②ラケット面を体の子午線(右側面と左側面を結ぶ面)よりも後ろに行ってはいけない、という原則があります。おそらく、この2つは、グリップが厚いか薄いかに関係なく、基本中の基本だと思います。少なくとも、1980年代後半以降のトッププレーヤーで、①または②を守れていない男子プロの選手を、私は知りません。
この2つについては、特に①については、そういう癖がついている人は、修正するのに苦労するのではないでしょうか。(私がそうだっただけかもしれませんが。)私のように、レベルが中級クラスの場合、練習でラリーをしても、高いバウンドの、いわゆるそれほど力のないポワーンとしたボールを打つ機会が多くあります。特に、ラリーの相手が年配の方や女性などの場合は、相手の打った高いバウンドのボールを打ちかえすケースが多くあります。高いバウンドのボールを薄いグリップで打ちかえす時には、どうしてもラケット面が上を向いてしまいます。もちろん、順回転を強くかけるときはそうではないかもしれませんが、薄いグリップで厚いあたりを打とうとうすると、ラケットの軌道が下から上になるため、そのベクトルに垂直な面を作ると、どうしてもテイクバックからインパクトにかけて、面が上を向いてしまいます。(垂直な面にするのは、厚いあたりのボールを打つため。)
私は、テニスの練習をする際には、可能な限り自分のビデオを撮って、それをメシールのビデオと比較して見ています。世界の(かつての)トッププロと中級のアマチュアでは、当然ながら比較になどならないのですが、多くの男子プロのように体力や腕力に任せてボールをヒットするのではなく、メシールの用にきれいなフォームでボールを打つ(運ぶ)プレーヤーの場合には、アマチュアにとっても、ずいぶんとまねできるところが多いからです。
自分のビデオを何度見ても、オンコートでどれだけ意識しても、私のフォアハンドは、テイクバックからインパクトにかけて、面が上を向いていたのです。今から思えば、そんなに簡単なことになぜ気がつかなかったのかと思いますが、それは当たり前で、上から斜めに落ちてくるボールを、フラット系の厚いあたりで打とうとすると面が上を向くのは当然です。そして、その癖が、普通の(上級者の)低いあたりの時にも出て、上の①である面が上を向くという悪いフォームに陥っていたわけです。
それがわかってから、では、その癖がすぐに修正できたかと言うと、実はそれはなかなか難しいことでした。その理由と、ではどうやって癖を直したかについては、また、別の機会に書かせていただこうと思います。

2010年10月17日日曜日

本当のプロ選手のプレーマナーについて

チェコスロバキア(今はスロバキア)のプロテニス選手であるメシール(メチージュ)の試合のDVDを、私はいろいろな形で手に入れて、今、20~30程度持っています。こんなにたくさんメシールのDVDを持っている人は、他にあまりいないのではないでしょうか?私の貴重なコレクションです(笑)。

もちろん、すべての試合を、目を皿のようにしてみました。1988年のウインブルドン準決勝のエドベリ(エドバーグ)戦などは、もう、何度見たことがわかりません。

メシールのプレーを見て、特筆すべきことの一つが、そのプレーマナーでしょう。男子のテニスのプロ選手で、ここまで審判にクレームをつけることが少ない選手を、他に知りません。負けた試合ですら、ジャッジに文句も言わずに淡々とプレーするので、逆に「メシールはやる気があるのか」と思うことがあるぐらいです。当時(1980年代後半)のテニスプレーヤーでマナーがよい選手としては、ヴィランデルがいますが、それでも、時々審判に文句を言っているのを見ました。

メシールがはっきりと態度でクレームをつけたのは、私のコレクションの中では、ただ一度、1987年のKey Biscayne(アメリカ)でのリプトン国際の決勝戦だけです。決勝戦の相手は、メシールが苦手としているレンドル。この試合、メシールは珍しくエキサイトしており、試合中、一度、線審に大きな身振りで激しく抗議をしました。レンドルのストロークがベースラインをアウトしていたにも関わらず線審に「イン」と判断されたからです。

メシールがこんなに激しく抗議をするのを見たのは、後にも先にも、この一度だけです。そして、激しくと言っても、判定は覆らないのですから、すぐに引き下がったのです。(わめきまわり、暴れまわるマッケンローとは大違い。)皮肉なことに、メシールが公式戦でレンドルに勝利したのは、メシールのキャリアの中で、この一度だけでした。趣味がつりだと言うメシールが、試合後のインタビューで「でっかい魚を釣り上げた」とコメントしたのは有名です。

抗議と正反対のシーンを、一度、見たことがあります。上にも書いた、1988年のウインブルドン準決勝のエドベリ(エドバーグ)戦です。この試合のあるポイントで、エドバーグのファーストサーブがコーナーいっぱいにきれいに決まった時に、線審が「アウト!」とコールしたのです。え?と、驚くエドバーグ。しかし、メシールは、審判に対して何も言わず、当たり前のようにすたすたと次のレシーブポジションに歩いて行ったのです。

会場がややどよめく中で、エドベリが日本流のスタイルでメシールに向かってお礼のお辞儀をした姿も印象的でした。メシールもエドベリも、何事もなかったようにプレーを続けたのです。

朝日新聞の西村欣也氏は、コラムの中で、しばしば「スポーツで審判に文句を言うのは間違えている。なぜなら、”審判は間違えるモノ”だからだ」と述べています。私も、その意見に賛成です。人間が審判をする以上、間違いは避けることができません。スポーツの試合は、特に対戦型のスポーツは、それを前提としているのです。

しかし、私程度のアマチュアプレーヤーでも、ミスジャッジはつらいものです。文句を言いたくなります(し、言ったことも何度もあります)。わかっていても、明らかなアウトボールをインとジャッジされると、そこからメンタルでガタガタと崩れてしまうこともあります。それが、まあ、普通の(平凡な)人間でしょう。そう考えると、普段のメシールの姿は、プロのスポーツプレーヤーとして、どこか、一段高いところにいるような気がしてならないのです。

当時、メシールと究極の反対の態度を取っていたのが、ご存知、米国のジョン・マッケンローでした。マッケンローは暴言を吐き散らしながら観客の拍手喝さいを浴び、そして、多くのメジャータイトルを取りました。マッケンローは、いまだに世界中の人の記憶に残っています。

それと比べると、メシールはほんとど知られることなく、短い選手生活を終えました。今、日本でメシールという選手を覚えている人は、テニスファンでもほんの一握りでしょう。

暴言を吐いてでも、ラインコールや審判に苦情を言い続けても、メジャー大会に勝つことが一番大切なのであれば、プロテニスプレーヤーというのは、なんとさびしい仕事なのでしょうか。グランドスラムで勝つごとができなかったメシールは、やはり、マッケンローには劣るのでしょうか。

でも、メシールには、是非、知ってほしいのです。あなたは、もしかしたら、多くの人の記憶に残っていないかもしれない。あなたがテニスの世界に残したものは、もしかしたら多くはないのかかもしれない。でも、極東の小さな島国に、たった一人だけれども、そのプレーする姿をまぶたに焼き付け、20年以上もあなたにあこがれ続けている日本人がいることを。あなたのテニスは、コート上での振る舞いは、私に、テニスだけではなく、もっと大きなものとして、今でも変わらず、どっしりと残っていることを。

2010年10月14日木曜日

メシールのテニス(2) テイクバック

メシールのフォアハンド・バックハンドの技術(2)は、(1)のレディーポジションに続いて、テイクバックです。テイクバックでは、フォアハンド、バックハンド、ともに「女の子のもじもじスタイル」から、”そのまま”腰を回転します。この時点では、腰以外は動かしません。腰の回転だけでテイクバックを取ります。
したがって、このとき、ラケットのヘッドは下を向いたままです。実際のプレーでは、相手のボールの高さなどもあるのでこれが守られていない場合もありますが、基本はヘッドは下を向く”イメージ”が重要です。なぜなら、これが、レディーポジションでの体制(上半身の形)を維持したままにテイクバックを取ると言うことになるからです。
一般には、テイクバックを取るときに、ループ状のスイングをするために、手を上に引き上げるスタイルが多いようです。(例えば、ボリス・ベッカーなどが典型的なループ型のスイングです。)しかし、メシールのテニスは、あくまでここでは手を動かしません。非常にシンプルな動きと言ってよいでしょう。腰を回転するだけだからです。これは、フォアハンド、バックハンドともに同じ動きです。

(註) 私は、テニスの専門家でも、上級者でもありませんので、一般的なテニス技術を語ることはできません(註) 私は、テニスの専門家でも、上級者でもありませんので、一般的なテニス技術を語ることはできません。語ることができるのは、メシールのテニスについてのみです。メシールの技術が、一般的なテニス技術に一致することも、逆に、一致しないこともあると思います。その点を、ご了解ください。

2010年10月13日水曜日

メシールのテニス(1) レディーポジション

 メシールのスイング(フォアハンド・バックハンド)の特徴の一つは、「スイング(手)が腰の高さからスタートする」と言うことです。試合中は、いろいろなシチュエーションがありますので、これに限りませんが、メシールのすべてのショットの基本が、この姿勢です。レディーポジションで、両手を合わせて、ラケットヘッドを落とす。手の左右が逆ですが、ゴルフのアドレスのような構えです。ちょっと意外ですが、このレディーポジションのスタイルは、実は、サーブでも同じです。サーブの起動時も、メシールは、両手を前に合わせて、ラケットヘッドを下す姿勢を基本としています。私は、この姿勢を、「若い女の子が両手を合わせて”モジモジ”している姿(モジモジポーズ)」と呼んでいます(笑)。


 メシールのレディーポジションでもう一つ大切なことは、背筋を伸ばすということです。決して背中を丸めてはいけません。これは、実は、レディーポジションだけではありません。メシールのほぼすべてのプレー中、メシールは背筋を伸ばします。メシールのプレーは、このために、しばしば、「上半身が突っ立っている」と指摘されます(批判されます)が、この点も、メシールのプレーにおいて、最も重要な点であり、必須なのです。これについたは、また、別項で議論したいと思います。
 レディーポジションに入る前の体制で、たとえばレシーブの準備(相手が、サーブを打つ姿勢に入ったあたり)では、メシールは、逆に背を丸めます。これは、おそらくクセだと思いますので、プレースタイルの本質ではありません。この姿が印象的だったため(理由はそれだけではないですが)、メシールはビッグキャットというニックネームをもらうわけですが、このスタイルに目を奪われてはいけません。メシールのプレーの本質・基本は、背筋を伸ばして、上体を立てると言うことです。

(註) 私は、テニスの専門家でも、上級者でもありませんので、一般的なテニス技術を語ることはできません。語ることができるのは、メシールのテニスについてのみです。メシールの技術が、一般的なテニス技術に一致することも、逆に、一致しないこともあると思います。その点を、ご了解ください。

2010年10月11日月曜日

村上龍(1)

なぜ、私が、メシール(メチージュ)のことを好きなのか。
それは、「美しいと思うから」です。メシールのプレーは、美しい。
だから、私は、メシールのプレーが好きです。

むかし、村上龍がこんなことを書いていました。
資料が手元にないので、思い出しながら書いてみます。

村上龍が、ソルボンヌ大学哲学科の女子学生を連れて、
全仏オープンの観戦に行った時のこと。

村上龍によると「フランスのインテリは、スポーツなど見ない」
そうなのですが、彼女も、テニスを観戦するの初めてで、
テニスを全然知らなかったとか。もちろん、テニスの選手のことも
なにも知らない。
その彼女が、メシールのプレーを見ていったそうです。
「きれいね」と。

どうして、こんなに、メシールのプレーを、美しいと感じるのか。
このブログでは、そんなことも考えてみたいと思います。

2010年10月10日日曜日

はじめに

このブログは、昔懐かしい、ミロスラフ・メシール(メチージュ)について語るための、個人的なブログです。私は週末テニスプレーヤであり、プロでもなければ、テニス専門家でもありません。しかも、メシール以外のテニスプレーヤーについては全く興味がありません。テニスを語ると言っても、メシールのテニスだけしか語ることができません。

豊富に持っているメシールの試合のビデオ(おそらく30試合以上あると思います)を見ながら、分析を繰り返しています。したがって、すべての内容は右利きプレーヤーに対する表現になっていますので、ご了解ください。

メシールファンの方、また、美しいテニスを求める方、ご興味があれば、時々、楽しんでいただければ幸いです。なお、書いている内容も、時々修正したりしています(笑)ので、ご注意ください。