2014年10月5日日曜日

2014年ジャパンオープン男子決勝 ラオニッチvs錦織

錦織がまたジャパンオープンで優勝した。ATPワールドツアー500大会とはいえ、錦織は第4シードだった。しかし、第1シート(バブリンカ)と第2シード(フェレール)はツアー500大会であるにもかかわらず、あっさりと早いラウンドで敗退した。その意味では、第4シードの錦織も、第3シードのラオニッチも、運がよかったといえる。つまり、錦織にしても、ラオニッチにしても、この結果であまり浮かれているわけにはいかない。もちろん、着実に決勝まで来た底力は評価されるべきだし、錦織の優勝の価値は何ら薄れるものではない。

さて、最近の錦織のプレーをテニスで見ていて、いくつか気が付いたことがある。もしかしたら、もう誰もが気付いていることかもしれないし、きちんと分析もされていることかもしれないが。

一つは、錦織のグランドストロークのバックハンドとフォアハンドの比率だ。錦織のベースラインでのグランドストローのフォアハンドとバックハンドの比率は、他のプレーヤと比較してバックハンドの比率が高いのではないかと思う。(きちんと調べたわけではない。)つまり、錦織はそれだけ「フォアハンドに回り込まない」のだ。この決勝戦を見ている限り、錦織がフォアハンドに回り込むのは、ウイナーかそれに準ずるボールをヒットするときだけに見える。

最近のテニスでは、全ストロークの70%以上がフォアハンドに偏っているとどこかにあった。たとえばフェデラーなどは、特にフォアハンドへの回り込みが目立つ。私にはその理由がよくわからない。フォアを軸にすることで、よりテニスを簡単にするということだろうか。それとも、単純にフォアハンドの方がバックハンドよりもボールをヒットできる(またはボールをコントロールできる)からだろうか。それは本当だろうか。

回り込む時間的なロス、そのあとオープンコートをカバーするロスやリスクを考えても、フォアに回り込む方が有利だとは正直なところ思えない。そして、錦織はそのことを証明してくれているような気がする。この点を、だれか専門家がきちんと検証してほしい。

もう一つは、錦織の配球についてだ。錦織が打ったボールの後を見ると、そのほとんど(たしか80%以上)がどちらかのサイドでバウンドしている。つまり、「錦織はセンターにボールを打たない」のだ。これは驚きだ。

確かに、2014年の全仏オープンでのナダルとの戦いで、このことは感じていた。しかし、明確に統計(Statistics)で見せられると、ううむと納得させられてしまう。

センターセオリーという言葉は錦織にはない。なぜなら、どんな球が来てもどちらのサイドにもボールを打つことができる技術があるからだ。そうなると、センターにボールを打つ理由はない。コーナーにボールを配給するのが不利な理由(センタセオリーの理由)は、コーナーからだと相手の方がコースを選択できる(ストレート、クロス、逆クロスなどから選択できる)からなのだが、相手がその選択ができない側にボールを何時も打てばよい。そうすると、錦織は断然有利になる。

これはすごい技術だ。相手が格下であればそういうこともあるかもしれない。しかし、相手が高いレベルの場合でも、つまり相手のボールが厳しい場合であっても、ボールをどちらにでも打ち分けれるのがすごい。

おそらく錦織の相手は、「攻めに攻められた」感じになるだろう。肉体的にも精神的にも、疲れ切ると思う。こうなると、錦織と対戦する際に、「相手(錦織)が小柄でパワーに欠けるから有利」などということはなくなる。むしろ、ボールスピードが速くても攻めのパターンがわかりやすい相手の方が、よっぽど楽だと思うようになるだろう。

実は、この2点は、メシールのテニスととてもよく似ている。ただし、メシールはほぼ100%、フォアハンドに回り込むことがなかった。メシールから見れば、錦織ですらフォアハンドに回り込みすぎなぐらいだ。ただし、このこと(1980年代後半)のテニスプレーヤーは、あまりフォアハンドに回り込まなかった。ベッカーやマイケル・チャンの登場が、その常識を覆した。

一方で、メシールは、錦織よりは高い割合でセンターにもボールを打った。メシールの場合は、むしろ、相手が攻めきたところを逆襲するタイプのグランドストロークだった。相手がコースを狙ってくるところからメシールの戦略はスタートする。したがって、相手がコーナーを狙ってこない場合には、メシールはあえて自分からは攻めないことが多かった。この辺りは、錦織と違う。錦織は、どのボールの場合も攻める。守るというのは、よほど相手に追い込まれた場合だけだ。これが、体格で不利な錦織の選択した戦略なのだろう。

いずれにしても、高い技術があると、テニスの戦略性は上がり、見ているものは楽しくなる。何度も書くが、錦織が日本人だからそのテニスが楽しいのではない。

2014年全米オープン男子決勝予想 リアルワールドとサイバーワールドの戦い

2014年10月3日金曜日

Mecir’s Tennis (249) ツボは一つだがスイングは一つではない

唐突ですが、まずフォロースルーについてです。スイングの中で腕に力が入るのは、フォロースルーです。ボールインパクト後に力を入れるイメージです。インパクト前に腕に力を入れると、スイングがぶれます。薄いグリップの場合はなおさらです。

さて、フォロースルーで力が入るのですが、そのために必要なことは何でしょうか。それは、打点(インパクトポイント)を一つにすることです。いつも同じ打点でボールを打つのです。それにより、インパクト後に腕に力を入れやすくなります。いつも同じ点でボールをヒットするのですから、そこから力を入れるということを体に覚えさせればよいからです。

打点の選択は重要です。力が入る点を、打点として選択せねばなりません。グリップやスイングによって、力が入る場所は違います。つまり、人によって、力が入るインパクトポイントが異なります。この点を見つけることは、自分のテニスを築き上げるためには必要なプロセスです。

ちなみに、メシールのフォアハンドでは力が入る打点は、右足付け根の前です。さらに正確に言うと、右足付け根の内側のあたりです。

この点をベストインパクトポイントと呼ぶことにします。

ベストインパクトポイントはボールに力が伝わりやすいだけではなく、同時にボールを強くヒットできる点だということもあります。これは、逆にベストインパクトポイント以外でボールをヒットすることを考えればわかりやすいと思います。力が入りにくい打点でボールをヒットすると、無理に力を伝えようとするとスイングがぶれてボールの軌道が狂います。逆にベストインパクトポイントでスイングに力を入れないとパワーがあるボールが飛ばないことになります。


さて、インパクトポイントが決まると、次はフォアワードスイングです。フォワードスイングでは、腕に力は入りません。そのことを前提として、フォワードスイングをどう考えればよいかについて説明します。

どんなボールが来ても、同じ打点でボールを打ちます。しかし、同じ打点でも、ボールのスピードや質は異なります。例えば、遅いボールも速いボールもあります。

同じフォワードスイングで異なるスピードのボールに対応することはできません。速いボールには小さなテイクバック、遅いボールには大きなテイクバックが必要です。(ただし、腕に力入れません。)

小さなテイクバックから大きなテイクバックの順序で説明します。

まず、一番小さなテイクバック&フォワードスイングはは手首だけを使います。手首だけでテイクバックし、手首だけでフォワードスイングすることで、ラケットだけが動きます。前腕と上腕は固定されています。(とはいえ、そういうケースはブロックでボールをリターンする場合など、限られた場合だけです。)

次に小さなテイクバックは手首以外に肘を使います。つまり、ラケットと前腕を使います。別の言い方をすると、上腕は固定したままテイクバックし、フォワードスイングしてボールを打ちます。ただし、体は回転しますので、上腕が全く動かないわけではなく、上腕は体の回転と一緒に回るということです。これは、相手のボールの速度が一定以上の場合には有効です。

次は、ラケット、前腕、上腕を使うテイクバック&フォワードスイングです。言い換えると、手首、肘、、肩を使います。これは、相手のボールが遅い場合です。相手のボールにパワーがないので、テイクバックとフォワードスイングでそのパワーを補うわけです。ただし、腕に力を入れるわけではありません。あくまで、手首、肘、肩を腕に力を入れずに使います。腕に力を入れるのは、あくまでフォロースルーの時です。

さて、インパクト点を固定すると書きましたが、実際には打点はバラバラです。いつも、ベストインパクトポイントでボールをヒットできるわけではありません。

では、どうすればよいか。答えは「あきらめる」ということです。つまり、打点がベストインパクトポイントからずれた場合には、その分だけスイングパワーがボールに伝わらないことになります。それは仕方がないのです。ベストインパクトポイントではないのですから。

ベストインパクトポイントでボールをヒットできない場合に、パワーを補うために腕に力を入れてはいけません。スイング軌道が微妙にずれて、ボールが安定しなくなります。あくまで、腕に力を入れるのは、フォロースルーです。

当然ですが、ベストインパクトポイントからの打点のずれが大きければ大きいほど、ボールのパワーがなくなります。実際のゲームでは、相手は、できるだけベストインパクトポイントから離れた打点でボールを打たせようとします。高い球、低い球、スピンの効いた球、スライスの効いた球、大きくバウンドする球…。

その中で、少しでもベストインパクトポイントに近いところでボールを打つことが、技術の高さ、勝負の強さになるわけです。ゲームの醍醐味といってもよいでしょう。

背筋を伸ばし、上体を立てて、肩の回転でボールを打つ。このフォームは、打点を固定させるために必要です。上体を常に一定に保ち、その結果として打点を一定に保ってボールを打つことが基本です。そこから打点がずれる場合でも、上体を倒したり、肩を傾けてはなりません。