2013年8月28日水曜日

全米オープン2013 男子1回戦 あっという間の錦織敗退

何の気なしにテレビをつけていたら錦織の1回戦が始まったので、初めから終わりまで観戦してしまいました。観戦する気がなかったという事は、つまり、「今の錦織だったら1回戦敗退はないだろう」と思っていたという事です。こんなふうに、今の錦織のことを「当然のように3回戦、4回戦にまで進む選手」というイメージで思っている人は多いのではないかと思います。

が、フェデラーだって、ナダルだって、1週目に敗退するのです。錦織がそうなっても決しておかしくはないのです。でも、それにはやはり理由があるはずです。今の錦織は、もはや理由なく早いラウンドで敗退する選手ではないでしょう。

実際、ゲームを見ていた印象では、200位近いランキングの英国の選手(ダニエル・エバンス)は、十分に強かった。ランキングから想像されるひ弱さは全く感じませんでした。一方で、錦織についても、そんなにひどいプレーのようには、私には見えませんでした。(最後の数ゲームは勝利をあきらめてしまったようでしたが。)

グランドスラムで錦織の早いラウンドのゲームを観ることが少ないので、私の想像なのですが、同じ「3回戦、4回戦までは当たり前に勝ちあがる」プレーヤーの中でも、トップ10の選手と錦織はちょっと勝ち上がり方が違うのかなと思いました。多くのトッププレーヤーは何かしらの強烈な武器を持っており、調子がまだ十分に出ていない早いラウンドであっても、たとえば調子が70%ぐらいであっても、その武器で相手を押し切ってしまうのでしょう。

その点、錦織はこれといった圧倒的な武器を持っているわけではないので、早いラウンドから自分のプレーを例えば90点以上で出さねばなりません。それが80%以下に落ちてしまった場合には、相手が90%のプレーをした場合に早いラウンドでも勝利は危うくなります。

試合を見ながら、「錦織の武器は、特定のショットではなく、早いラウンドでも90%の力を出すことができることそのものなのかな」と、ふと思ったりしました。これは、毎週のように世界のどこかで戦う選手にはなかなか辛い条件です。錦織はどのラウンドであっても90%の力が出ないと、自分の武器を失うという事になります。

常に高いアベレージでの能力を発揮することができることは、安定したプレーにつながります。これが錦織の取りこぼしの数を減らし、早い段階での敗退を減らし、ファンたちがドローを見ながら「錦織が負けるとしたら4回戦の○○選手(シード選手)」などと考える理由なのでしょう。

錦織が90%の力を出すという意味の中には、ゲームの早い段階で相手の弱点や自分がポイントを取るパターンを見つけ出し、それを確立するという事があるように思います。錦織は、いったん自分のパターンを確立すると、そのパターンを軸として、今度はパターンにバリエーションを付けたり、またはそのパターンを逆手にとったりしながらゲームを自在に作っていきます。

実際、このゲームも、第1セットでリードするまでは、自分のパターンを作りつつあるように私には見えました。しかし、相手のペースが上がってきて、その軸がぶれだしたときには、軸となるパターンを修正しながらのゲームとなります。錦織にとって都合がよいのは、相手が(自分にとって嫌な)パターンを崩そうとしてプレーに強引さや無理が出てくることで、逆に自らミスを重ねていく場合です。おそらく、これが錦織にはもっとも「都合の良い」ゲーム運びなのでしょう。錦織のゲームで、そのような勝ち方をすることを時々見ます。

一方で、このゲームのエバンスのように自ら崩れることなくプレーを修正することで(つまりプレーの精度を上げることで)パターンをずらしてこられた場合には、錦織は別のパターンを考えなくてはならなくなります。その部分に、まだ錦織の若さというか、未熟さを感じます。今回の敗退は、そこで次のパターンを作ることもできず、また、今のパターンを軸として自分に有利なパターンに仕上げていくこともできなかったことにあるように感じました。

ショットのパターンではなく、プレーのパターンを複数持つことができ、さらにそれらを組み合わせて試合を進めることができる時、錦織はさらに強くなるのかもしれません。

2013年8月27日火曜日

Mecir's Tennis (180) テイクバックで肩を入れるためにラケットをうまく使いましょう

フォアハンドミスの一つに、左肩が十分に入らないということがあります。いわゆる、体が開くという症状です。

これを避けるために、テイクバックでラケットをうまく使う方法があります。つまり、左手でラケットを持ってそのラケットを(体の前で)ボールの飛球方向と平行になるまで回すイメージです。
これにより、いくつかの利点があります。
  • 左肩がきちんとネット方向を向く。
  • 左手でラケットを持つためにテイクバックが大きくなりすぎない。
  • ラケットとボール(の飛球線)の距離を取ることでボールに近づきすぎない。
  • どんな時でも(たとえばランニングショットや高い打点の時でも)ボールと体(=ラケット)の距離を一定に保つことができる
フォワードスイングでは、ラケットを持っていた左手を前に出していき、その力で体を(フォワードスイング側に)回していきます。そのタイミングは、遅すぎると振り遅れます。スイングよりも早く左手を前に出していくイメージが大切です。早すぎても構いません。(どちらにしても、右腕は送れて出てくるのですから。)

2013年8月21日水曜日

Mecir's Tennis (179) 腕が遅れて出てくることと打点が後ろになることは別の話なのです!

グランドストロークにしても、サーブにしても、サービスラインまでを使ったショートテニスで強く(または大きなフォームで)ボールを打つことができるかどうかが、その人のテニスのレベルを示すとよく言われます。

スピンを打ちにくい薄い(イースタン)グリップでは、ショートテニスでしっかりとボールを打つのはなかなか容易ではありません。簡単にサービスラインを超えてしまいます。とは言え、無理やりのスピンボールを打ったのでは意味がありません。

つまり、実は、イースタングリッププレーヤーこそ、技術レベルを確かめるのにショートテニスは有効なのです。

では、どうすればイースタングリップでショートテニスで強いボールを打てるか。これは、通常のグランドストロークでコントロールされた安定した順回転ボールをコントロールして打つにはどうすればよいかという事と共通です。

ポイントは、打点を前に置くという事です。言い換えると、テイクバックで右手を後ろに引かないという事です。右腕を体の前に固定します。三角巾で腕を固定しているイメージです。
ただし、腕を完全に固定してしまうと自由度が失われてしまいます。この感覚(脳内イメージ)は伝えにくいのですが、腕の自由度は保ったまま腕を固定します。腕を固定しておき、タイミングを腕で採るという感じがよいかもしれません。(タイミングをとるという事は、ある程度は自由度があるからです。)

そして、この体勢からスイングします。ボールの打点は、自然と前の方になります。そうすると、インパクト前後で腕が使いやすく、ボールに回転をかけやすくなります。

このイメージで一番難しいのは、ボールを打つパワーをどこからもらうのかという事です。多くの場合、フォアハンドでは大きなテイクバックによりスイングの勢いを作ります。この打ち方は、テイクバックがほとんどないという脳内イメージですので、パワーは別のところからもらわなくてはなりません。

ポイントをいくつかまとめておきます。
  • テイクバックが小さい分、大きなフォロースルーを取ること。
  • 大きなフォロースルーを取るために、ボールに近づきすぎないこと。
  • ボールをよく見ること(少なくとも、相手のボールが自分のコートでバウンドするまでは目で追いかけること)。これは、小さなテイクバックですのでスイートスポットをはずとボールにパワーを伝えることができないからです。大きなテイクバックで、(多少スイートスポットを外しても)ラケットの勢いでボールをヒットするという技は使えないのです。
  • テイクバックで左手をラケットに添えること。これにより、テイクバックが大きくなることを防ぐと同時に、左肩が開くのを防ぐことができます。
  • テイクバックで添えた左手を、フォワードスイングでスイングを誘導する役割で使うこと。右手でフォワードスイングするのではなく、左手でフォワードスイングします。
  • 右手は少し遅れて出てくるイメージ。左手がフォワードスイングを引っ張り、左肩が開きます。続いて右肩が開き、右手が遅れて出てくるイメージです。一番最後に右手が出てくるのです。
右腕が遅れて出てくるイメージは、例えば、こちらの動画像を見てみてください。メシールのフォアハンドは、腕が遅れて出てくるとよく言われます。それは、打点が後ろになっているという事ではないのです。この2つをごっちゃにしてはいけません。





2013年8月20日火曜日

Mecir's Tennis (178) フォアハンドトップスピンロブの打ち方

私は厚いグリップでフォアハンドを打ったことがないので比較はできないのですが、トップスピンロブについては薄いグリップの方が打ちやすいのではないかと思います。薄いグリップでのフォアハンドのトップスピンロブの打ち方をまとめると、次のようになります。

  • フォロースルーは右肩の上(頭より右側)
  • ラケットはほぼ真上に振り上げるイメージ
  • ボールの外側をこすり上げるイメージ
  • 最後まで腰(骨盤)の回転を使わず途中で止めるイメージ
案外難しいのは3番目の、骨盤の回転を途中で止めるイメージです。普段は、大きく骨盤を回転させてフォロースルーするからです。トップスピンロブの場合には、それを途中で止めなくてはなりません。

そのために有効なのは、テイクバックでラケットを普段のストロークよりも体の後ろに持っていくという方法です。これにより後ろ側に余分にテイクバックが取れる分だけ、骨盤の回転も多く使えます。テイクバックでは思い切ってぐっと後ろにねじ込んでから、その分だけフォロースルーを止める。これがコツです。

そして、その分、スイングを前ではなく上に行います。これさえ守れば、薄いグリップのフォアハンドでは、トップスピンロブは比較的打ちやすいショットです。フォームも、通常のグランドストロークとあまり変わらない(途中までは)ので、見破られにくいという利点もあります。

なお、この打法でスイングを上ではなく前にすることで、メシールはストレートのパッシングショットを打つことがあります。スイング方向とボールの飛ぶ方向が同じであるためボールをコントロールしやすいもその理由だと思います。

2013年8月15日木曜日

Mecir's Tennis (177) ステップワークと体重のかけ方・背中を曲げないこととの関係

背中を曲げないこと」ではグランドストロークでは背中を曲げない、上体を起こすと書きましたが、正確にはやや前傾姿勢になります。これは、以前、「体重のかけ方」に書きました。

大切なことは、「体重のかけ方」の図にあるように、お尻を突き出すことです。これにより、上体が突っ立つことなく、しかし背中を丸めずに肩をえもんかけのように使うことができます。

ただし、これをステップワークでも行うことは簡単ではありません。お尻を突き出しながらコート内をフットワークするのは足への負担が大きすぎます。

とは言え、この体勢を取らずにステップワークして、ボールを打つ時にいきなりお尻を突き出すのも簡単ではありません。

結局、ステップワークではお尻の突き出し方、背中のそらし方などを比較的「楽に」行っておき、ボールを打つ際にしっかりとお尻を突き出します。それでもやや体の負担は大きいのですが、しかし、ステップワークからスムーズにボールヒットにつなげるためには、やはり、必要なことです。ステップワークで膝を突っ立てたり、逆に膝を曲げすぎたり、背中を丸めたり、逆に上体を立てすぎたりすることは避けるべきです。

Mecir's Tennis (176) 緩いボールの打ち方(打点について)

フラットドライブ系の打ち方をしていると、相手の緩いボールに対応しにくいことがあります。それは、ボールの軌跡が直線的ではなく放物線的になるため、ラケットスイング(水平に近い軌道)と合わないからです。

厚いグリップのスピナーには一番の「ごちそう」が、イースタングリップには意外に苦手であったり、チャンスを活かすことができなかったりします。


スピードはないので時間的な余裕はあるはずです。この場合に、どのような打点を選ぶか。

高い打点は、バウンドの頂点でボールが止まったところでボールをヒットできます。したがって、水平スイングでもそれほど打ちにくくありません。したがって、高い打点で打つというのは一つの考え方です。その代わり、高い打点では力は入りにくいという欠点があります。チャンスボールなのに、どちらかというとサービスボールを返球してしまうことがあります。したがって、高い打点を選択するのであれば、それはアプローチショットで使う場合です。力のあるボールを打つことは難しいため、コースをついて相手を走らせ、自分はネットを取る場合に限るべきです。

そうではない場合、つまりグランドストロークとして打つ場合は、打点を落とします。そして、イースタングリップであっても、下から上のスイングでスピン系のボールを打ちます。スピナーの様なぐりぐりスピンを打つ必要はありません。しかし、順回転のかかった重いボールを打つようにします。少なくとも、高い打点よりは力のあるボールが打てるはずです。強いスピンは不要ですが、その代わりにパワーの乗ったボールを打つのです。一球でノータッチエースを取る必要はありません。ただし、可能であればコースを狙い、次の甘いボールを誘うことができるボールを打ちます。

遅い、ゆるい球は、つい高い打点で打ちたくなります。が、それは間違いです。しっかりボールを落として、一番力が入るところで打つのが基本です。イースタングリップであっても。

Mecir's Tennis (175) 背中を丸めないこと

以前、「えもんかけとフォアハンド」で、肩をえもんかけのように使うことを書きました。この事は、メシールのグランドストローク(フォアハンド、バックハンドの両方とも)が上体が地面に垂直になっているように見えることと関係しています。

メシールのグランドストロークをまとめると、次のようになります。
  • 上体が立っているように見える。
  • 両肩をえもんかけのように使う。
これは、言い換えると、「背中を丸めない」という事につながります。

背中を丸めてしまうと、上体を立てることができません。上体は、前かがみになってしまいます。

背中を丸めてしまうと、両肩を張る(えもんかけのように)こともできません。肩をすぼめた状態になってしまいます。

この事は、フォアハンド、バックハンドで強い球を打つためには大切な点です。強いボールを打つために、どこにエネルギーをため込むか。これは、フォアハンドであれば右肩の内側、バックハンドであれば左肩の内側です。フォアハンドで右肩を張ることで、右肩の内側(脇のそばの筋肉)に力を入れます。バックハンドはその反対です。(この箇所は、大胸筋というようです。)

これは、テイクバックでしっかりと肩を張る(えもんかけのように)ことで実現できます。背中を丸めてしまうと、それができないのです。その結果、安定はしているがパワーのないボールしか打つことができません

メシールのグランドストロークは、コントロールとボールのパワー(いわゆる重いボール)が命です。正しいフォームは安定したコントロールをもたらしてくれます。これまで、ボールコントロールができるための正しいフォームについて多くの記事を書いてきました。

もう一つの大切な点が、ボールノパワ―です。そのためには、背中を丸めないこと、えもんかけの両端にしっかり力を入れることが大切なのです。そうすれば、自然に背筋でボールを打つことになります。背筋に力を入れるという脳内イメージは、時として背中を丸めることにつながります。大胸筋に力を入れるというイメージの方が、正しい脳内イメージです。

この、両肩の内側(脇のそばの大胸筋)に力を入れるのは、サーブ、ボレーなどでも同じです。

2013年8月5日月曜日

Mecir's Tennis (174) 難易度の高いメシールのバックハンド(コナーズとの比較)

1987年4月のWCTファイナル決勝で、メシールはマッケンローを下して優勝しました(記事はこちら)。この年のメシールは絶好調で、グランドスラムこそ決勝戦には出ていないものの、7つの大会で優勝しました。WCTファイルなるは、4月にしてこの年の4つ目の優勝で、この時点では年間賞金獲得ラインキングの1位にいたのがメシールでした。

実は、この年、メシールは初来日しています。このWCTファイルなるの翌週に開催されたジャパンオープン(サントリーがスポンサー)に出場するためです。ジャパンオープンでは2回戦からの出場でしたが、この2回戦の相手が福井烈(つよし)です。全日本のシングルスで7回も優勝した福井ですが、世界ランキングのキャリアハイは177位とほぼ世界では戦っていなかった選手です。今は、NHKのテニス解説者として有名です。

私は、WCTファイナルの決勝戦も、ジャパンオープンのメシール対福井のゲームもビデオを持っており、よく観ています。特に、福井はこの試合で第1セットは善戦し、5-5まで行ったナイスゲームでした。メシールはWCTファイナルの決勝戦から東京に直接入り出場するという強行軍だったとはいえ、当時の年間賞金獲得ランキング1位の選手によい試合をしたことが、ちょっと意外でした。

解説の森清吉さんの解説が印象的でした。「メシールが苦しんでいるのは、福井のボールが(普段、メシールが相手をしている選手と比べて)遅すぎるからなんです。」

ふと考えると、メシールにとっては福井戦のひとつ前の試合がWCTファイナル決勝(相手がマッケンロー)だったわけです。マッケンローと福井の世界ランキングの差から言っても、確かにボールスピードの落差はかなりのものだっただろうと思います。

実況のNHKアナウンサーが「面白いですねぇ、ボールが速くて打ち返せないというのは分かるのですが、遅すぎても難しいモノなんですねぇ」とコメントしていましたが、なぜ、遅いと難しいのかという話にはなりませんでした。

一般に、「相手のボールが速いとその力を活かすことができるけれど、遅いと自分の力で打たなくてはならないから」と言われています。このことを、もう少し詳しく、メシールのテニスという視点で考えてみたいと思います。メシールとコナーズのバックハンドストロークの比較を題材にします。以下は、コナーズのバックハンドストロークとメシールのバックハンドストロークの写真です。

コナーズのバックハンド


















メシールのバックハンド
この2枚の写真を比較するときに、一番の違いは背中の曲がり具合です。コナーズのバックハンドストロークは背中が曲がり、体の軸が前傾になっています。メシールのバックハンドは、背中がまっすぐ伸び、上体は地面に垂直です。

この2つは、どちらが正しい打ち方というのではありません。どちらもあり得ると思います。その違いは何かというと、ボールを打つ力が足の踏み込みを主とするか、背中と腕の力を主とするかです。

コナーズの場合は、まず、体重(重心)を低くして、足の位置をしっかりと決めます。そこから、体重を前に移動させつつ、体の回転と背中の力でボールをヒットします。軸がぶれないようにするためには、低い重心は有効です。コナーズのプレーをご覧になればわかりますが、地を這うようなスタイルで正確なコントロールでボールをヒットします(映像の例はこちら)。

では、メシールのバックハンドはどうでしょうか。メシールの場合、足の膝はしっかりと折れています。しかし、体全体の重心はコナーズのように低くありません。背中が伸びて体が立っています。これは、メシールのバックハンドではボールをヒットする主パワーが背中や体の回転から来ているわけではないことを示しています。メシールのバックハンドでは、主パワーは足の踏み込みです。具体的には次のようになります。
  1. まずは、飛んでくるボールに合わせてテイクバックをします。
  2. 次に、左足(バックハンドの軸足)の位置を決めます。
  3. バウンドにあわせて右足を踏み出します。その際、背筋はまっすぐ伸びています。
  4. 足の踏み出しの力(体重移動)でボールをヒットします。その際、ボールに順回転をかける場合や、相手のボールが弱い時などで自分の力でボールをヒットする場合には、体重移動で不足する分を背筋の力でボールヒットします。
ここで注目すべきは1と2の順番です。コナーズの場合には、例えばこの順番が逆になることがあります。より安定したストロークのためには、2でまず軸足を決めてから1のテイクバックをスタートする方がよい場合もあります。しかし、メシールの場合は、1と2が逆転することはありません。

それはなぜでしょうか。

コナーズの場合(というよりも、一般的には)軸足の位置を決めてラケットを引くところからスイングが始まるからです。メシールのストロークは、テイクバックが先に来ますが、その際にすでにスイングは始まっています。テイクバックのための軸足の位置を決めるのは、スイングの一部(途中の動作)であるわけです。

メシールの場合は、スイングの途中で軸足を決めて前足を踏み出して体重移動する部分がボールをヒットする力になります。背中はボールをコントロールする、言い換えると打ちたい場所にボールを打つ(運ぶ)ために使われます。

この打ち方は、度胸がいります。言い換えると、それができるようになるためには練習が必要です。プレーヤーから見ると、ボールに力を与えるのは、ラケットにより近い部位が望ましいのです。腕で打つのは誤差が大きくなるので誰も望みませんから、背筋を使いたくなります。それは、決して間違いではありません。

しかしメシールは、背筋を主体としてボールを打つ道を選びませんでした。ボールを打つのは体重移動です。膝の力が大切です。やってみればわかりますが、これは、なかなか膝の力が必要です。とにかく、コート上で膝を使います。疲れます。

しかも、これは、遅い球には弱いという弱点があります。遅い球を打ち返す場合には、足の踏み込みだけでは不十分で、どうしても背筋の力が必要です。コナーズのように体を傾けると背筋の力が使いやすいのですが、上体を起こしている場合にはあまり背筋の力が入りません。また、背筋は主としてボールコントロールに使いたいので、ボールヒットの力には使いたくないのです。

結局、メシールのバックハンドでは、相手のボールが緩い場合には、ある一定以上の強い球を打つことを諦めなくてはなりません。一球でポイントを取るのではなく、深く重い球をコントロールよく配球することで攻撃を組み立てることになります。これが、おそらく、メシールが(マッケンローとの試合後に)福井戦で苦戦した理由だと思います。福井の球は遅かったかもしれませんが、浅かったわけではないのです。深くて遅い球。メシールは意外にこういうタイプのボールが苦手です。

さて話を戻しますが、メシールのバックハンドで特に大切なのは、足の位置です。背筋を使った微妙な調整ができなのですから、足の位置が微妙にずれると、自分が打つボールはコントロールを失います。よいボールが打てるかどうか、ミスショットになるかどうか、これはボールを打つはるか前に決まってしまっています。つまり、足の位置を決めた瞬間に決まっているのです。

繰り返しになりますが、これが度胸がいる打法です。足の位置を間違えた瞬間に結果が決まるので、その後で背筋や腰の回転、腕などでの調整・補正は効きません。その代わり、足の位置がしっかり(正確に)決まったら、体の軸がぶれにくいので安定したショットが打てます。背筋が主パワーになりませんが、副パワーとして最大限の背筋の力を使うこともできます。

足の位置を先に決めて背筋の力でボールをヒットするコナーズと、足の位置を決めて前足を踏み出すことをパワーとして背筋をボールコントロールに使うメシール。もう一度、この視点で、上の写真を見てみてください。