2014年1月27日月曜日

Mecir's Tennis (218) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その5) スイングのパワーはどこから?

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」
Mecir's Tennis (215) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その2) 1980年代後半のメシールのフォアハンド

「Mecir's Tennis  改めてフォアハンドテイクバックを考える」(1)〰(4)において、ラケットヘッドをネットに向けてテイクバックすることの重要性を書きました。これをコートで試しすと、特にそれまでテイクバックでラケット面が開いていたプレーヤーの場合には、ボールのパワーが極端に落ちると思います。

スピンのかかった安定したボールは打ちやすくなりますが、同じ打ち方をしていては、ボールの力が落ちるはずです。(それまでは、ボールをラケット面に垂直にあてることでパワーを得ていたのですから、当然かもしれません。)

では、どこからパワーを得ればよいでしょうか。

テイクバックを大きく、または自由にする(力を抜く)ことかと思います。腕の力を抜き、ゆっくりと大きくテイクバックを取ることで、ボールにパワーを与えやすくなります。ラケットヘッドがネットを向いている限り、テイクバックを多少大きくとることには問題がありません。また、(もし、これまでの打ち方が右わきの締まった打ち方をしているのであれば)多少は脇が空いても大丈夫です。

右腰と右足です。つまり、スイング状態に頼らないように、右足、そして腰の回転でしっかりとフォワードスイングをして、しっかりボールを運ぶことです。その際、スイングそのものでボールにパワーを与えようとすると、ラケットスイングが速くなりすぎてしまいます。スイングスピードを上げるのではく、足と腰でボールを運ぶ意識が必要です。

力を入れようとして状態が傾くことはNGです。状態はあくまで地面に垂直になります。背中の軸をしっかりとまっすぐ立てて体を回転します。

次に、ラケットを下から上に振り上げることです。ボールをスピードで打ち込むのではなく下半身で運ぶイメージのためには、ゆっくりと振っても大丈夫だという安心感も大切です。そのためには、ラケットスイングを下から上にすることで、確実にネットを超え、かつベースライン近く深くバウンドするボールが有効です。

ラケットの重さを信じることも有効です。メシールのラケットはかなり重たかったそうですが、この重さがボールを運んでくれます。逆に、そのために、重いラケットを使っているのです。

腰の回転で行うテイクバックを早めにとることも有効です。それによって時間の余裕ができ、腰の回転によりフォワードスイングをリードできます。テイクバックが遅れると腕でスイングをすることになり、ラケット面をボールに垂直にあてたくなります。その方がボールにはパワーが伝わるからです。

情をまとめると、次のようになります。「早めに右足を決めて腰の回転でテイクバック・フォワードスイングをリードすること。瀬長が丸まらないようにしっかりと地面に垂直に立てる。ラケットヘッドがネットを向いていれば、スイングは比較的自由に振ってもよい。低いボールは下から上に、高いボールは水平に。ただし、ラケットスイングが速くならないように気を付けること。」

Mecir's Tennis (217) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その4) ヘッドがネット方向を向いていれば何をしてもよい

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」
Mecir's Tennis (215) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その2) 1980年代後半のメシールのフォアハンド

Mecir's Tennis (216) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その3) ラケットヘッドはどこを向くかにおいて、ラケットヘッドがテイクバックでネット方向を向くフォアハンドの練習方法を説明しました。

しかし、実際のグランドストロークでは、テイクバックでラケットをロック(セット、固定)することはできません。それでは、ボールに威力を与えることができません。テイクバックをなくすことはできません。

しかし、繰り返しますが、そのテイクバックでラケット面を開くことは許されません。言い換えると、ラケットヘッドはネット方向を向き続けなくてはなりません。

テイクバックでのラケットの動きを、許される方向(OK)と許されない方向(NG)に分けると、次のようになります。
  • OKな方向
    • ラケットヘッドはネット方向を向いたまま、(ラケットを伏せた状態で)ラケット面方向に動かす。
    • ラケットヘッドをネット方向に向けたまま、ラケットの中心軸方向にラケットを動かす。
    • ラケットヘッドをネット方向に向けたまま、ラケットのフレーム方向(ラケット面を含む面内で)にラケットを動かす。
これらの方法は、すべて、ラケットヘッドはネット方向を向いています。つまり、これら3つの方向、およびそれらの組み合わせではどんな動きをしても構わないのです。実際メシールのフォアハンドテイクバックは、ボールに合わせていろいろな動きをしています。
  • NGの方向
    • 体の回転に合わせてラケットヘッドを扇型方向に動かす。(ラケット面がだんだん開いてしまう。)
体の回転に対してラケットを動かしていないのでよいテイクバックのように思いますが、正しくありません。ラケットヘッドは、体に固定すると勝手に後ろ向きになっていくです。

Mecir's Tennis (216) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その3) ラケットヘッドはどこを向くか

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」
Mecir's Tennis (215) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その2) 1980年代後半のメシールのフォアハンド

フォアハンドのテイクバックでのラケットヘッドの向きの脳内イメージは、「テイクバックの間、ずっとネット方向を向く」です。テイクバックで体が開店することを考えると、「肩を結ぶ線と平行である」でもよいかもしれません。

そして、なんとしても「テイクバックでラケット面が開く」ということを阻止せねばなりません。どんな場合でも、テイクバックでラケット面が開いてはいけないのです。これは、絶対に守らねばならないことです。

一方で、テイクバックは腰が回転します。ここに、イメージを誤りやすい点があります。もし、レディーポジションでラケットヘッドがネット方向(0時方向)を向いているとすると、テイクバックでフォアハンド側に腰を90度回したらラケットヘッドも3時方向を向いてしまいます。(テイクバックは腰で回転して、手を使いません。)そのままテイクバックを続けると、ラケットヘッドは0度(ネット方向)からどんどん後ろを向いてしまいます。

それを避けるためには、以下のような脳内イメージが有効です。

テイクバックをする間、ラケットはそのままネット方向を固定した状態でロックします。腰は時計方向に回転します。テイクバックトップからフォワードスイングに入ると、腰の回転は逆時計回りに回転します。ある段階に入るとちょうどラケットを振り出す位置に腰が戻ってきます。

そのタイミングでラケットを振り始めるのです。つまるところ、腰が回転している間、ラケットの動きを止めておくわけです。

こんな打ち方ができるのかと思うかもしれませんが、例えば、一番最初に良く行うショートラリーで試してみるとよいと思います。意外に簡単にできます。そして、これにより、①ラケットヘッドがネット方向を向いたままスイングするイメージ、②腰の回転でテイクバックからフォワードスイングをするイメージをつかむことができます。

この打ち方は、また、アプローチショットで使うことができます。アプローチショットは、イースタングリップでは、スピン量を増やすという打ち方をしませんので、「テイクバックを小さく、フォワードスイングを大きく」が有効です。その時に、ラケットをロック(セット)してしまうとラケットスイングのブレが小さくなり、コントロール精度が上がります。

Mecir's Tennis (215) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その2) 1980年代後半のメシールのフォアハンド

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」の続き

では、メシールはどうだったでしょうか。メシールの選択は、この中でとてもユニークだったように思います。

メシールは、この時代の最後のウッドラケットプレーヤーであったにもかかわらず、ウッドラケットのフォアハンドの呪縛にはかかっていませんでした。マッケンローやエドバーグがグラファイトラケット時代になってウッドラケットの呪縛から抜け出すことができなかったのに、ウッドラケットを使い続けたメシールは苦しまなかったことは、面白いと思いませんか?

これはどういうことかというと、メシールはジュニアのころから近代的なフォアハンドを身に着けていたということです。よく、海外の解説者がメシールの試合で「まるでクラブプレーヤーのようだ」と称していたのは、正しくありません。クラブプレーヤーの多くは、テイクバックからフォワードスイングでラケット面が開いて打つ打ち方です。そして、そのようなプレーヤーは、ほぼ間違いなくあるレベルから上に行くことはできていません。

メシールは、テイクバックで決してラケット面が開きません。言い換えると、ラケットヘッドは決して6時方向には向きません。(ましてや、7時、8時方向を向くことはありません。)

その代わりに、メシールは腰の回転を使いフォワードスイングをするわけです。ラケットでスイングしたい気持ちを抑え、フォワードスイングを腰の回転でリードします。これは、現代テニスでは誰もがすることですが、1980年代後半のテニスでは容易なことではありませんでした。飛ばないラケットであるウッドラケットのプレーヤーはむしろ腰の回転でボールを打つ習慣があるだろうと思うかもしれません。しかし、そのことよりも、ボールをラケット面に垂直に打つことでパワーを得るという習慣が邪魔をしたのです。この方法でパワーを与えるためには、フォワードスイングからラケット面が開きます。言い換えると、ラケットヘッドが6時の方向を向きます。

ウッドと比べてはるかにパワーがある(ボールが飛ぶ)グラファイトラケットの出現が、皮肉にも、イースタングリッププレーヤーを苦しめたのです。

メシールが、ラケット面の小さいウッドラケットで、なぜラケット面が開かないフォアハンドを身に着けたのかわかりません。当時のトッププロには珍しい190㎝もの長身がパワーの助けになったからかもしれません。重いウッドラケットの特性を無意識に活かそうとしていたのかもしれません。

ぜひ、本人から聞いてみたいものです。

Mecir's Tennis (214) 改めてフォアハンドテイクバックを考える(その1) 1980年後半という「移行期」

Mecir's Tennis (209) プロのテイクバックではラケットヘッドが後ろを向かない理由において、フォアハンドテイクバックではラケットヘッドが後ろを向かないことの理由について書きました。

このところ、ずっと、そのことを考えている。「イースタングリップのフォアハンドで最も大切なことと、つまりもっとも守らなくてはならないことは、テイクバックでラケットヘッドが後ろ(6時方向)を向かないことなのではないだろうか」と。

言い換えると、脳内イメージでは、テイクバックではラケットヘッドは常にネット方向(0時方向)を向いていなくてはなりません。

このイメージが、フォアハンドでは、何よりも大切なのではないだろうかと思うのです。なぜなら、イースタングリップのフォアハンドでは、ラケット面がボールに垂直に当たってはいけないからです。

ラケットがウッドからグラファイトにほぼシフトしたメシールの世代は、イースタングリップ多難の時代でもありました。ボールが飛ばないウッドラケットではラケット面がボールをまともにとらることが、むしろちょうどよかった時代がありました。その時代は、基本的なイメージとしては、ラケット面がボールと垂直になり、ラケット面はボールをまともに捉える打ち方がベストでした。

しかし、ラケットがグラファイトに移行し、アマチュアでさえ高速なボールが打てるようになって、ラケット面とボールが垂直に当たる時代は終わりを告げました。その移行期が、ちょうど1980年代の後半だったのです。

メシールがプレーヤーであった1980年後半は、ラケットはほぼグラファイト系に移行しましたが、選手たちはウッドラケットで育った時代でした。厚い当たりでフォアハンドを打ってきた選手たちは、グラファイトへの移行に苦しみました。

コナーズは厚いグリップでしたが、スイングとしてはボールに対してラケット面を垂直当てるスイングでした。コントロールしにくいこの打ち方を、コナーズは脚力(フットワークという意味と、腰を落としてスイングのぶれを極限まで小さくするという意味)で補いました。が、年齢の衰えと同時に、この打法はだんだんと通用しなくなっていったのです。

マッケンローは、テイクバックをほとんど取らないことでこの問題に立ち向かいました。マッケンローのフォアハンドは、感覚としてはフォアボレーのようでした。ラケットをセットするとほとんどテイクバックを取らずにラケット面の操作だけでボールの方向や球質をコントロールします。この方法は、ラケット面を作ることに天才的なマッケンローでのみ許される方法でした。比較的スピードの速い単調なプレーヤーに対しては有効ですが、緩急をつけるプレーヤーや、極めて速いボール(全盛期のベッカーやレンドルなど)に対しては難しいスタイルです。

エドバーグは、もっともフォアハンドに苦しんだ選手だと思います。イースタングリップであるにもかかわらずテイクバックで面を伏せて、スピン系のボールを打とうとしました。これは、かなり不安定なストロークになり、エドバーグはテイクバックの大きさを大きくしたり小さくしたりすることでこれに挑みましたが、最後まで安定したフォアハンドストロークを打つことはできませんでした。

ベッカー、ヴィランデル、チャンなどは、おそらく若いころからグラファイトのラケットを使っていたのではないかと思います。スタイルはいろいろですが、ウェスタングリップとテイクバックでラケット面を伏せて下から上に擦りあげるスイングでヘビースピンのフォアハンドプレーでした。




2014年1月26日日曜日

2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(番外編) 号泣

「今までのナダル戦の中では一番手応えを感じスコア的にも惜しいところまでいきました。」「そのせいか試合後は悔しさを感じずにはいれませんでした。ちょっと恥ずかしい話ですが試合後シャワーを浴びながら号泣。久しぶりにこんなに悔しかったです。」

オンラインニュースに、《錦織、ナダル戦後「シャワー浴びながら号泣」<全豪オープン>》という記事が出ていた。錦織のブログをフォローした記事のようだ。

これまで、数えきれないほどのプロスポーツ選手がトップ選手に挑戦し、敗戦直後にシャワールームで号泣してきたであろう。珍しい話でも何でもない。それが記事なるのはやりすぎというのか、うらやましいというのか…。それだけ錦織が注目されているということだろうが。

「一番悔やむのは3セット目5-4の自分サーブのゲーム。思い出すだけでも苦しいです。ここまで善戦して1セットも取れないことが自分としては許せませんでした。」

2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(2) 意義ある敗戦に書いたが、このゲームは、テレビで観戦していても、本当にがっかりのゲームだった。たとえ敗戦してもナダルから1セットを取るのは、単にゲームが競るからではない価値がある。つまり、試合全体から見ても、そのセットから見ても、錦織の試合の組み立てが奏功し、将来に対しての可能性を証明できるということだ。

おそらくこのセットを取れば、錦織は、試合後にも将来に向けての明るいビジョンを持てたことだろう。自分の戦略に自信が持てたことだろう。

「今でもたくさんの人がいい試合だったと言ってくれますが、いいプレーをしただけでは勝てないんですよね。この試合で自分に何が足りないのかが全く見えなくなった気分です。少し悩んでるんですかね。」

私には、このメッセージが、第3セットを5-4で自分のサービスゲームをアンフォースド・エラーの繰り返しで落としたことからくるように見える。錦織の戦略は決して間違えていないのに、その戦略の上でこんなゲームをしてしまうことで、戦略そのものが正しいのかどうか、自信がなくなってしまっている。もちろん、マイケル・チャンがその部分はきちんと伝えるのだろうが。

 2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(2) 意義ある敗戦
⇒ 2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(1) 錦織の戦略

2014年1月20日月曜日

2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(2) 意義ある敗戦

以前にも書いたが、私は、スポーツのナショナリズムをあまり是としない。日本人だから日本人選手を応援するという意識は、(フットボールのように、あえて最初からナショナリズムのための応援という場合を除いて)私には全くない。美しいプレーヤーは美しい。それは国籍に関係ない。正直なところ、ほんのわずかの例外を除いて、日本人のプロテニスプレーヤーのテニスを美しいとは(残念ながら)感じることができない。

したがって私はこれまで、錦織が日本人だからという気持ちで応援したことはない。しかし、錦織を一人のプレーヤーとしてみたとき、錦織のプレーは見ていて楽しい。だから、錦織の試合を観戦するのが好きだ。こんなに見ていてい楽しいプレーヤーは、今のトッププロ選手の中でも多くはない。錦織のプレーにはイマジネーションがあふれており、体格的に不利な点をアイデアと戦略とスピードでカバーしている。その結果、錦織のテニスはその特徴が際立ってきた。

日本人が現在の世界No.1に挑戦するからではなく、まだ若く将来が期待される才能あふれる若いプレーヤーがNo.1に挑戦するという意味で、この試合は興味深い試合だった。

錦織がコーチにマイケル・チャンを迎えたことはとてもユニークだ。私がよく参考にさせていただいているブログ(「テニスからテニスへ」)では、錦織のプレーには背後霊のようにマイケル・チャンが見えると、的確な表現がされていた。背後霊の力を得て、錦織は取りつかれたようにこれからも前に進んでいくのだろう。

ところで、このゲームを見ていて、錦織のプレーは、往年のマイケル・チャンとはかなり異なるように感じた。マイケル・チャンは相手のボールを受けて、受けて、受け流して、そこから攻撃を展開することが多かった。

錦織のプレーは、常に先手を取ろうとする。受け流すのはナダルのほうだ。と言っても、ナダルのボールは強烈で、受け流すというよりも、正確には「相手に攻撃されないパワフルな球を安全に(無理せずに)打ち込む」という印象だ。ボールに威力があるから、受け流しても相手に攻撃されない。そして、ここぞというチャンスの時にだけリスクの高いボールをコーナーに打ち込んでポイントを取りに行く。いつものナダルのスタイルだ。

錦織のショットは、一本目から攻撃的だ。しかも、相手の予想する最も可能性が高いショット(つまり、錦織はこういうボールを打ってくるだろうと予測するショット)とは違う選択肢を選ぶ。例えばレシーブでも、相手のサーブがよい時(サーバは甘い球がリターンされると予想するだろう)ほど、さらに良いリターンを返そうとする。よいサーブを打った相手は、だから一瞬驚く。グランドストロークでは、ほとんどのボールでオープンコートを作ろうとする。多少のリスクと無理は承知の上だ。

テレビ観戦して気づいたが、この試合での錦織のショットはジャンプショットが多かった。力を逃がさずに相手の予想とは違う意外性のあるコースに配給し、裏をかこうとするためだ。このジャンプショットは、意味なく力の無駄遣いをするエアケイとは異なる。このことは、ナダルVS錦織(1)に書いた。

しかし、世界の2位にまで上り詰めたマイケル・チャンに、錦織はまだ大きく水をあけられていると言わざるを得ない。錦織は、全盛期のチャンと比べると、まだ成熟していない。

錦織がマイケル・チャンに届いていないと感じたのは、第3セットで5-4からの錦織のプレーだ。錦織は、理想的な展開とプレーで4-4からナダルのサービスをブレークした。次のゲームを取ると第3セットをナダルから取り返すことができる。しかし、錦織は、ここでアンフォースド・エラーを連続し、このゲームを簡単に失う。このアンフォースド・エラーは、「惜しい」では済まないショットだった。技術ではない、メンタルからくるアンフォースド・エラーだ。(追記:このことは、試合後のインタビューで錦織自身も認めていたようだ。)

マイケル・チャンは、こういうゲーム展開に強かった。決して無理をしない。しかし、守りにも入らない。上背や体格から相手を圧倒する必殺のショットを持たない現役時代のマイケル・チャンは、相手の心理を読み、ここぞとばかりに相手の嫌がるボールを打ち、精神面とボール配給の両方から相手を追い詰めた。常に、気持ちは相手の上側にあり、相手を見下ろしながらプレーしていた。

錦織は委縮して、攻めきれなかった。自分の気持ちが相手の上に持ってくるか、相手の下に入ってしまうか。その差は大きい。本当の修羅場を、錦織はまだ乗り越えていない。

この敗戦は、錦織にとっては、お金では表せない貴重な授業料となった。どんなに高価なコーチングを受けるよりもこの一試合から学んだことの方が多いだろう。学習できる内容が、これほど多く詰め込まれた試合は、おそらく錦織にとっても初めてなのではないか。世界で最も強い、つまり世界で最も多くのことを与えてくれるナダルと対戦することで初めて得た経験がてんこ盛りに詰め込まれていた。おそらく、錦織とマイケル・チャンは、何時間も、いや何日もかけてこの対戦を話し合い、分析するだろう。そこから錦織が学ぶことは数知れない。そして、頭の良い錦織は、それらのすべてを必ず吸収するだろう。

【追記】上の記事を書いた後、試合後の錦織のインタビューを見た。「勝たないと、どうしようもない。」錦織のコメントの「ナダル」という文字を誰か錦織にとって格下のプレーヤーの名前で置き換えても、違和感がない内容だった。つまり、錦織は(おそらく)心からナダルに対して「勝ちたい、勝てるはずだ」と思ってこの試合に臨んだようだ。(もちろん、マイケル・チャンの影響は大きかったのだろう。)これからを期待させるインタビューだった。

2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(1) 錦織の戦略
2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(番外編) 号泣
Wimbledon 2013 錦織は優勝する「有資格者」

2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(1) 錦織の戦略

私はテニスのプロではないので技術的なことはよくわからないが、2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織での錦織のプレーからその戦略を私になりに考えてみた。

まず目についたのは、錦織は、様子見のための単純な打ち合いをしなかったことだ。相手のナダルの出方を伺って…などというのは、チャレンジャーたる錦織の戦略ではない。それは、王者ナダルの戦い方だ。

錦織は、打ち合いの一本目から主導権を自分が握ろうとした。一本目でどちらかのサイドに相手を小さく振って、次の返球を待つ。その返球が甘いと判断したら、二本目はもう少し大きく逆サイドに振る。場合によっては、裏をかいて同じサイドに振ることもある。その返球次第で三本目で勝負に出る。バウンドして高く弾む前にボールをヒットしてオープンコートに打ち込み、そのままネットを取ったり、コーナーいっぱいを狙ったり、ショートボールやドロップボールを打ったりと、多彩な攻撃を仕掛ける。このゲームで再三にわたって奏効したドロップボールはこの「三本目」がこの試合でうまく機能したことを示している。

世界のトッププレーヤーの中では上背がない錦織だが、ボールを低い位置でも高い位置でも、またベースラインからでもサービスラインからでも多彩なショットが打てるので、一本目や二本目が相手の読みを外し、相手のバランスを崩す。その結果、この三本目が効いてくる。単純な攻めしかできないプレーヤーには考えられない戦略だ。この組み立てがきれいに決まると、そのポイントだけではなく、そのゲーム全体を有利に運びやすくなる。相手は、少しずつ精神的に追い込まれていくだろう。

まともに打ち合っては、高く弾むナダルのショットが上背のない錦織を苦しめるのは明らかだ。力対力の打ち合いでナダルに力の入りにくい高いボールを打たされて、多くの下位ランカーたちは試合をさせてもらえずナダルの前を敗者として通り過ぎていった。

錦織は違った。3本の組み立てをポイントの最初から使うことで、ナダルの跳ねるボールを打ち合うことを回避した。もちろん、その3本の組み立ては、すべてのショットに多少のリスクを伴う。自分のボールが甘いと一気に逆襲を受けるし、リスクが高い分だけ多少のミスは避けることができない。

このゲームの統計(STAT)で錦織のネットポイントとアンフォースド・エラー数がともにナダルの倍以上だったのは理由がある。ウイナーの数がナダルと錦織で同数だったのも同じ理由だ。繰り返しドロップショットを決めナダルを翻弄したのは、この1本目から2本目にかけてのおぜん立てがあってこのことだ。2013年ウィンブルドン男子決勝でのジョコビッチの意味のないドロップショットの繰り返しとは全く質の異なる、レベルの高い戦略に裏付けられていた錦織のドロップショットだったのだ。

3本で少しずつ厳しいボールを配給して相手を仕留める方法は目新しいものではない。しかし、現代の高速ストロークを主体とするテニスにおいてこれを実践するには、スピードに負けない反応の速さに加えて正確なコントロールと相手の裏をかくイマジネーションが必要となる。錦織は、パワーでは多くのトッププロに劣るが、これらのすべてのタレント(能力)を備えている。

極端なパワーや特殊な技術ではなく、厚いフォアハンドグリップであるにもかかわらずコートの中でコースを広く打ち分けることができ、かつイマジネーションあふれたプレーができる錦織には最適な戦略だ。ナダルが、この試合後のインタビューで「錦織はボールのコースを変えてくる」と指摘したのは、おそらくこのことだと思う。

Youtubeで見る数年前の錦織であれば、この戦略は難しかったと思う。このころの錦織のプレーは、今日の試合と比較するとまるでスローモーションのようだ。今の錦織には、この戦略が可能なだけの体の動きの速さがある。ほんの少し、おそらく、0.1秒程度であっても足の動きが遅れるだけで、ボールはもうネットしたりアウトしたりする。恐るべき高速な世界に錦織はいる。

この戦略がおおむねナダルに通用したことは、錦織の今後のプレーの方向性を確固たるものにしたに違いない。ナダルに通用するということは、世界のほとんどのプレーヤーに通用するということだ。あとはその精度を上げ、ボールの選択肢を増やしていくだけだ。それだけで、錦織はトップ10に必ず入れる。それが明らかになっただけでも、この敗戦の授業料は決して高かったとは思えない。

 2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(2) 意義ある敗戦
2014年全豪オープン4回戦 ナダルVS錦織(番外編) 号泣
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Mecir's Tennis (213) バックハンドでラケット面が開かないこと

フォアハンドの技術についての話題が圧倒的に多いこのブログですが、今回はメシールのバックハンドについて書きます。

フォアハンド同様にバックハンドもテイクバックでラケット面が開く(上を向く)のはよくありません。よくないというよりも、ラケット面は絶対に上を向いてはいけません。

ラケット面がテイクバックで真上を向く人はいない(真上を向いたらスライスしか打てません)ですが、上を向いてはいけないというのはそういう意味ではありません。ラケット面の法線方向は、常に水平よりも下を向いていなくてはいけないということです。

これは、フォアハンドと全く同じです。テイクバックでラケット面が上を向いてしまうと、ラケット面はそのまま下から上の軌道を取った時に、順回転のかからない全くのフラットボールを打つことになります。

両手バックハンドは片手で打つフォアハンドと比べてスイング中にラケット面がぶれにくいので、それでもフォアハンドほどは不安定になりません。また、両手バックハンドは片手で打つフォアハンドのように腕でスイングすることができない(体の回転でしかスイングができない)ので、スイングスピードもフォアハンドほど出ませんので、フラットにボールを打ってもボールがすっ飛んでしまいにくいという特徴があります。

とはいえ、それでもラケット面(の法線)が水平よりも上を向いてはよくありません。何よりも、順回転がかかったフラットドライブボールを打つことができません。(ましては、ヘビースピンは打てません。)

では、どうすればよいか。ここでは、ラケットを縦に使う脳内イメージを活用します。つまり、ラケット面上で縦方向(ラケットのブリッジ=付け根方向からラケットのトップ方向)にラケット面上でボールを転がすイメージです。順クロス、ダウン・ザライン(ストレート)、逆クロスのそれぞれについてこのイメージでスイングをします。ボールを運ぶ方向に、いわゆる「縦振り」をするわけです。

これにより、スイングはグリップ側から出て行ってラケットヘッドが遅れ出てくるイメージになります。また、(縦に長い)ラケット面を活かすことで、よりうまくラケット面上で回転をかけることができます。

何よりもラケット面がテイクバックで開きにくくなります。ラケット面がテイクバックで開いていると、逆クロスには打つことができません。この、「ラケット面を縦に使って縦振りする」脳内イメージにより、逆クロスバックハンドも打つことができるようになります。

「バックハンド縦振り」の弱点は、スイングスピードを速くすることができないことです。縦方向に長くスイングするのが目的ですから、逆いうとスイングは長く大きくなります。「じんわり」と押し出していくようなイメージです。

が、それでよいのです。メシールのグランドストロークは、鋭く早くスイングすることでスピンの効いたボールを打つタイプではありません。ラケット面上で長くボールをホールドしてフラットドライブでしっかりと打ち出すのがメシールのグランドストロークですので、ラケット面の縦使いはまさにメシールのテニスなのです。

Mecir's Tennis (212) ハイボレーとローボレー

ハイボレーとローボレーはどちらが簡単でしょうか。

プロはともかくとして、アマチュアプレーヤーの場合は、ハイボレーが得意な人もいれば、ローボレーが得意な人もいると思います。初心者にとってはローボレーは難しいですが、薄いグリップを覚えると、逆に、ローボレーの方がむしろ安定しているという人も多いのではないかと思います。

ところが、ハイボレーが調子よく打てる時にローボレーがうまく打てないことや、その逆になる場合があります。昨日はローボレーは問題なく打てていたのに、今日はなぜかネットに引っかかるなぁ、というような場合です。

これは、ハイボレーとローボレーでは役割が違うことからきていると思います。ハイボレーはパンチ、ローボレーは流すイメージです。ハイボレーは短く打ち、ローボレーは深く打ちます。ハイボレーは力強くボールをヒットしますが、ローボレーはボールを運ぶように打ちます。

メシールのテニス(210)でも書きましたが、力強くボールを打つ場合にはラケットを短く持つことが有効です。つまり人差し指の付け根を意識するわけです。一方、運ぶように打つ場合にはグランドストロークと同じように小指の付け根を意識してボールを打ちます。

これを切り替えることで、どちらのボレーも安定して打てるようになります。言い換えると、この違いを意識しておかないと、重心が人差し指に来ている日は「今日は、なぜか、ローボレーがうまくいかないなあ」ということになるわけです。

Mecir's Tennis (211) ドロップボレーのコツ

ドロップボレーでボールを殺そうとする際に、打点を後ろに遅らせてしまっていることはありませんか?打点を後ろにすることでボールの勢いを吸収できるように無意識に感じるからだと思います。

が、これは間違いです。むしろ逆です。

ドロップボレーを打ちたい場合は、打点を前にします。そして、通常のボレーよりも前足をやや前に踏み込むぐらいのイメージを持ちます。そして、打球の勢いをその踏み込み足で吸収してしまいます。踏み込む勢いや足のクッションで吸収する勢いの量をコントロールします。吸収量は相手のボールの勢いやネットからの距離、ボールにかける逆回転の量などによって異なります。

また、踏み込むことで、ラケット面を(開いて)前に滑らせることができるために、ボールに逆回転をかけやすくなります。打点を後ろにするとラケット面が地面に垂直になるため、ボールに開店をかけることが難しくなります。

これは、アプローチショットのドロップショットにも応用が利きます。打点を前にすることでスイングに勢いが出て、相手にドロップショットだと分かりにくくなるという利点もあります。

Mecir's Tennis (210) フォアハンドアプローチショットのコツ

フラットドライブ系のフォアハンドは、スピン系と比較して、アプローチショットではやや不利です。スピン系では、ハードヒットしてネットに出ても、回転を大きくすることでベースラインより内側でボールをバウンドさせることができます。コントロールが生命線であるフラットドライブでは、ネット近くでボールを(強く)打つことは、ベースライン付近よりも打ち込める範囲が狭くなります。しかも、アプローチショットでは足を動かしながらになりますので、さらに微妙なコントロールは容易ではありません。

しかし、もし、ヘビースピンでアプローチショットを打つのであれば、それはフラットドライブ系の(つまりメシールの)テニスではなくなってしまいます。フラットドライブ系で、いかに安定したアプローチショットを打つか。これは、案外難しいテーマです。

そこで、フラットドライブ系で安定して(つまり正確なコントロールで)アプローチショットを打つ工夫が一つあります。それは、ラケットを短く持つことです。ラケットを短く持つことで、ボールに対するパワーは小さくなりますが、ボールコントロール精度が向上します。もともと、アプローチショットではネット方向への勢いがあります。つまり、大切なのはパワーではなく、前に動きながらでも狙った場所に正確にボールを運ぶコントロールです。

が、もちろんですが、アプローチショットでラケットを短く持つことはできません。ショットによってラケットの持つ場所を変えるのはあまりに高等技術であり、一般には(メシールのテニスでは)そのような方法は望ましくありません。(そんなことができる人がいるのでしょうか?)

そこで、ラケットを持ち替えずにラケットを短く持つ方法を紹介したいと思います。それは、人差し指の付け根を意識してスイングをするのです。通常のフォアハンドグランドストロークでは、メシールのスイング(フラットドライブ系)では小指の付け根に一番力が入ります。これにより、ゆっくりと大きなスイングができます。

が、アプローチショットで短くスイングをする場合には小指の付け根を意識したスイングを人差し指の付け根の意識に切り替えます。これは、人差し指の付け根だけで打つという意味ではありません。あくまで、意識をそちらに置くということです。(小指の付け根も同じ。)もちろん、スイングそのものを変える必要はありません。スイングは通常のストロークと同じです。

これにより、ラケットを短く感じ、その分だけボールが飛んでいきにくくなります。(そして、ボールが飛んでいきにくいという意識も重要です。)また、ラケットが短くなることでスイング半径を小さく(やや速く)することができます。ラケットが短い分、コントロールもしやすくなります。

同じアプローチショットでも、意図的に大きなスイングでゆっくりとラケットを動かして打つ場合もあります。(特に、足を止めて打てるような余裕がある場合など。)このような場合は、小指の付け根を意識したスイングで大丈夫です。アプローチショットによって、意識する指を換えればよいのです。

2014年1月19日日曜日

Mecir's Tennis (209) プロのテイクバックではラケットヘッドが後ろを向かない理由

多くの(男子)プロに共通していることの一つに、テイクバックでのラケットヘッドの向きがあります。アマチュアはテイクバックでラケットヘッドが後ろを向きますが、プロは後ろを向きません。

具体的に書くと、プロのテイクバックではラケットヘッドの向きが(ネット方向を0時として)6時方向または7時〰8時方向を向きます。

トッププロは、テイクバックトップでも6時より前方向になります。つまり、アマチュアのほうがテイクバックが大きいわけです。これはどうしてでしょうか。

以前、三角巾の図でテイクバックの開始を説明しました。つまり、テイクバックではラケットは(脳内イメージで)ネット方向を向きます。実際にも、レディーポジションでラケットヘッドはネット方向(0時方向)をむいていますから、そこからだんだん1時、2時と進んでいくわけです。

このヘッドの回転は、腰の回転です。テイクバックでは腕を使わないのですから、腰の回転でラケットヘッドは0時から1時、2時と進んで行くわけです。

プロは、このテイクバックを腰の回転で先導し、そのあとのフォワードスイングの前半も腰の回転を使います。つまり、腕は(まったく動かさないというわけではないものの)動かさないイメージです。腕を使い始めるのは、インパクト直前からです。

アマチュアは、フォワードスイングをどうしても腕で振ってしまいます。そのためには力とラケットの勢いが必要で、そのためにラケットを大きく引くことになります。ラケットヘッドは、勢いをつけるために、4時、5時、6時…とどんどん後ろを向いていくわけです。

プロはフォワードスイングを腰の回転で開始しますから、ラケットヘッドは脳内イメージでは2時ぐらいでフォワードスイングが始まります。実際にも、5時ぐらいになります。

ポイントは、(テイクバックはもちろんのこと)フォワードスイングを腰の回転でリードできるかどうかです。これがプロとアマチュアの違いです。

2014年1月13日月曜日

Mecir's Tennis (208) フォアハンドでのテイクバックのラケット面

フォアハンドのテイクバッグでのラケット、腕、手首の動きはとても複雑で、おそらく文章で表現するのは無理なのではないかと思います。言い換えれば、これまでに誰も正しいラケットの動きを説明できなかったのではないかと思います。

と言っても、では私が解説できるわけではないのですが、ヒントになりそうなことを書いてみたいと思います。

テイクバックの前半では腕を動かさず、腰の回転だけでラケットを引くことは何度も書いています。その結果として、メシールのフォアハンドでは、男子プロテニスプレーヤーのトップ選手の中で唯一、ラケットヘッドが下を向いてテイクバックします。

そのあとは、相手の打ったボールにもよりますが、大なり小なりのテイクバックが入ります。(まったく腕を動かさないテイクバックはNGです。スイングには、かならず「遊び」の部分が必要です。車のアクセルと同じです。)

  • その際のテイクバックでは、まず、ラケット面を必ず伏せた脳内イメージを持ちます。
  • さらにラケットヘッドをネットに向ける脳内イメージを持ちます。

実際にはラケットヘッドはネットを向きません。4時から5時ぐらいの方向を向きます。(0時がネット方向。)しかし、これは、ラケットヘッドが6時以降(6時、7時、8時方向など)を向くことを避けるための脳内イメージです。ラケットヘッドは、絶対に6時方向を向いてはいけません。

ラケット面が伏せられている(脳内イメージを持つ)限りは、そのあとのテイクバックは比較的自由です。相手のボールが遅い場合は大きなテイクバックでもよいですし、速い場合は小さなテイクバックで構いません。相手のボールや自分のうちタイボールに合わせます。ただし、ラケット面は伏せたままです。

ラケット面を伏せたスイングイメージ(脳内イメージ)として有効なのは、ラケットを伏せたままラケット面の法線方向にラケットを動かすことです。また、手首(リスト)を使わないことです。これにより、ラケット面が間違えても上を向くことがありません。

そこまでこだわるのは、フラットドライブ系のフォアハンドでは、どうしてもラケット面が開きやすいからです。これまで何でも書いていますが、インパクトではラケット面がボールに垂直にあたるからと言って、テイクバックでもラケット面が開いてはいけないのです。伏せた面がフォワードスイングででだんだん開いていき、ボールをヒットするときにちょうどラケット面がボールに垂直になるのです。

フォワードスイングは、再び腕を使わず、体の回転でラケットを運びます。腕を使うのはインパクト直前からです。インパクト直前からは、逆に、腕を使います。それも、上と同じ「遊び」が必要だからです。この小さな遊び(腕の操作)で最終的なボールコントロールをします。

テイクバックでラケット面が伏せられていても、体の回転に合わせてフォワードスイングをすると、インパクト時ではちょうどラケット面がボールに垂直に当たります。言い換えると、そうなるようにフォワードスイングをします。イメージとしては、インサイドアウトで下から上にラケットスイングをすることで、伏せられたラケット面がインパクトで垂直になるはずです。

(このあたりの3次元的なラケット面の動きは文章にするのはなかなか難しいです。といっても、逆に、絵にするのも難しいのですが。)

フォワードスイングでは、フラットドライブ系のボールを打つ場合にはインパクトからラケット面の法線方向にラケットを振ります。スピンポールを打ちたければスイング方向がややフレーム方向になるようにスイングします。このあたりは、打ちたいボールに合わせて加減を変えてやることになります。スイングスピードや腕の力は打ちたいボールよって変えてはなりません。同じスピードで、同じ力で、ただしスイング方向とラケット面の法線方向を少し変えるだけです。

Mecir's Tennis (207) フットワークとスイングは一つ

このブログでは、「メシールのラケットスイングの方法論」に注目した記事を多く書きました。つまり、どちらかというとメシールのスイングの上体(上半身)の使い方について議論してきました。特にフォアハンドの分析を重点的に行いました。

最近、メシールのテニス(206)で下半身の重要性を書きました。そして、このブログのテーマも、今後はスイングの分析ではなく、下半身の使い方を含めたテニスのプレー全体の話題が中心となっていくと思います。メシールの独特で美しいスイングを活かして、どのようにゲームを戦うのかというのが、このブログの話題の終着駅です。もちろん、プレースタイル全体の議論についても、メシールのビデオの分析結果のまとめが中心となります。

なお、話題が上半身から下半身の使い方に変わっていくということは、テニススイングでは上体の使い方は大切なのではないという意味ではありません。むしろ逆です。正しいフォーム(上体)を身に着けていなければ、フットワークやステップワークなどの下半身を考えてもあまり意味がありません。正しいフォームが身についてこそ、そのフォームで動くボールをヒットする下半身の使い方を考えることができるのです。

で、さて、広いシングルスコートのあらゆる場所に飛んでくるあらゆるタイプのボールを打ち返すために、どういう意識を持てばよいでしょうか?フットワークは大切と誰もが言いますが、それはどういうことでしょうか?

最近、Youtubeで"Miloslav Mecir"で検索すると、二人の選手のビデオが混在してリストされます。ファンの方はご存じの通り、Miloslav Mecirとその息子(Jr.)です。Miloslav Mecir Jr.は1988年1月20日生まれですのでもうすぐ26歳です。(この記事は、2014年1月13日に書いています。)

往年のメシールファンは、息子であるメシール・ジュニアに往年のプレーを求めると思いますが、それはやはり酷ですね。おそらく、トッププロの世界ではメシールの往年のテニスは簡単には通用しないでしょう。

二人のミロスラフ・メシールのプレーを比較するわけではないですが、映像を見ていると明らかに父メシールが優れている点があります。それが、ステップワーク(フットワーク)です。以前も書いたのですが、メシール(父)のステップワークはテニス史上のプレーヤーの中でもトップクラスだったのではないかと思います。二つの、矛盾する評価を、当時のメシールはされていました。
  • メシールのフットワークは、ほとんど動いていないようにみえる。ゆったりと動いている。
  • メシールのフットワークは、猫のように素早い(ビッグキャット)。
この二つは、全く違うことを書いています。当時は、誰もその理由を解説してくれませんでした。私にも、この矛盾する二つは、ともに正しいように思います。どうしてなのだろう?

今、私はこんな風に思います。「メシールにはフットワークという考え方がなかったのだろう」、と。

例えば、コートの中心に立つと、コートの一番端に来たボールまでは、足を3歩動かすと届きます。特にメシールのフォアハンドは(当時としては珍しい)オープンスタンスでしたので、本当に3歩でボールを打つことができます。結局、「3歩動いてボールをヒットする」ですが、この「3歩動く」のと「ボールをヒットする」のを別の動きと考えるか、ひとつの動きと考えるかが、メシールのフットワーク(ステップワーク)の考え方の違いです。

ややこしいと思われるかもしれませんが、こういうことです。つまり、「テニスのスイングは足を3回動かしてボールを打つ」とスイングを定義してしまえば、フットワークという考え方はなくなるのです。ステップそのものがストロークの一部です。

これがメシール独特ののフットワークイメージです。メシールのテニスでは、フットワークとスイングは一つなのです。フットワークはスイングの一部でしかないのです。特に3歩目は、ボールに近づくためのステップではありません。3歩目はボールをヒットするための踏み込みとなるわけです。

こう考えることで、「ボールのところに走って行って打つ」という考え方は消えます。いわゆるフットワークはなくなります。これが、上の二つの矛盾するメシールのフットワークイメージの理由ではないかと思うのです。フットワークがないのですから動いていないように見えます。一方で、足の動きがスイングの一部ですからするすると(自然に、滑らかに)ボールに近づいていくように見えます。

この考え方には弱点もあります。その一つは、細かい足の調整はできないということです。多くのプレーヤーが「時間に余裕があれば細かい足の動きで調整する」と考えるでしょうが、メシールが横の動きにおいてグランドストロークでそのような細かいステップの調整をしているのを見たことがありません。メシールは最初から3歩でボールを打つと決めていますので、その3歩がボールに近づくステップでもあり、同時に調整するステップでもあります。

Mecir's Tennis (206)で書いた「上体に力を入れない」ということと、上に書いた「3歩のステップがスイングの一部」という考え方の延長線上にあるのは、次のイメージです。

ゲーム中には意識も力もすべて下半身にあり、3歩でボールを打てる場所と体勢を作ることだけに集中する。 

ボールが飛んできたら、とにかく3歩でよい形を作ります。よい形ができれば、腰の回転を強くすることで少しでも強い球を打つようにしますが、その場合にも上体には力を入れません。

メシールは、あるインタビューでインタビュアーに「あなたの腕の使い方は独特ですね」と言われてこう返事をしたそうです。「テニスは足でするものだ。」

これを、私は、いわゆる「テニスは足ニス」ということかと思っていたのですが、実は違うのかもしれません。メシールは、コート上で下半身のことしか考えていなかったのではないかと思います。以下にボールに対してよい位置で3歩目のステップでボールをヒットするのか、それだけを考えてグランドストロークをしていたのではないかと想像するのです。相手がどんなボールを打ってきても、スピン系のボール、スライス系の切れていくボール、フラット系の深い強い球、どんなボールが来ても、3歩目でボールを打つスイング。これがメシールのテニスだと思います。

Mecir's Tennis (206) 上半身(特に腕)の力を抜くこと

強いボールを打ちたいとき、振り遅れたスイングを挽回したいときがあります。このようなときには、どうしても強くラケットを振りたい、速くラケットを振りたいと感じるものです。

チャンスボールや甘いボールが来て相手を追い込みたい場合でも、相手のボールが深かったり厳しかったりして追い込まれた場合でも、上半身に力を入れないこと、腕に力を入れずにスイングすることが、メシールのテニスの重要な点の一つです。

王貞治はあれだけのホームランを打った往年の名選手ですが、それほど体格が立派だったわけではありません。その体格は、とても世界で最もホームランを打つ選手には見えませんでした。その王選手が現役時代に受けたインタビューで、こんなことを言っていました。「スイングは力ではない。スイングの力配分は、2→8→2が理想だ。」インパクトの一番力が入るところですら、8割の力で打つわけです。それが、あの体格でもホームランを打ち続けることができた理由の一つだったと思います。

メシールのグランドストロークのフォームは、非常にコンパクトです。特に、(何度も書いていることですが)テイクバックはラケットを持ったまま上体を回転するだけのシンプルでコンパクトなフォームです。利点も多いコンパクトなフォームですが、欠点もあります。たとえば、コンパクトなテイクバックの場合は、スイング全体でタイミングやリズムを取ることが容易ではありません。

たとえば、余裕があるときに強いボールを打つ場合がよくあります。このような場合、一般にはテイクバックを大きくとると思いますが、メシールのようなコンパクトなスイングではあまり大きなテイクバックを取ることができません。(とはいえ、テイクバックが全く変わらないわけではありませんが。)

テイクバックを大きくすることでで力が入りすぎると、テイクバックのスイング軌道が微妙にずれます。スイングが微妙にずれると、薄いグリップのフォアハンドでは、ボールが安定しません。その結果コントロールが乱れ、チャンスボールであるはずが、逆にボールがアウトしたりネットしたりすることがあるのです。

では、強く・速くスイングしたいときにはどうすればよいでしょうか?まず強調したいのは、「そのような場合でも、スイングスピードを変えてはいけない」ということです。しかも、その力は7割~8割程度です。つまるところ、メシールのテニスではフルスイングをしてはいけないのです。

正確に言うと、上体や腕の力でフルスイングをしてはいけません。通常のストロークと違うのは、下半身です。足や腰などです。足については、より正確なポジショニングをします。正確であればあるほど、強くスイングをすることができるからです。そして、腰の回転を速くします。速くといってもフル回転するわけではありません。通常よりも力強く振る程度です。

「下半身を強く使おう」という意識は、それだけで十分です。どこをどう使うと考えずに「下半身を使って強くボールを打とう」と思うだけで十分です。なぜなら、人は無意識に、体勢を崩してまではボールを強く打たないからです。つまり、いくら下半身を強く使おうと思っても、バランスを崩すことは(無意識に)ありません。

このことは、上体とは異なる点です。上体、特に腕を強く振るとスイングが乱れ、ラケット面が微妙にずれます。何度も書きますが、薄いグリップではラケット面のずれは致命傷です。下半身に力を入れても、入れすぎても、ラケット面がずれることはありません。

つまるところ、フラットドライブ系のフォアハンドでは、チャンスボールでは、速い球を打つことを目指すのではなく、より正確に狙った場所にボールを打つことを優先するわけです。

相手に押し込まれてテイクバックが遅れている場合も同じです。スイングを速くすることで挽回しようとしてはなりません。もともとがテイクバックがコンパクトなのですから、多くの場合は挽回は可能です。挽回をする際には、腕に力を入れてスイングスピードを上げるのではなく、テイクバックをよりコンパクトにします。または、どうしても力を入れるのであれば、背筋の力を使います。

しかし、その前に、フットワーク(正確にはステップワーク)やスイング(フォーム)で挽回することを考えます。足を踏み出して打つことは当然できませんので、バックステップを使います。または、バギーホイップなどを使います。これによりスイングの形が少し崩れるのですが、それでも腕の力を変えてはいけません。

全力でボールを打たないというのは、現代テニスの常識からはNGなのかもしれません。しかし、メシールのテニスにおいては、「全力でヒットしない勇気」「7割から8割の力でボールを打つ感覚」が重要となります。フルスイングをしなくてもよいボールを打つことができるということは、ボールと体の位置関係が正しいということでもあります。力が入りやすい位置にボールを持ってこなくては、「脱力のテニス」はできません。

しかし、もし、ボールの位置がずれたとしても、それでも力を入れてはいけないのです。その場合には、スイングを崩して打ちます。本来は望ましくないことですが、多少崩れたとしても、腕などの上半身に力を入れてしまうよりははるかにましです。実際、メシールにビデオを見ていると、実はスイングバランスが崩れていることが頻繁にあります。トッププロであっても、常に100%の位置でボールをヒットできるわけではないのです。

「上体を強く使わない勇気」は、本当に勇気が必要です。しかし、思い出してください。メシールが全力でボールをヒットしている姿を見せたことがあるでしょうか?そのことを信じて、7割、8割の力でボールを打つのです。

2014年1月2日木曜日

25年を挟んだトランプのカード合わせ(マレー&レンドル、フェデラー&エドバーグ、ジョコビッチ&ベッカー、錦織&チャン…)

1980年後半のメシールが活躍した時代には、世界の男子プロテニスはタレントがそろっていました。マッケンローやレンドル、ベッカー、エドバーグ、ヴィランデル、コナーズといったNo.1経験選手はそれぞれ個性的で、さらにはメシール、マイケル・チャン、ヤニック・ノア、ルコントといったユニークな選手がバイ・プレーヤーとして揃っていました。今から思うと、テニスの歴史の中でも際立った華やかな時期だったのではないでしょうか。

それが理由かどうかはわかりませんが、この世代の選手たちが、現在の男子テニスプレーヤーのコーチととなるケースが続いています。マレーはレンドルをコーチとして迎いいれて二人の念願のウィンブルドンを勝ち取りました。それを習うかのようにジョコビッチがベッカーと、フェデラーがエドバーグをコーチとして契約したのです。日本の錦織圭がマイケル・チャンと契約をしたニュースを見ました。シャラポアとコーチ契約をしたコナーズは、あっさりと契約解除されたようですが、それにしても・・・どういうことでしょうか、このコーチ契約ラッシュは。

後は、ナダルがマッケンローかヴィランデルと契約すれば、一揃い当時と現代の選手でセットができるのではないかと思ってしまいます。

以前も書きましたが、この時代の名プレーヤーは、みんな何か弱点とそれを補う素晴らしい長所を持っていたことが特徴でした。マッケンロー、コナーズとエドバーグのフォアハンド、レンドルのボレー、ヴィランデルのサーブなどは、私が見ていても到底美しいといえるものではなかったのです。

今のプレーヤーは、いわゆるトップ4を含めて全員がオールラウンドプレーヤーであり、大きな欠点を持っていません。テニス技術は、明らかに今の選手のほうが上だと思います。技術的には、レジェンドよりも専任コーチの方が最新技術のコーチングには向いているのではないかと思います。

一方、現在のトッププレーヤーは当時の選手たちと比べてもメンタルも安定しており、マナーもよく、メンタル面でも現在のトッププレーヤーの方が全般に優れている印象があります。実際、誰かがコメントしていましたが、「当時のトッププレーヤーたちは選手間での仲が悪かったが、今は違う」そうです。今のトッププレーヤーのほうがはるかに「大人」だと思います。

そう考えると、私には彼らがレジェンドから何をコーチされるのだろうかと思ってしまいます。勝手に想像してみました。

もしかしたら、今のトップ選手はあまりに力が均衡してしまい、そこから抜け出すためのきっかけを手探りしているのかもしれません。その時に、実績が豊かなレジェンドたちから何かヒントを得ることができるのではないかと思ったのかもれません。実際、レンドルとマレーのコンビは全米オープンやウィンブルドンでの優勝を考えると成功しているといえるでしょう。マレーの成功で、もしかしたら、レジェンドたちから新しい何かを学ぶことができると、ほかのトッププレーヤーも考えているのでしょうか。

今後、どのコンビが成功するのか、1980年代後半のテニスシーンを楽しんだ私には、2014年の男子プロテニスのゲームを観戦する楽しみが一つ増えました。

ミロスラフ・メシールは、以前の記事にも書きましたが、2014年もデ杯の監督をするようです。したがって、おそらく、特定の選手のコーチング職には就かないでしょう。社会主義国である(であった?)スロバキアらしく、国の選手の育成がメシールの本業なのでしょう。が、しかし、あの美しいテニスを、理にかなったテニスを、誰かに伝えていってほしい。そういう気持ちを私には拭うことができないのです。