2014年1月13日月曜日

Mecir's Tennis (207) フットワークとスイングは一つ

このブログでは、「メシールのラケットスイングの方法論」に注目した記事を多く書きました。つまり、どちらかというとメシールのスイングの上体(上半身)の使い方について議論してきました。特にフォアハンドの分析を重点的に行いました。

最近、メシールのテニス(206)で下半身の重要性を書きました。そして、このブログのテーマも、今後はスイングの分析ではなく、下半身の使い方を含めたテニスのプレー全体の話題が中心となっていくと思います。メシールの独特で美しいスイングを活かして、どのようにゲームを戦うのかというのが、このブログの話題の終着駅です。もちろん、プレースタイル全体の議論についても、メシールのビデオの分析結果のまとめが中心となります。

なお、話題が上半身から下半身の使い方に変わっていくということは、テニススイングでは上体の使い方は大切なのではないという意味ではありません。むしろ逆です。正しいフォーム(上体)を身に着けていなければ、フットワークやステップワークなどの下半身を考えてもあまり意味がありません。正しいフォームが身についてこそ、そのフォームで動くボールをヒットする下半身の使い方を考えることができるのです。

で、さて、広いシングルスコートのあらゆる場所に飛んでくるあらゆるタイプのボールを打ち返すために、どういう意識を持てばよいでしょうか?フットワークは大切と誰もが言いますが、それはどういうことでしょうか?

最近、Youtubeで"Miloslav Mecir"で検索すると、二人の選手のビデオが混在してリストされます。ファンの方はご存じの通り、Miloslav Mecirとその息子(Jr.)です。Miloslav Mecir Jr.は1988年1月20日生まれですのでもうすぐ26歳です。(この記事は、2014年1月13日に書いています。)

往年のメシールファンは、息子であるメシール・ジュニアに往年のプレーを求めると思いますが、それはやはり酷ですね。おそらく、トッププロの世界ではメシールの往年のテニスは簡単には通用しないでしょう。

二人のミロスラフ・メシールのプレーを比較するわけではないですが、映像を見ていると明らかに父メシールが優れている点があります。それが、ステップワーク(フットワーク)です。以前も書いたのですが、メシール(父)のステップワークはテニス史上のプレーヤーの中でもトップクラスだったのではないかと思います。二つの、矛盾する評価を、当時のメシールはされていました。
  • メシールのフットワークは、ほとんど動いていないようにみえる。ゆったりと動いている。
  • メシールのフットワークは、猫のように素早い(ビッグキャット)。
この二つは、全く違うことを書いています。当時は、誰もその理由を解説してくれませんでした。私にも、この矛盾する二つは、ともに正しいように思います。どうしてなのだろう?

今、私はこんな風に思います。「メシールにはフットワークという考え方がなかったのだろう」、と。

例えば、コートの中心に立つと、コートの一番端に来たボールまでは、足を3歩動かすと届きます。特にメシールのフォアハンドは(当時としては珍しい)オープンスタンスでしたので、本当に3歩でボールを打つことができます。結局、「3歩動いてボールをヒットする」ですが、この「3歩動く」のと「ボールをヒットする」のを別の動きと考えるか、ひとつの動きと考えるかが、メシールのフットワーク(ステップワーク)の考え方の違いです。

ややこしいと思われるかもしれませんが、こういうことです。つまり、「テニスのスイングは足を3回動かしてボールを打つ」とスイングを定義してしまえば、フットワークという考え方はなくなるのです。ステップそのものがストロークの一部です。

これがメシール独特ののフットワークイメージです。メシールのテニスでは、フットワークとスイングは一つなのです。フットワークはスイングの一部でしかないのです。特に3歩目は、ボールに近づくためのステップではありません。3歩目はボールをヒットするための踏み込みとなるわけです。

こう考えることで、「ボールのところに走って行って打つ」という考え方は消えます。いわゆるフットワークはなくなります。これが、上の二つの矛盾するメシールのフットワークイメージの理由ではないかと思うのです。フットワークがないのですから動いていないように見えます。一方で、足の動きがスイングの一部ですからするすると(自然に、滑らかに)ボールに近づいていくように見えます。

この考え方には弱点もあります。その一つは、細かい足の調整はできないということです。多くのプレーヤーが「時間に余裕があれば細かい足の動きで調整する」と考えるでしょうが、メシールが横の動きにおいてグランドストロークでそのような細かいステップの調整をしているのを見たことがありません。メシールは最初から3歩でボールを打つと決めていますので、その3歩がボールに近づくステップでもあり、同時に調整するステップでもあります。

Mecir's Tennis (206)で書いた「上体に力を入れない」ということと、上に書いた「3歩のステップがスイングの一部」という考え方の延長線上にあるのは、次のイメージです。

ゲーム中には意識も力もすべて下半身にあり、3歩でボールを打てる場所と体勢を作ることだけに集中する。 

ボールが飛んできたら、とにかく3歩でよい形を作ります。よい形ができれば、腰の回転を強くすることで少しでも強い球を打つようにしますが、その場合にも上体には力を入れません。

メシールは、あるインタビューでインタビュアーに「あなたの腕の使い方は独特ですね」と言われてこう返事をしたそうです。「テニスは足でするものだ。」

これを、私は、いわゆる「テニスは足ニス」ということかと思っていたのですが、実は違うのかもしれません。メシールは、コート上で下半身のことしか考えていなかったのではないかと思います。以下にボールに対してよい位置で3歩目のステップでボールをヒットするのか、それだけを考えてグランドストロークをしていたのではないかと想像するのです。相手がどんなボールを打ってきても、スピン系のボール、スライス系の切れていくボール、フラット系の深い強い球、どんなボールが来ても、3歩目でボールを打つスイング。これがメシールのテニスだと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿