2011年8月20日土曜日

メシールのテニス(37) インパクトの瞬間にボールをしっかりと見ることの本当の意味

(メシールのフォアハンドGIFアニメーションはこちらです。)

フォアハンドストローク(バックハンドストロークも同じです)でボールをヒットする時には、ヘッドアップしないようにボールをしっかりと見ること。おそらく、最も言い古されたテニスの基本の一つでしょう。

このことについて、考えてみたいと思います。

私は、インパクトでボールを見るというセオリーは、ラケットの真ん中でボールをとらえることが目的だと思っていました。私だけではなく、そう考えている人は多いと思います。

が、実は、それだけではないのです。インパクトでボールをしっかりと見る理由。



図を見てください。これは、フォアハンドストロークを上から見たイメージ図です。この図は当たり前に見えると思いますが、注意する点がいくつかあります。

まず、鼻の方向(=目の方向)を見てみると、ボールが飛んできてからインパクトまで、顔は時計回り方向に動きます。インパクト後に、ボールを追いかける形で、時計と反対方向に鼻が動きます(図は省略)。メシールのビデオを見ると、この鼻の動きが忠実に守られています。(おそらく、どんな選手でも、同じでしょうが。)一方で、右肩は、当然ですが、中心線に沿って体が回転するのに合わせて時計反対回りの方向に動きます。(図を見てみてください。)時計周りに動く目(鼻)と時計反対周りに動く右肩。その両者は、どこかで出会います。いつ出会うのか。それが、インパクトの瞬間です。

図では、インパクトにおいて鼻と右肩が近くにあることが分かると思います。これは偶然ではありません。インパクトの瞬間に、鼻(正確にはあご)と右肩が近いことが、実は重要なのです。ボクサーがジャブを打つイメージを思い出してください。あごと前肩が近くになり、そこで腕を絞る(内回)ことでパンチに力を与えます。

テニスでも同じです。ボールを運ぶように打つイメージがあるメシールですら、実は、ボールをしっかりと打っている(たたいている)ということを、メシールのテニス(9)「ボールを強く打つということ」で書きました。

どうやって、ボールをしっかりと打つ(たたく)ことができるのか?その答えが、インパクトでボールを見るということだったのです。ボールを見ることにより、あごと右肩が近くなり、腕は内回することで、ボールに力が加わります。このパワーの伝達は、インパクトのときにのみ起こりますので、インパクト前後の力のメリハリにも有効です。頭が動かず、体の回転でボールを打てることにもつながります。

もう一つ、図では頭の位置が動いていないことにも注意してください。インパクト前後で頭が常に同じところにあります。(点線で、頭の位置を示しました。)これは、ストロークにおいて、頭の線(地面と頭を結ぶ線)が「軸」となっていることを示しています。インパクト前後では、この軸を中心として、体が回転するわけです。

メシールのフォアハンドストロークでは、テイクバックからインパクト、フォロースルーへの一連の動きで頭が全く動かないイメージがありましたが、その理由がこれだったのです。また、同様に、上体が立っているイメージもありますが、これも、インパクトで頭が動かず、頭を含む軸の回転でボールをヒットしていることのあらわれです。

さて、バックハンドはどうでしょうか?メシールのような両手打ちバックハンドでは、このインパクト時の“締め込み”を、あまり意識する必要がありません。なぜなら、バックハンドは両手打ちであるために、インパクトにおいては、否応なしにあごが左肩の上に来るからです。バックハンドは、体の構造上、インパクトでボールに力が伝わりやすいのです。

これが、(初級者は別として)一定のレベル以上になった時に、フォアハンドよりもバックハンドの方が安定したストロークを打つことができる理由なのです。

2011年8月8日月曜日

感動をありがとう

オリンピックで日本選手が優勝した時などに、よく、テレビなどで「感動をありがとう」という言葉を聞きます。

実は、正直に言うと、この言葉は、私にはかなり違和感がある言葉です。でも、どうしてこんなに違和感を感じるのか…。考えても、よく分からないのです。

もちろん、コートの上で素晴らしいプレーを見ると感動します。しかし、そこにあるのは、私に見せるためのプレーではありません。(プレーヤーは、私のことは知らないのですから。)

そこにあるのは、プレーヤーの自己表現としてのプレーなのです。私との間にあるのは、選手から私への片方向のコミュニケーションです。私から選手への感動を伝える方向は、本来はないのです。(もちろん、最近のインターネットコミュニケーションでは、ファンから選手方向へのコミュニケーションも可能にはなりましたが。)

選手は自分のプレーに満足し、観客はそれに感動して満足します。それでよいのだと思っています。そこにあるのは、ありがとうと言う感謝の対象とはどこか違うように思うのです。

李娜(Na Li)の全仏オープン2011決勝戦において、私は、李娜が伝統という大きな見えない敵と戦っている様子を見守りました。優勝の瞬間には、感動という言葉がぴったりの感情に包まれました。

その時ですら、「李娜、感動をありがとう」とは思わなかったのです。

選手とファンの間にあるモノは、一体なんなのでしょうか?今回は、答えにたどり着けませんでした。もう少し、いろいろと考えてみようと思います。

2011年8月1日月曜日

メシールのテニス(36) トロフィーポーズ時のラケットは立っているのがよい

メシールのテニス(32)で、右肘を後ろに引くために、サーブのテイクバックにおいて、ラケットヘッドをネット方向に向けるということを提案しました。

この方法は有効ですが、微修正をしたいと思います。

それはトロフィーポーズのタイミングでのラケットの位置です。

トロフィーポーズではラケットヘッドがネット方向を向くのがよいと書きました。これは間違いではないのですが、より有効な方法として、「ラケットヘッドがネット方向に向くのを意識しつつ、ラケットを立てる方がよい」ということです。

トロフィーポーズからインパクトに向けて、体が反り、ラケットヘッドが落ちるタイミングがあります。トロフィーポーズでラケットがすでに倒れていると、その後で、ラケットヘッドが落ちるタイミングで、ラケット面が上を向いてしまう傾向があるようなのです。

これが、私だけなのか、一般的なのか、よく分かりません。

いずれにしても、トロフィーポーズでラケットがある程度「立っている」ことにより、その後でラケット面が開かないようにできるようです。

トロフィーポーズ後のテイクバックでラケット面が開くことで、インパクト直前までラケット面が開くため、スピン系のサーブが打ちにくくなります。それを防ぐ方法が、今回の、トロフィーポーズでは、ラケットヘッドをネットに向けることを意識しつつ、ラケットは立っている方がよい、というお話です。

メシールのテニス(35) フォアハンドでラケット面が上を向かない方法

薄いグリップの場合には、テイクバックからフォワードスイング(インパクトまで)ででラケット面が上を向いてしまいがちです。上を向くといっても、真上を向くわけではありません。ほんのわずか、角度にして、5度から10度ぐらいでしょうか。地面と垂直な面からやや上を向いてしまうことがあります。

これは、特に初心者によくみられる傾向です。それには2つ理由があります。

一つは、初心者は、スピン系のボールではなく、フラット系のボールを打つことが多いからです。フラット系のボールでネットを超えるボールを打つためには、ボールを斜め上に打ち上げねばなりません。どうしても、ラケット面はやや上を向きます。もう一つは、初心者の場合、、速度の遅いボールを打つことが多いからです。速度の遅いボールは、ネットから直線的に飛んできません。高くバウンドして、上から下に落ちてくるところを打ちます。その結果、飛球線は上から下になり、ラケットスイング方向は下から上になります。ラケット面は、スイング軌道と垂直になりますので、自然にラケット面は上を向きます。



さて、薄いグリップのフォアハンドは、一定レベルになると、この「ラケット面が上を向く」という段階から脱却せねばなりません。想像ですが、フォアハンドがイースタングリップで、この段階で苦しんでいるプレーヤーは多いのではないかと思います。(といっても、薄いグリップのフォアハンド自身は少なくなっているので、プレーヤーの数は少ないでしょうが。)

私は、この2年間、このパラダイムシフト(おおげさ?!)に苦しんできました。メシールのテニス(27) ラケット面はいつからいつまでボールに垂直になるか?に書いたように、ポイントはラケット面がどこからどこまで垂直になるか(それ以外のときには、面を伏せる)ということなのですが、これは机の上の理屈です。コート上で実際に実践する脳内イメージを必要としていました。

メシールのテニス(33) 脳内イメージに書きましたが、脳内イメージは、それぞれの人のモノです。私がうまくいったイメージが、他の人でもうまくいく保証はありません。

そのことを前置きしたうえで、私がフォアハンドストロークでラケット面が上を向かないように、メシールのテニス(27) ラケット面はいつからいつまでボールに垂直になるか?に書いたようなラケット面ワークができるようになるために発見した脳内イメージは、次のようなイメージです。

それは、テイクバックからフォワードスイングにおいて、ラケットヘッドをネット方向(0時方向)に向けるというイメージです。実は、これは、メシールのテニス(31) メシールのフォアハンド(大胆な脳内イメージ)ですでに述べています。3つの図の真ん中の図が、そのイメージです。ラケットヘッドが、ネットの方向を向いているのがわかります。

実際に、コートで試してみると、当然ですが、ラケットヘッドは、全くネットの方など向いていません。(上の図の左図が実際のフォームです。)

ここが、脳内イメージの面白いところです。頭の中ではラケットヘッドがネットを向いているのですが、実際にはそうはなっていない。ただし、これにより、ラケット面が上を向くのを防ぐことができるのです。利き腕でラケットを持って(イースタングリップで)試してみてください。ヘッドをネット方向に向けると、ラケット面を上に向けることができないはずです。

繰り返しになりますが、脳内イメージというのは面白いものです。実際にそうなっていなくても、目標を達成する道具になるのですから。

メシールのテニス(34) 脇が開かないフォアハンドストローク

往年の名選手に、スウェーデンのシュテファン・エドバーグ(エドベリ)がいます。強力なスピンサーブと世界一美しいと言われたバックハンド、鋭い切れ味のボレーを持った、素晴らしい右利きの選手でした。

そのエドバーグにも、フォアハンドストロークという弱点(と言ってもよいでしょう)がありました。

グランドストロークがプレーの基本となる現代テニスの時代に生まれていたら、エドバーグは、世界ランク1位にもなれず、グランドスラムも取れなかったかもしれません。そう考えると、エドバーグは、よい時代に生まれたのかも知れません。

エドバーグのフォアハンドストロークの弱点は、私たちアマチュアでもわかるモノでした。脇が開くのです。そのために、ストロークが時々不安定になり、それがトップを争うレベルでは致命的でした。

利き腕の脇が開く(たとえば右利きでは右脇)という欠点は、エドバーグのような薄いグリップ(イースタンまたはコンチネンタル)の場合には、よくあることです。

脇を締めて打つというのは、野球のバッティングなどでは有効なこともあります。脇を締めるということは、体の回転と腕の回転を一致させることができ、それにより、腕やラケット(バット)のブレを少なくすることができます。体の回転力(回転モーメント)を直接腕の回転モーメントにつなげることもできます。

しかし、脇を締めることは、テニスの場合には、弊害の方が大きいでしょう。野球は、バッターボックス付近にボールが飛んできますので、打者は、最初からその場でボールを打つことができます。しかも、ストライクとなる膝から脇の高さ以外のボールは、打つ必要がありません。

テニスで、脇を締めてフォアハンドを打つと、ちょうどペンギンのようなフォームになります。(私は、ペンギンフォームと呼んでいます。)見ていても、とても窮屈なフォームです。それに近かったのが、やはり往年の名選手である、アメリカのジョン・マッケンローでした。あの、お世辞にもきれいだとは言えないフォアハンドストロークを覚えておられる方も多いことでしょう。

自由度がありすぎると右脇が開きすぎる(エドバーグ)、右脇を締めて自由度を殺しすぎると窮屈なフォームになる(ペンギン・マッケンロー)…。これが、コンチネンタルからイースタンの、いわゆる薄いグリップのフォアハンドの難しい点です。上に書いたように、野球と違い体のいろいろな場所(特に高低)でボールをヒットするテニスでは、ある程度の腕の自由度は必要です。制約なく自由にボールを打つことができ、しかし脇が開きすぎない、そんな方法はないか(そんな脳内イメージを作れないか)と考えていました。

その結果、私がうまくいった脳内イメージは、「右肘を下げる」というものです。


右肘を下げようとすると、右腕は、自然と、体から離れません。もし、離れそうであれば、「”前にならえ”のような(やや脇を締めた)形で右肘を下げる」という脳内イメージでもよいと思います。

フォアハンドストロークの際に、頭の中(脳内)で、「右肘を下げて打つ」という意識だけを持っておきます。低い球の場合は、どちらにしても脇が開きにくい(右肘も下がりやすい)のであまり問題になりません。高い球のときに、特にこの脳内イメージは有効です。エドバーグのフォアハンドストロークも、高い球のときに脇が開きやすかったのです。
ここで重要なのは、この脳内イメージを持っておけば、あとは自由に打ってよいということです。高い球も低い球も、この点だけ気を付けておけば、脇が開かずに、しかも(自由に打つために)ペンギンフォームにならずにすみます。

ビデオで見てみるとわかるのですが、実際には、私の右肘は、極端に下がっていません。たとえば、低い球を打つ際には、(実は当たり前ですが)右肘よりも右手首の方が低いところに来ています。高い球のときも、脇が開く場合との差は、ほんの少しです。(しかし、この、ほんの少しの差が大切なのです。)

つまり、脳内イメージは、ビデオで見た実際がどうなっているかではなく、正しいフォームになるイメージを、自分の脳内で言葉にすることが大切だということです。したがって、脳内イメージは、自分の中の言葉であって、映像で見た時にそのまま実践されているかどうかが重要ではないということです。

この点を誤解しないようにお願いします。

メシールのテニス(33) 脳内イメージはテニスに有効?!

脳内イメージというのは、おそらく、正しい日本語ではないでしょう。でも私は、気にっている言葉です。テニス技術を説明するときに、便利な言葉だからです。

プロとアマチュア(中) 自分自身のコーチになろう、で書きましたが、私は、アマチュアであっても、自分のプレーをビデオで撮影して後で確認するのは有効だと思っています。有効というだけではなく、アマチュアスポーツの楽しみ方として、良い方法だと思っています。「今日は調子がよかった」「あのパッシングショット一発が気持ちよかった」というような、その日その場限りの楽しみ方では、技術はなかなか上達しません。映像で自分のプレーを自分で分析し、一歩一歩上達していくには、自分が自分のコーチになるのが一番です。上達のスピードに制約のないのは、アマチュアのだいご味です。

ところで、ビデオで自分のフォームを撮影してみて驚くは、自分の中のイメージと実際の自分が違っていることです。(想像しているより太っていたとか、そういう意味ではありません(笑)。)

たとえば、ストロークで、自分では面を地面に垂直になるように振っているつもりなのですが、映像で見ると、面がやや上を向いている場合がありました。別項でも書きますが、フォアハンドで脇が意外に開いていて驚いたこともあります。

ビデオは、実際のコーチと違い、その場でアドバイスをしてくれません。自宅に帰って、映像を見て、自分の中のイメージと比較します。私の場合、オンコートでの自分の頭の中のイメージ(脳内イメージ)と実際の映像の中のプレーが、往々にして一致しません。一致しない方が多いぐらいです。

そして、その差分を頭の中で修正して、また、次のコート上でそれを試みるわけです。

時間がかかりますが、ゆっくり、ゆっくりと、自分のペースで自分のフォームやプレースタイルを作っていく。これが、私のやり方です。

(この方法を取り始めて、もう、2年がたちました。2年前のビデオを見ると、今とは全然違うフォームで打っています。変化はゆっくりですが、それなりに、効果があるということですね。)

脳内イメージは、大切です。それだけが、フォームを作り上げる手段です。

たとえば、「ラケット面が上を向く」という癖を修正したい場合。「面が上に向かないようにする」というのは、案外、難しいものです。ラケットは常に動きますし、面の向きも、自由度がありますから、この方向という風に固定することは容易ではありません。

そこで、脳内イメージを作ります。たとえば、「ラケットのヘッドを常にネット方向に向ける」というようなイメージです。実際、ストローク中にずっとラケットヘッドがネット方向を向くことはありません。しかし、私の場合、このように意識することで、ラケット面が開かなくなりました。(これは、また、別項で説明します。)

ただし、このような脳内イメージは、個人によって異なります。私の脳内イメージ(たとえば、「ラケットヘッドをネット側に向ける」)が、他のプレーヤーにも有効であるとは限りません。(おそらく、イメージは人によって異なるでしょう。)

したがって、ここでは、脳内イメージの内容について書く場合は、それらに気を付けて書くようにしますし、読まれる方も、その点に注意をして読んでいただきたいと思います。ただし、案外、私とその脳内イメージが共有できることがあるかもしれませんが…。