そのエドバーグにも、フォアハンドストロークという弱点(と言ってもよいでしょう)がありました。
グランドストロークがプレーの基本となる現代テニスの時代に生まれていたら、エドバーグは、世界ランク1位にもなれず、グランドスラムも取れなかったかもしれません。そう考えると、エドバーグは、よい時代に生まれたのかも知れません。
エドバーグのフォアハンドストロークの弱点は、私たちアマチュアでもわかるモノでした。脇が開くのです。そのために、ストロークが時々不安定になり、それがトップを争うレベルでは致命的でした。
利き腕の脇が開く(たとえば右利きでは右脇)という欠点は、エドバーグのような薄いグリップ(イースタンまたはコンチネンタル)の場合には、よくあることです。
脇を締めて打つというのは、野球のバッティングなどでは有効なこともあります。脇を締めるということは、体の回転と腕の回転を一致させることができ、それにより、腕やラケット(バット)のブレを少なくすることができます。体の回転力(回転モーメント)を直接腕の回転モーメントにつなげることもできます。
しかし、脇を締めることは、テニスの場合には、弊害の方が大きいでしょう。野球は、バッターボックス付近にボールが飛んできますので、打者は、最初からその場でボールを打つことができます。しかも、ストライクとなる膝から脇の高さ以外のボールは、打つ必要がありません。
テニスで、脇を締めてフォアハンドを打つと、ちょうどペンギンのようなフォームになります。(私は、ペンギンフォームと呼んでいます。)見ていても、とても窮屈なフォームです。それに近かったのが、やはり往年の名選手である、アメリカのジョン・マッケンローでした。あの、お世辞にもきれいだとは言えないフォアハンドストロークを覚えておられる方も多いことでしょう。
自由度がありすぎると右脇が開きすぎる(エドバーグ)、右脇を締めて自由度を殺しすぎると窮屈なフォームになる(ペンギン・マッケンロー)…。これが、コンチネンタルからイースタンの、いわゆる薄いグリップのフォアハンドの難しい点です。上に書いたように、野球と違い体のいろいろな場所(特に高低)でボールをヒットするテニスでは、ある程度の腕の自由度は必要です。制約なく自由にボールを打つことができ、しかし脇が開きすぎない、そんな方法はないか(そんな脳内イメージを作れないか)と考えていました。
その結果、私がうまくいった脳内イメージは、「右肘を下げる」というものです。
右肘を下げようとすると、右腕は、自然と、体から離れません。もし、離れそうであれば、「”前にならえ”のような(やや脇を締めた)形で右肘を下げる」という脳内イメージでもよいと思います。
フォアハンドストロークの際に、頭の中(脳内)で、「右肘を下げて打つ」という意識だけを持っておきます。低い球の場合は、どちらにしても脇が開きにくい(右肘も下がりやすい)のであまり問題になりません。高い球のときに、特にこの脳内イメージは有効です。エドバーグのフォアハンドストロークも、高い球のときに脇が開きやすかったのです。
ここで重要なのは、この脳内イメージを持っておけば、あとは自由に打ってよいということです。高い球も低い球も、この点だけ気を付けておけば、脇が開かずに、しかも(自由に打つために)ペンギンフォームにならずにすみます。
ビデオで見てみるとわかるのですが、実際には、私の右肘は、極端に下がっていません。たとえば、低い球を打つ際には、(実は当たり前ですが)右肘よりも右手首の方が低いところに来ています。高い球のときも、脇が開く場合との差は、ほんの少しです。(しかし、この、ほんの少しの差が大切なのです。)
つまり、脳内イメージは、ビデオで見た実際がどうなっているかではなく、正しいフォームになるイメージを、自分の脳内で言葉にすることが大切だということです。したがって、脳内イメージは、自分の中の言葉であって、映像で見た時にそのまま実践されているかどうかが重要ではないということです。
この点を誤解しないようにお願いします。
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