2010年10月17日日曜日

本当のプロ選手のプレーマナーについて

チェコスロバキア(今はスロバキア)のプロテニス選手であるメシール(メチージュ)の試合のDVDを、私はいろいろな形で手に入れて、今、20~30程度持っています。こんなにたくさんメシールのDVDを持っている人は、他にあまりいないのではないでしょうか?私の貴重なコレクションです(笑)。

もちろん、すべての試合を、目を皿のようにしてみました。1988年のウインブルドン準決勝のエドベリ(エドバーグ)戦などは、もう、何度見たことがわかりません。

メシールのプレーを見て、特筆すべきことの一つが、そのプレーマナーでしょう。男子のテニスのプロ選手で、ここまで審判にクレームをつけることが少ない選手を、他に知りません。負けた試合ですら、ジャッジに文句も言わずに淡々とプレーするので、逆に「メシールはやる気があるのか」と思うことがあるぐらいです。当時(1980年代後半)のテニスプレーヤーでマナーがよい選手としては、ヴィランデルがいますが、それでも、時々審判に文句を言っているのを見ました。

メシールがはっきりと態度でクレームをつけたのは、私のコレクションの中では、ただ一度、1987年のKey Biscayne(アメリカ)でのリプトン国際の決勝戦だけです。決勝戦の相手は、メシールが苦手としているレンドル。この試合、メシールは珍しくエキサイトしており、試合中、一度、線審に大きな身振りで激しく抗議をしました。レンドルのストロークがベースラインをアウトしていたにも関わらず線審に「イン」と判断されたからです。

メシールがこんなに激しく抗議をするのを見たのは、後にも先にも、この一度だけです。そして、激しくと言っても、判定は覆らないのですから、すぐに引き下がったのです。(わめきまわり、暴れまわるマッケンローとは大違い。)皮肉なことに、メシールが公式戦でレンドルに勝利したのは、メシールのキャリアの中で、この一度だけでした。趣味がつりだと言うメシールが、試合後のインタビューで「でっかい魚を釣り上げた」とコメントしたのは有名です。

抗議と正反対のシーンを、一度、見たことがあります。上にも書いた、1988年のウインブルドン準決勝のエドベリ(エドバーグ)戦です。この試合のあるポイントで、エドバーグのファーストサーブがコーナーいっぱいにきれいに決まった時に、線審が「アウト!」とコールしたのです。え?と、驚くエドバーグ。しかし、メシールは、審判に対して何も言わず、当たり前のようにすたすたと次のレシーブポジションに歩いて行ったのです。

会場がややどよめく中で、エドベリが日本流のスタイルでメシールに向かってお礼のお辞儀をした姿も印象的でした。メシールもエドベリも、何事もなかったようにプレーを続けたのです。

朝日新聞の西村欣也氏は、コラムの中で、しばしば「スポーツで審判に文句を言うのは間違えている。なぜなら、”審判は間違えるモノ”だからだ」と述べています。私も、その意見に賛成です。人間が審判をする以上、間違いは避けることができません。スポーツの試合は、特に対戦型のスポーツは、それを前提としているのです。

しかし、私程度のアマチュアプレーヤーでも、ミスジャッジはつらいものです。文句を言いたくなります(し、言ったことも何度もあります)。わかっていても、明らかなアウトボールをインとジャッジされると、そこからメンタルでガタガタと崩れてしまうこともあります。それが、まあ、普通の(平凡な)人間でしょう。そう考えると、普段のメシールの姿は、プロのスポーツプレーヤーとして、どこか、一段高いところにいるような気がしてならないのです。

当時、メシールと究極の反対の態度を取っていたのが、ご存知、米国のジョン・マッケンローでした。マッケンローは暴言を吐き散らしながら観客の拍手喝さいを浴び、そして、多くのメジャータイトルを取りました。マッケンローは、いまだに世界中の人の記憶に残っています。

それと比べると、メシールはほんとど知られることなく、短い選手生活を終えました。今、日本でメシールという選手を覚えている人は、テニスファンでもほんの一握りでしょう。

暴言を吐いてでも、ラインコールや審判に苦情を言い続けても、メジャー大会に勝つことが一番大切なのであれば、プロテニスプレーヤーというのは、なんとさびしい仕事なのでしょうか。グランドスラムで勝つごとができなかったメシールは、やはり、マッケンローには劣るのでしょうか。

でも、メシールには、是非、知ってほしいのです。あなたは、もしかしたら、多くの人の記憶に残っていないかもしれない。あなたがテニスの世界に残したものは、もしかしたら多くはないのかかもしれない。でも、極東の小さな島国に、たった一人だけれども、そのプレーする姿をまぶたに焼き付け、20年以上もあなたにあこがれ続けている日本人がいることを。あなたのテニスは、コート上での振る舞いは、私に、テニスだけではなく、もっと大きなものとして、今でも変わらず、どっしりと残っていることを。

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