2013年6月9日日曜日

全仏オープン2013男子準決勝 ナダル-ジョコビッチ:ナダルの払った代償とジョコビッチの未来

ナダルが5セットの試合を制した。見終わった後どっと疲れて、試合中ずっと体に力が入っていたことが分かる。

ツォンガとフェレールには申し訳ないのだけれども、この試合が事実上の決勝戦だ。これを書いている時点で、どちらが決勝に進むかはわからないけれど、いずれにしてもナダルの優勝は動かない。決勝では、ナダルから1セットをとれるかどうかが注目になるだけだろう。

ナダルを止めることができる唯一の選手がジョコビッチだったのだろうが、ナダルを追い詰めたものの最後の一歩が届かなかった。この一歩は、しかし、あまりにも大きな一歩だ。5セット目を見ていて、そんな風に思った。

ナダルは、誰もが言うように、機械のようにぶれることなくボールを叩く。隙を見せると、必ずエースをねらってくる。ナダルのエースはすごい。相手は、ラケットにボールを当てるどころか、ボールのそばまでよることもできずにエースをとられる。トップ選手ですら、ナダルが(特にフォアハンドで)エースを取る時には、もう何もすることができない。

ボールを追いかけ、スライディングしながらボールをヒットして、しかも相手は3mも離れているところにボールがバウンドしてノータッチエースを取る。これは、まさに全仏仕様のテニスだ。

一方で、ナダルは相手にボールを打たれるところにも強烈なショットを放つ。相手に向けて強く打つわけだ。相手が、そのボールでエースを取ることができないことを知っているからだ。これは、ボールのパワーだけの話ではない。ナダルの戦略だ。相手を走らせるのではなく、自分のボールの力で返ってきた次のボールで仕留めるというやはりナダルの全仏仕様の戦略だ。

ジョコビッチの戦い方は、もっと「まとも」だ。まともというのは、つまり、定石に従っているということだ。例えば、ナダルが打ったボールが浅い場合、ジョコビッチは、相手が2歩動く場所に強くボールを打って、ネットに出る。決して、ラインぎりぎりは狙わない。しかし、相手が動かずに打てるところも狙わない。

これは、一般的な攻撃だ。一般的というのはどういう事か。それは、どのようなサーフェスでも使える戦略ということだ。

ナダルとジョコビッチの決勝戦は、分かりやすく言えば、こういうことなのだ。ナダルは赤土のコート専用の戦い方をした。ジョコビッチは万能なテニスの戦い方をした。

ナダルは、絶好調だった2010年の後、2011年以降はグランドスラム大会では全仏オープンでしか優勝していない。ナダルにとって最も大切なのは、全仏オープンの王者の位置を守ること。その次が、その他の大会での優勝なのだ。

一方のラインキング1位に君臨するジョコビッチは、すべての大会で優勝を狙う立場にいる。これから歴史に名を残すジョコビッチにとっては、全仏オープンだけを特別扱いできない。生涯グランドスラムであとは全仏オープンだけを残すジョコビッチが、しかし、テニススタイルを全仏オープン仕様に変えないことに、私は敬意を表したい。(もちろん、全仏オープン向けのトレーニングと戦略はあるだろうが、他の大会での結果を犠牲にしたりはしていない。)ジョコビッチも、2011年以降は全豪オープンでしか優勝していないが、ジョコビッチはどの大会でも優勝を狙っているように見える。

賭けてもよいが、おそらく、もう、ナダルはウィンブルドンを取ることはない。これほどまでにクレーコート用に完成したテニスを、どうすれば芝のコート用にチューニングすることができるだろうか。ましてや、どうすればハードコート用にチューニングできるだろうか。ナダルが再び怪我をするとしたら、ハードコートであろう。今のプレースタイルを、無理にハードコートにチューニングしようとしたときに、ナダルの選手生命に影響があるほどの怪我が心配だ。

ナダルの全仏オープンに特化したプレースタイルは、もう誰にも止めることはできないのかもしれない。生涯グランドスラムを狙うジョコビッチは、しかし、決して全仏オープン専用のプレースタイルを磨いてほしくはない。ジョコビッチは、フェデラーに続く真のオールランドプレーヤーを目指してほしい。かつて、「残りのすべてのグランドスラムの優勝と取り換えてでもウィンブルドンの優勝カップがほしい」と言ったイワン・レンドルの、あのみじめな姿をジョコビッチには見せてほしくないのだ。

→2013全仏オープン男子決勝 ナダルのプレーを見て思ったこと
→2012全仏オープン男子決勝 短いコメント

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