2014年5月19日月曜日

九鬼潤さんのレッスン

以前、メシールのテニス(16) メシールのフォアハンド(基本はオープンスタンス)で、メシールと九鬼潤さんのプレースタイルが似ているということを書いた。九鬼さんは1945年生まれなので、これを書いているときに70歳まえ、お元気なうちにそのプレーをぜひ見たいと思っていた。

その九鬼さんのレッスンを受ける機会があった。自分のテニス人生の中でも、かなり貴重な機会だったと思う。

九鬼さんは、終始、基本的なことが大切だと言っていた。そして、生徒たちに体の軸がぶれることを何度も指摘していた。

九鬼さんによると、ストロークは3つの段階からなるらしい。

一段階目は、何も考えずにボールをしっかり打つ段階。この段階では、ボールを自分の打点でしっかり打つことだけを考える。(もちろん、体の軸はブレないこと。)素早く、その打点に入り、しっかりボールを打つことが大切だそうだ。

二段階目は、相手のボールに合わせて打つ強さを変えること。例えば、相手のボールが遅ければしっかりとボールを押し出す、相手のボールが速ければスイングを小さめにして面がぶれないようにする。場合によってはスピン系で打つこともある。ボールの打つ強さを変えるのは、右腰、右手の前の「ふところ」の部分だ。この部分で、ボールの打ち方をコントロールする。

三段階目は、ゲームでのプレーだ。ゲームの中では走りながら打ったら、深いボール、浅いボール、跳ねるボールなど、いろいろなボールが来る。それらのボールに合わせて、相手に合わせて打つボールを選択していく。

また、私自身は、ストロークにおいてはとにかくボールを深く返すようにと何度も言われた。ボールが浅くなれば、相手に攻撃される。そうならないように、どんなボールでも深く返球する。そのことが大切だと。実際、九鬼さんと打ち合いの練習をした際にも、自分のボールが浅くなると強い球を打ち返され、結局、その圧力でどんどん不利になっていくことが何度もあった。

サーブについても、基本的なことを教わった。まず、腕に力を入れない。腕への意識を忘れ去ること。二つ目に、膝を使ってスイングすること。そして、膝の伸び上がる方向にトスを上げること。後ろにあげすぎると、力がボールに伝わらない。そして、背中をそらせた状態からそれを戻す力でスイングをすること。その反動で内側に体を畳み込んではいけない。言い換えると、前のめりになってはいけない。それは、スイングの後半で体の軸が前に倒れこむことを意味している。もう一つ大切なことは、ボールをしっかりと包むようなイメージを持つこと。ボールに力がきちんと伝わることが大切だと言い換えてもよいと思う。

ボレーについては、まず体の力を抜くこと、そしてボールをしっかりと打てる位置に早く移動することを言われた。よいポジションでボールをとらえ、前への体重移動(だけ)でボールをヒットすること、そのためにはパワーは不要だと。そして、ボールを深く打つことを、ここでも指摘された。

よい位置に素早く移動して、自分の懐でボールを打つことは、グランドストロークにおいても重要だと何度も言われていた。(上の第一段階と同じこと。)そのためには、常に攻撃する意識を持つこと。下がったり、守ったりしてはいけない。攻める気持ちが、素早い移動に通じていく。攻める気持ちを持つことと、ボールを強くたたくことは同じことを意味しているわけではない、と。

全体の3分の2は練習だったが、最後に九鬼さんも入ってゲームをした。自分が休みの間は、穴が開くほど九鬼さんのプレーを見ていた。九鬼さんが日本で初めてオープンスタンスでフォアハンドを打った人だという話題に以前触れたか、本当にその通りだった。特に、体の近いボールを逆クロスにインサイドアウトのスイングで打つボールは、おそらく九鬼さんの得意球なのだろうと思うが、切れ味が鋭く、厳しいボールだった。また、ここぞというときに前に攻め込んでいくプレーは、迫力満点だった。ボールを打つ際に、ボールに力と体重をしっかり乗せていく様子は迫力があったし、自分でもぜひ真似をしたいと思った。九鬼さんはもうすぐ70歳になるはずだけれど、そのプレーの本質的な部分は昔のままなのだろうと思った。

1時間40分程度だったと思うが、本当に「あっ」という間の時間だった。「自分はあの九鬼潤とストロークの打ち合いをしている」「自分はあの九鬼潤とゲームをしている」という時間は、まるで夢のようだった。最初は緊張したが、ゲームになると、逆に何とかして九鬼さんに厳しいボールを打ちたくて懸命で、緊張するどころではなかった(その代わりに心身ともに疲れた。)数名がぐるぐる回ってチーム分けした(全部の試合に九鬼さんは入った)が、私は九鬼さんと反対のコートにしか入れられなかったので、もしかしたら、それなりに技術を評価してくれたのかもしれない。

教わった内容は、ある意味では基本的なことばかりだ。それは、基本は大切だということを改めて教えてくれた。しかし、それよりもはるかに大切なことがある。それは、あまたある基本的なことの中から九鬼さんが指摘したことが、基本の中でも特に重要だということがわかったということだ。自分は何に注意してプレーすればよいのか、どの点が大切なのか、そういうことを自分のプレースタイルからすると憧れである九鬼さんの口から直接に聞くことができた経験は、何にもかえがたい。

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