2012年11月4日日曜日

書評 「テニスは頭脳が9割 あなたのテニスが進化する120の哲学 」(田中信弥著)

田中信弥氏の「テニスは頭脳が9割 あなたのテニスが進化する120の哲学 」を読んだ。Amazonの書評ではかなり厳しい意見が書かれている。多くの意見は、メールマガジン(メルマガ)の読者からのようだ。メルマガとほぼ同じ内容だそうなので、有償でメルマガを購読している読者が期待して書籍を購入すると、がっかりするという事だろう。

私は、メルマガは購読していないので、逆に、新鮮に本書を読むことができた。

田中氏のDVD販売(非常に高額)やWebサイト(どこかの通販のようにあおり文章が満載)については、私も品位を書くという印象がある。「この人は、山師なのではないか」という印象を持たざるを得ない。

しかし、本書を読むと、その内容は私はほぼ同感・同意見だった。私には、田中信弥と言う方は、本当にまじめにテニスに向かい合っているという印象を受けた。

この書籍のタイトルには、嘘はない。誇大広告もない。テニスの勝敗は9割が頭脳で決まると書いているわけではない。テニスは頭脳が9割と書いているのである。そして、それは、ある意味では正しいように思う。アマチュアテニスプレーヤーは、もっと真剣にテニスに向かい合うべきだと私も思うから。

たとえば、自分は何のためにテニスをしているのか。家族との時間を犠牲にして、お金をかけて(しかも、トータルでテニスにかかる費用は意外にばかにならない)、何をゴールにテニスをするのか。

そういうことを考えるべきだと、田中氏は言いたいのだろう。そして、「テニスが進化する」とあるが、「テニス技術が進化する」とは書いていない。そう、この書籍では、テニス技術はさして進化しない。しかし、著者の伝えたいことを理解できれば、自分のテニスは進化すると思う。

たとえば、「テニスを進化させるまでは充電期間だ」というのは正しいと思う。目の前の結果だけを重視してはいけないという事だ。その通りだと思う。それは、アマチュアだけに許される特権なのだから。(このことは、以前の記事でも書きました。)

この書籍は、とてもまじめにテニスに向かい合っている著者のスタンスがよく見える。文章表現も、とても丁寧で無理がない。(Web等の田中信弥氏の文章と比較するとよく分かるが、この手の書籍には珍しく、誇大な表現や誤った表現のない、平坦で読みやすい文章になってる。)この書籍はおそらく、プロのエディタが編集を担当したと思う。

こんなに良い書籍が出版できるスタンスがあるのであれば、また、これだけの高い技術的・理念的な知識があるのであれば、著者にはぜひ、この書籍の延長線上でのビジネスをしてほしい。それは、著者が何よりも求めている日本のテニスを世界に通じるレベルに押し上げることに通じるからである。

この書籍の印税はすべて、東日本震災のために使われるそうだ。その気持ちと考え、アイデアは素晴らしい。しかし、それは、有償のメルマガ記事を書籍化することとは別の話だと思う。ボランタリーであるからと言って、クオリティーを下げることは許されることではない。それは、プロとしては恥ずかしい行為であり、田中氏自身が嫌う事ではないのか?

両方を読む読者がいるのであるから、メルマガの内容をもっと掘り下げた書籍にするべきであった。その結果が、価格に反映されてもよいではないだろうか。

このあたりに、田中信弥氏の(現在の)人物の限界が見えるような気がして、残念だ。しかし、これから、もっと高いところに立てる可能性がある方であるのは間違いない。それに大いに期待したい。

「テニスを進化させるまでは充電期間だ」という事と「私はこのDVDをみて、すぐに優勝することができました!」という宣伝文句は、両立しない。美しい志と、貧しいビジネス意識ほどの差が、この二つのキャッチフレーズの間にはある。

上記のAmazonの書評では、「この書籍は読む価値がない」というような厳しい意見が複数ある。しかし、私は、この書籍は読む価値がないとは思えない。(メルマガ購読者は別として)私は、この書籍は、テニスを愛する人であれば読むに値する内容であると思う。そして、今一度、テニスにどのようなスタンスで向かうのかを考える良い機会になると思う。

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