メシールのテニス、フォアハンドの第3回です。
さて、メシールのフォアハンドですが、一言で言うと、「ラケット面の角度が繊細な打ち方」と言ってよいでしょう。軽いラケットを厚いグリップで強くボールを打つ現代テニスのフォアハンドと比べると、メシールのフォアハンドは、重いラケットを使い、ラケット面をきちんと作って、思うところにボールを(フラット系で)運ぶイメージがあります。ラケット面が少しでもぶれると、ボールは浅くなったり、アウトしたりしてしまいます。
フォアハンドで面をできるだけ正確に(高い精度で)作るために、気をつけること。そのひとつが、意外にも、テイクバック始動での左手の使い方です。テイクバック始動において、左手をラケットに添えること。これは、メシールのテニスでは「絶対に必要な」重要なポイントです。確かに、メシールのどのビデオを見ても、どんな場合においてもこの原則は必ず守られています。
今回は、この、左手の使い方をベースとしたメシールのフォアハンドを分析してみたいと思います。
現役のプレーヤーで、テイクバックでの左手の使い方が目につくのは、例えばロディックでしょう。ロディックも、フォアハンドのテイクバックの始動では左手をしっかりとラケットに添えてます。しかし、メシールとロディックのテイクバック(始動)は、全く違います。ロディックとの違いを意識しながら、メシールのテイクバック始動での左手の使い方を考えて行きましょう。
【インパクト時のラケット面の安定性】
まず、テイクバックで左手をラケットに添える目的の一つ目は、面の安定性です。上記のとおり、インパクトでの面を安定させるためには、インパクトまでの力をできるだけ腕に頼りたくはないところです。テイクバックからフォワードスイング、インパクトまでで、腕の力を使えば使うほど、それだけ、インパクトでの面のずれが生じやすくなるからです。繰り返しになりますが、メシールのフォアハンド(薄いグリップ)で、インパクト時にできるだけ正確な面を作るためには、テイクバック始動において、右腕(の力)を使いたくないのです。そのためには、テイクバック始動を、それ以外の力を使う、つまり、左手を添えて、左手にテイクバックの始動をさせます。(もちろん、左腕以外にも、腰の回転なども使っていますが。)
さて、テイクバック始動を左手で行う際のイメージは、面を伏せるようにラケットを引くと言うことです。面を地面側に伏せるのではなく、面を体側に伏せるのです。さらに正確に言うと、面を右足太もも側に伏せると言ってもよいでしょう。薄いグリップのテイクバックでは、どうしても、面が開き気味です。左手でテイクバックすることで、これを補正することができます。
もうひとつ、左手でラケットを引くことで、ラケットヘッドを下げることができます。これも、左手を使うことの利点の一つです。右手でラケットを引く(ラケットの始動をする)と、右腕が一番楽な角度でラケットを引きたくなりますが、それは、(人間の体の構造上?)ラケットヘッドが下を向く角度ではなさそうなのです。したがって、左手で(右手にとって負担となる)ラケットヘッドを落とした角度でのテイクバック始動をさせるのが有効であると言うことになります。
ラケットヘッドを下げることと同じぐらい大切なことは、テイクバックでラケットが体のそばを通ることです。(この2つは、必ず連動します。)これについても、左手でテイクバックを操作することで、徹底することができます。
そして、これが、左手でラケットを引くことの最も重要な理由ですが、左手で「ラケットの面を作る」ことができます。上の、ラケットを体の(右足の)そばを通すと言うことと近いのですが、同時に、ラケット面を作ります。このラケット面は、そのまま、フォワードスイングからインパクトまでをイメージしたラケット面です。つまり、テイクバック始動で、その面がそのまま(同じ方向を維持されるのではなく)ぶれずに維持されるイメージです。表現が難しいのですが、逆を考えれば、分かりやすいと思います。フォワードスイングにおいてインパクト面のイメージがなければ、ラケット面は不安定になります。(そして、薄いグリップであるメシールのテニスでは、ラケット面がぶれることは、致命的です。)では、フォワードスイングでラケット面のイメージを作るにはどうすればよいか。それは、テイクバックからラケット面のイメージを作っておくことです。つまり、テイクバックの最初であるテイクバック始動からラケット面のイメージを作ることが、インパクトでの安定したラケット面につながるのです。
この、最初のほんの一瞬が、その後のスイング全体を決めてしまいます。テイクバック始動を左手が操作できるかどうか。(そして、その時に、後述する、上体が立っているかどうか。)したがって、日常生活の中で、この癖をつけてしまう(こまめに最初の瞬間の癖を体に覚えさせる)のが有効な練習方法かもしれません。
【ロディックのフォアハンドとの比較】
次に、ロディックとの比較で、メシールのフォアハンドでは最もしてはいけないことを書きます。ロディックは、テイクバックで左手を添えることで、①上体を前に倒します(ほんの少し背すじが丸くなります)、②左肩を前に出し、左足をややクローズド気味に踏み込みます、③ラケットを胸の高さで横に引きます。これら3つは、本能的にはそのようにすることでスイングが安定するのですが、メシールのフォアハンドでは、どれも「してはいけないこと」です。それについて、分析してみましょう。
まず①ですが、メシールのフォアハンドテイクバックでは、上体を倒してはいけません。上体は、地面に垂直を維持すると言うメシールの基本を、ここでも守らなくてはいけません。上体を立てることでボールとの距離感を感じる場合には、どうすればよいか。まず一つは、距離を感じる分、ひざを使います。つまり、ひざを曲げます。これは、当たり前の基本ではありますが、特にメシールのような上体を立てるフォームでは重要です。忘れてはならないのは、上体を立てるのは、フォワードスイングやインパクトだけではなく、テイクバック、いやレディーポジションからそうだと言うことです。レディーポジションでは(ボールを打つわけではないので)上体を立てるのは比較的簡単ですが、体の動作がともなう場合(体がはじめて動き出すのがテイクバック始動です)にも、上体は立っていなくてはなりません。
テイクバック(だけではなく、スイングのどのタイミングでも)において、上体を立たせるために重要な事が一つあります。それは、「背筋に力を入れる」ということです。上体を立たせると言うことは、背筋に力を入れると言うことと、同じだと思って構いません。テニスの基本(球技の基本)として、腕に力を入れてはいけないのは当然です。周知のとおりです。しかし、背筋には、どれだけ力を入れても構いません。(といっても、背筋に力を入れ続けることはできませんが。)そして、背筋に力を入れることで、反動的に腕の力を抜くことが期待できます。両方に力が入れば、上半身ががちがちになりますからね。
さらに、②については、ここが重要ですが、ロディックのように体がクローズになってはいけません。この点が、ロディックの左手とメシールの左手が、まったく異なる点です。ロディックのテイクバック始動では、左肩が前に出て、それに伴って左足も前に出ます。体全体が、ネット方向に対してクローズになります。メシールのテイクバックでは、左足を前に出してはいけません。完全なオープンスタンスで打ちます。(これも誤解のある表現ですが、これについては、最後に書きます。)この際、①のように上体が立っていれば、体がクローズになることはありません。(体の構造上、あり得ません。)テイクバックにおいて、上体を立て、オープンスタンスで体に近いところからラケットを引くイメージは、かなり、違和感があると思います。左手でラケットを引いているので、左肩はネットの方を向く(まっすぐネットに向く程は深く肩は入らないですが)ので、体が開いているわけではありません。しかし、メシールのフォアハンドでは、その程度の体のひねりで十分なのです。打つ感覚から言うと、足も、左肩も、かなりオープンに感じるので不安になりますが、問題ありません。むしろ、ここで、左肩を入れ、さらに左足を踏み込むと、①や②のようなロディックのフォームになってしまうのです。
③については、上に書いたとおり、テイクバックではラケットは体のそばを通らねばなりません。逆に言うと、③のようなイメージになっていたら、それは、スイングの修正をしなくてはならないと言うチェックポイントだと考えればよいと思います。
【まとめ】
背筋に力を入れ、それにより上体を起こし、足をオープンにしたまま、左手でラケットヘッドを下げつつ、面のイメージを作りながら、体のそば(右足のそば)でラケットを引いていくイメージ。これが、正しい、メシールのフォアハンドテイクバックです。このイメージでは、おそらく、ラケットを引く「量」がはかなり小さく感じると思います。つまり、かなり小さなテイクバックに感じると思います。そして、それでよいのです。小さなテイクバックを恐れてはなりません。左手でテイクバックをすることで、フォワードスイングは体を使うことができます。(右腕も、インパクトの少し前から使えます。)したがって、左手テイクバックを守りさえすれば、ボールを打つパワーは十分にあるはずです。
【補足】
以上の解析の対象は、相手のボールにそれなりの威力がある場合です。相手のボールが初級、初中級レベルの緩い球の場合は、ある程度自分から打ち込まざるを得ません。そういう場合には、多少の足の踏み込みは必要になると思います。が、原則的には、同じ打ち方で問題ないはずです。これについては、別の機会に、オンコートで確認してみます。
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