2014年9月9日火曜日

2014年全米オープン男子決勝 錦織vsチリッチ(ゲームボーイになれなかった錦織)

火曜日の早朝6時からの決勝戦。目覚まし時計をかけてWOWOWで観戦したのだが、第1セットの最初の2ゲームぐらいで眠気に勝てずに寝てしまった。どこか、きっと錦織は優勝するだろうと思って…。

だが、目が覚めた時に優勝していたのはチリッチだった。しかも、6-3、6-3、6-3というほとんどワンサイドゲームのストレート勝ちだった。グランドスラムの決勝戦としても、スコアから見る限り凡戦と言わざるを得ない。なんというあっさりとしたゲームだ。(チキンラーメンでももう少しはこってりとしている・・・。)

錦織に何が起こったのだろうと思った。この大会でトップ5を3タテにした快進撃を見る限り、こんなスコアで敗北する錦織ではないはずだ。

帰宅してビデオを観て、またメディアの報道を読んで、分かった。明らかに錦織のプレーは準決勝までとは違った。驚いたことに、錦織は緊張していたのだ。一番の敗因はプレッシャーだった。チリッチに負けたというよりも、自分に負けたのだった。

試合前には、もしチリッチが勝つとしたらそれは信じられないほどのサービスエースが決まって圧倒されるときだけだろうと思っていた。そう予想した人は多いだろう。ボリス・ベッカーがケビン・カレンにサービスエースの雨を降らせて優勝した1985年のウィンブルドン決勝のように。

しかしそうではなかった。チリッチは確かにサービスエースを取っていたが、なんと錦織は、グランドストロークの打ち合いで負けたのだった。つまり、自分が最も得意なフィールドで錦織は負けた。

普段の錦織は、ショットを打つとき、次のショット、その次のショットと可能性をすべて想定して組み立てを作りながらプレーするように見える。だから相手がどんなボールを打ってきても驚かないし、逆に準備万端の錦織が繰り出す想定外のボールに相手は戸惑う。しかし、この決勝戦の錦織は違った。チリッチのボールは、予想しやすい、想定しやすいボールなのに、錦織は簡単にミスをしてしまう。組み立てて相手の裏をかき、一本で形成を逆手にする錦織の戦略は、この日に限ってはその場のインスピレーションだけでボールを打っている。だから、時にはエースを取ったとしても、それは単発でしかない。

決勝戦を観て確信しているが、再度、別の場所でチリッチと錦織が戦ったら、まず、錦織は勝つだろう。チリッチのグランドストロークは、本来は錦織にとってむしろ組みやすいタイプと言ってもよい。エースを取ることもあるが、基本的にはイマジネーションに乏しいスピードが速いだけのストロークだからだ。

この結果には、マイケル・チャンもがっかりしたことだろう。敗北するのはスポーツである以上、覚悟はしているだろう。しかし、内容が悪すぎる。これでは、コーチングの成果も効果もほとんど感じることはできなかっただろう。敗戦後のチャンコーチの平凡なコメントは、実はがっかりした気持ちの裏返しだったのかもしれない。

どうしてこうなったのだろうか。錦織のゲームマシンのCPUが正常に動いていないのか、プログラムにバグが混じりこんだのか。

私は、決勝予想で書いたように錦織はテレビゲーム世代として育ったゲームボーイだと思っていた。しかし違った。錦織はその他大勢の日本人と同じように、緊張したのだ。生身の人間だった。それは、どこかほっとしつつも、どこかでがっかりする事実だ。

錦織は試合後の一夜明けたインタビューで、その夜は眠れなかったとコメントしたそうだ。負けて悔しかったというよりは、決勝戦では自分が変わってしまったことを後悔していたのではないだろうか。ゲームボーイに徹することができなかった自分に。

もし、錦織がふたたびゲームボーイに戻れないのであれば、錦織のランキングは、ただただ下降の一途であろう。テレビゲームでしかありえないような非現実的な、そしてイマジネーションに満ち溢れたグランドストロークを、再び取り返してほしい。そうすれば、またいつか、グランドスラム決勝戦の場で錦織を見ることがあるはずだ。

新しいことを何も求めることはない。すべきことはただ一つ。準決勝までの戦い方を常にできればよいのだ。あの、「ゲームボーイ」の戦い方を。

⇒2014年全米オープン男子決勝予想 錦織vsチリッチ

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