2011年5月6日金曜日

メシールのテニス(15) メシールのバックハンド(打点を前に!)

メシールのテニス(14)で書いたように、薄いグリップのメシールのフォアハンドストロークの打点ですが、厚いグリップの他のプレーヤーと同じように、打点は前に置きます。メシールのストロークの懐が深い(打点が後ろになる)ことは、ここでは、一旦、忘れてください。(メシールの場合でも、他のプレーヤーの場合でも、打点が後ろになるのは特別な場合だけなのです。)そして、打点が前であるという原則は、フォアハンドだけではなくバックハンドでも同じです。実は、メシールのバックハンドの打点は、他の両手打ちバックハンドプレーヤーよりも前なのです。

なぜ、メシールのダブルハンドバックハンドの打点は前なのでしょうか。そこに、メシールのバックハンドの”謎”を解くカギがありそうです。今回は、メシールのバックハンドを分析してみたいと思います。

私は、メシールのバックハンドストロークをビデオ(スローモーション)で分析し、次のステップから構成されていることを確認しました。①レディーポジションでへその前でラケットをセット、②左足を引きながら手を動かさないテイクバック始動、③テイクバックでラケットヘッドを下げる、④②に続いての右足の踏み込み、⑤フォワードスイング(左足と右足の使い方)の、全部で5ステップです。

では、以下に、①から⑤までを、順を追って説明していきましょう。

①については、フォアハンドと同じです。レディーポジションでは、へその前でラケットを構えます。女の子のもじもじポーズでよいと思います。(レディーポジションでは、ボールがフォア側に来るかバック側に来るかわからないのですから、①のスタイルがフォアハンドと同じになるのは当然です。)

②テイクバック始動時のポイントは、原則的にはフォアハンドと同じです。へその前でラケットを持っている両手を動かさずに、体と一緒にテイクバックを開始します。この際に重要なのは、へその前からグリップ(手)を動かしてはいけないということです。体の回転の分だけ、手(腕)が後ろに回っていきますが、その手は、常にへその前です。
ここで大切なのは、足の動きです。メシールのバックハンドでは足の動きが重要である(すべてを支配する)という点は、フォアハンドと全く同じです。(テニスは足ニス!です。)最初の一歩目を、右足から動かしてはいけません。(体の向きを作るために、右足が小さく動くのは構いませんが、右足を大きく踏み出してはいけないということです。)右足を前に出すことで体を横に向けてしまうと、次に左足を引いた時に右肩が前に出すぎてしまいます。この場合、背中がネットの方向を向いてしまうのです。肩手打ちのバックハンドでは、このように背中をネットに向け、右肩を軸にして体を回転して打つ方法もあります。たとえば、クリス・エバートがそうです。しかし、メシールのバックハンドでは、右肩を回転軸にして打ちません。(バックハンドでは、回転力を主推進力としては使いません。)したがって、メシールのバックハンドでは、背中はネット方向には向かないのです。背中は、テイクバックトップであっても、ほぼ270°(つまり、ベースラインに沿った方向)にしか向きません。相手側から見たら、バックハンドにおいては、メシールの背中はほぼ見えないことになります。
このように、右肩を入れすぎない、背中を270°以上回転させないためには、一歩目は、右足ではなく、左足を引くことからスタートせねばなりません。左足は、ネット方向に対して90°以上動かしてはいけません。つまり、動かした左足は、ネットと右足を結ぶ線よりも後ろ(180°以上後ろ)に移動することはないのです。ボールとの距離に依存しますが、左足は、ネット方向から見て180°以内(135°~180°ぐらいになると思います)に移動することになります。感覚的に言うと、体を開いたまま左足を引くというイメージになると思います。この点は、後述の”右肩を入れない”という目的のためには重要です。
左足を引く動作の間は、上記に示すように、ラケットを持つ手は動かしてはなりません。言い換えると、左足を引く動作、それに応じて自然に上半身が横を向いていく動作、へその前に固定したて・腕・ラケットが一体となって回転していく動作の3つの動作は、左足を引いている間、連動して行われることになります。この際、右足を動かさずに左足を引いているので、体は開いています。右肩と左肩を結ぶ線は、ネットに対して135°になっているはずです。ラケットのヘッドは(手を動かしていませんので)、やはり135°になっています。
この、②においてもう一つ、注意する点があります。それは、引いた左足のつま先です。左足のつま先は、完全に横を向いてはいけません。つま先がネット方向を向くことも難しいと思いますが、ネットに向かって45°~90°の間が望ましいと思います。

③上記の②において重要なことがあります。それは、フォアハンドと同様に、②の動作の間、ラケットヘッドが下を向くということです。ラケット面が下を向くことで、後半の、ラケットを下から上に振り上げる動作や、ボールに向かって面を作る動作がしやすくなります。

④さて、②において左足を引き終えると、次は右足です。左足を引いた時点で体がオープンになっています(ネットに対して135°)が、左足に続いて右足を前に出すことで、体はほぼ、ネットに対して垂直になります。両肩を結ぶ線がネットの方向を向きます。
このタイミングで、初めて腕が体と連動せずに、自由にテイクバックをします。その結果として、ラケットヘッドはネット反対方向(180°)を向くことになります。これは、ラケットに勢いをつけるための動作です。メシールは、スイングに勢いをつけるために、テイクバックトップにおいて、ラケットヘッドを引いたまま、上にひょいと拍子を付けることがあります。これは、勢いをつけるということと、もう一つ、タイミングを取るためという意味があるようです。なお、ラケットヘッドが上を向いても、ラケット面は絶対に上を向いてはいけません。面は地面にほぼ垂直です。
また、この際、ラケットを後方に引きすぎることで、右ひじが伸びてしまわないように気を付けてください。ラケットはできるだけへその前に置き、右ひじと左ひじの角度が極端に違わないように注意します。

⑤ですが、④の右足の踏み込みが、そのまま、フォワードスイングと連動します。すでに、右足は踏み込んでいますので、あとは、体重移動でボールを前に運びます。実際に打ってみると、このうち方では十分な前方への推進力を得ることができないように感じると思います。上に書いたように、体の回転を十分に使うことでテイクバックトップでラケットヘッドが270°の方向を向くような両手打ちバックハンド(女子の選手はほとんどがこのうち方だと思います)の場合は、ねじった体を元に戻す回転力がそのまま推進力になります。しかし、メシールの両手打ちバックハンドの場合は、この回転力を利用できません。
メシールの両手打ちバックハンドで推進力として利用できる力は、次の通りです。
まず一つ目は、左足の膝の運びです。上記に示すように、左足のつま先は横(90°)ではなく、45°方向を向いているはずです。したがって、左ひざを前方に織り込んでいくことで、前方への推進力を得ることができます。
二つ目の推進力は、ラケットワークです。フォアハンドと同様に、ラケットを下から上に振る(縦振り)をすることで、ラケットの推進力を得ることができます。(横振りの場合は、この推進力を得ることができません。)この際、④に示したテイクバックトップでのラケットの位置が後ろになりすぎないこと(右ひじと左ひじの角度が違いすぎないこと)が重要になります。ラケット位置が後ろになりすぎていると、それを戻すだけの力が必要になります。メシールのバックハンドでは、後ろに位置したラケットを戻すだけの推進力源がないのです。(体の回転を使わないので。)したがって、ラケットは、意識的に前方(ネット側)においておく必要があります。
また、フォワードスイングにおいて、ラケット面を下からネット側に”縦に振る”ということも有効です。これは、フォアハンドにおいては記述しませんでしたが、実は、フォアハンドでも有効なラケットフェースワークになります。高い打点の場合には使えないラケットフェースワークですが、腰の高さのボールに対しては、安定した強い球を打つことできます。
フォワードスイングの推進力で無視できないのが、フォアハンドと同じ、背筋力です。メシールのテニスで、体の中で最も力を使うのが背筋です。背筋を使うということと、上体が立つということは、基本的には同じことを示しています。メジャーリーグのイチローなども同じ理由で、上体が立っています。
最後に、フォワードスイングで重要なのは、右足のつま先です。右足のつま先は、できるだけネット側を向きます。右足のつま先が横方向(90°方向)を向く両手打ちバックハンドは多くあります。(例えば、クリス・エバートがそうです。彼女のバックハンドは、見事なまでに右足のつま先が、90°方向を向いています。)メシールの場合、0°とまではいきませんが、右足のつま先はかなりの確率で、45°程度を向いています。これは、体の回転を使わずに前後方向(+上下方向)の力でフォワードスイングを行うために、左ひざ、背筋、ラケットワークの力を効率的にボールに伝えるには必要なことなのです。
かつて、渡辺康二さんが、テレビ解説(確かWCTファイナルのマッケンロー戦かシュツッツガルドのレンドル戦)で言っていました。「メシールのバックハンドの右足は、クロス方向にスライスを打つかのような右足だ。それが、いきなり両手打ちでスコーンとストレートに来るので、打たれる方は全く予測ができないんですよね。」
体の自然に任せて(何も意識せずに)両手打ちバックハンドでボールを打つと、(少なくとも私は)クリスエバートのように、ネット方向に背中が向き、右足のつま先はネットと水平(90°)になり、テイクバックトップではラケットヘッドは180°以上深くなります。どうして、メシールのバックハンドは、右足、左足のつま先が90°よりも浅くなり、また、ラケットヘッドが180°よりも深くならないのか、不思議でした。しかし、分析してみて、答えは簡単であることがわかりました。
上の特徴は、すべて、ストローク時に、右足が左足よりも前に出る(ネット方向から見たときに、右足が左足よりも右側に位置している)ことが理由です。実際、シングルハンドのバックハンドでは、右足が左足よりも前に出なくては、ボールをヒットすることはできません。しかし、メシールのバックハンドでは、まず左足が、そして右足が動きます。この順番で足を動かすと、右足が左足よりも前に出ることはほぼありません。その結果、ラケットヘッドも180°よりも後ろを向くことはありません。この足の動き・順序が、メシールのバックハンドの”秘密”だったのです。そして、面白いことに、外の足を先に引くという点は、フォアハンドの”秘密”と全く同じです。

今回のテーマは、なぜ、メシールのバックハンドストロークは、打点が前になるのかということでした。そして、その問いに対する答えはこういうことになります。「メシールのバックハンドは、体の回転を使わずにボールを打つタイプだ。しかし、このうち方は、ボールに力を乗せる(推進力を得る)のが難しい。そこで、メシールは、打点を前にすることで、左ひざの使い方(ニーワーク)、背筋、ラケットワークなどで効率的にボールに推進力を与えるため、自然と、打点が前になっていくのです。」

このブログは、昔懐かしい、ミロスラフ・メシール(メチージュ)について語るための、個人的なブログです。と言っても、私は、週末プレーヤであり、プロでも、専門家でもありません。また、実は、他のテニスプレーヤーについては全く興味がなく、メシールのテニスだけしか語ることができません。もし、ご興味があれば、時々、楽しんでいただければ幸いです。

0 件のコメント:

コメントを投稿