2011年5月15日日曜日

メシールのテニス(19) バックハンド(左足と背筋によるフォワードスイング)

メシールのテニスにおいて、バックハンドは、フォアハンドのほどは際立った特徴がないように思えます。それは、テニスにおいて、フォアハンドの自由度(=選手ごとのバラエティー)がバックハンドよりも大きいからだと思います。

しかし、さすがというか、そのバックハンドも、メシールの独特の技術が見え隠れします。

メシールのバックハンドの特徴は、踏み出す右足が0時方向近辺にあることです。つまり、”背中をネットに向けない打ち方”です。このことは、メシールのテニス(15)メシールのバックハンド(打点を前に!)でも書きました。もちろん、左方向に大きく振られた場合には、両足をクロスに(つまり、右足を左足に対して大きく左側に)踏み出してネットに背中を見せた打ち方をすることもあります。ただし、ここで議論するのは、自分のいる場所にボールが来る場合、つまり、フットワークを伴わない基本形です。

メシールのテニス(15)では、これを念頭に、バックハンドストロークを分析しました。しかし、踏み出しが0時方向近辺であるメシールのバックハンドでは、どうしてもボールがスライスして左側に流れて行ってしまいがちです。そうならないように打つと、今度は、ボールに力が伝わりにくい。

これを避けるために、どうすればよいでしょうか。

そのためには、テイクバックトップでラケットヘッドが下がり、しかも、左膝と同じ方向を向くことです。ここで、テイクバックトップというのは、本当のテイクバックトップではありません。メシールのバックハンドでは、テイクバックトップで、ひょいっとラケットヘッドを上げることがあります。メシールのテニス(15)の④でも書きました。その後、ラケットは、”真の”テイクバックトップにセットされます。ここでは、その”真の”トップの場所です。

メシールのテニス(15)の④では、この際、ラケットヘッドを下げると書きました。もちろんこれは正しいです。ただし、加えて注意することがあります。

それは、ラケット面が左ひざと同じ方向を向くということです。これは、重要な意味を持っています。すなわち、その後、ラケット面の押し出しは、左ひざの押し出しと同期するということです。この押し出しは、ラケット面がボールをヒットするまでは続きます。結局、インパクトまでは左足の踏み出しが仕事をするわけです。

この打ち方をするためには、テイクバックトップでは、ラケット面は左膝が踏み出す方向に面が向いていなくてはなりません。そうしないと、ひざの動きとラケット面が同期しません。左膝と一緒に、ヘッドが下を向いた状態のラケット面を押し出していくのです。この特に気を付けたいのは、ラケット面が絶対に上を向いてはいけないということです。右足を深く踏み込まないで、体の線(右肩と左肩を結ぶ線)に沿って体と一緒にラケットを引くと、どうしてもラケット面がやや上に向いた、スライス的なラケット面でのテイクバックをしたくなります。仮にその場合でも、テイクバックトップ(ラケット面が左ひざの前)ではラケット面は地面に垂直でなくてはなりません。ここで面が開いていると、安定したバックハンドストロークは打てないのです。

では、インパクト後はどうなるか。これ以上は左足は同期できません。インパクト後は、ボールを腕で押し出さなくてはなりません。つまり、ここから先は、背中(背筋)の仕事です。

この背筋が重要です。なぜなら、この点が、一般的なバックハンドとは異なるからです。

一般的なバックハンドでは、この時点では右足が大きく左側に踏み出されています。ボールを打つ力は、背中がネット方向に向いている状態を元に戻す力、つまり、体のねじりというか、腰の回転の力でボールを打つわけです。メシールは、前半を左ひざ、後半を背筋が担当します。

これを実現するためには、(まだ、オンコートでは試していませんが)おそらく、バックハンドで腰の回転を一切使わないという気持ちになることかもしれません。回転で打つのは楽ですので、つい、そちらに逃げがちです。それを我慢することで、他の推進力が必要になるわけです。

背筋でボールを運ぶ際には、ラケット面は、必ず、ラケットを縦振りせねばなりません。ラケット面がスイング進行方向に向かってすいちょにくなり、縦方向に、下から上に打つのです。ここで、ラケット面とスイング進行方向が90°になっていないと、ボールをカットしてしまうことになり、ボールのコントロールは難しくなります。また、スイングの力がボールに伝わりにくくなります。”厚い当たり”ができなくなるわけです。

ラケットヘッドを落とすのはフォアハンドでも同じですが、右手の力を抜くと自然とヘッドが落ちるフォアハンドと比べると、両手でラケットを持っているバックハンドは、つい、ラケットヘッドが上がりがちです。慣れるまでは、意識をしないと、ラケットヘッドがなかなか下がらないかもしれません。体の自由度の小さいバックハンドでは、インパクトのタイミングなどに融通が利かないため、両腕の力を抜くのは、なかなか勇気がいるからです。

ラケットヘッドを意識的に下げる方法として、バックハンドにボールが来たら、ほんの少し、前傾姿勢を取る方法があります。(ほんの少し、気持ちだけです。)ほんの少し前傾するだけでも、ラケットヘッドは、意識としては、かなり下げることができます。ただし、実際に大きく前掲するのは、”状態を立てて打つ”というメシールのテニスに反します。この方法は、あくまで気持ち程度だけということになります。

メシールのプレーを見ていると、バックハンドでは上体を少し前掲してボールを打つことがあります。特に、後ろ(背中の側からネット方向に)からメシールのバックハンドを見ると、インパクトの瞬間に背中の線がきれいに傾くのでわかりやすいです。これは、上体が前傾していることと同時に、背中の線がまっすぐに伸びていることを示しています。上体は、前傾はしても、軸を曲げてはいけません。(それでは、背筋力を使うことができません。)背中の軸をしっかりと伸ばすのは、メシールのストローク(フォアハンド・バックハンド)の基本です。

打点が腰よりも高い時は背中は傾きません。打点が高いので、傾けることができません。前傾があるのは、インパクトが腰より低い(たとえば膝の高さ)場合です。ビデオを見れば、ラケットがきれいに下から上に振りあがるのがわかると思います。さらに低い球では、メシールはしっかりとひざを曲げて、腰を落としてボールを打ちます。相手のボールが深い場合(ショートバウンドまたはライジングでボールをヒットする場合)は、逆に、しっかりとひざを落として上体を立てて打ちます。

フォアハンドでは、このような状態を少し倒す様子は見られません。実は、一つだけ、必ず少し前掲するフォアハンドがあります。球出しの場合です。オンコートで確かめるとわかりますが、上体をしっかり起こして球出しをするのは、案外、コントロールがしにくいものです。これは、体の中心線(軸)とラケットの軌道(下から上)がほぼ平行になるからだと思います。体をほんの少し倒すと、ラケットを下から上に振りやすい。これは、バックハンドで上体をやや倒すと下から上へのスイングが容易になるのと同じ理由です。

(補足) メシールの試合を見ていると、左側に振られている場合、つまり、バックハンドを打つのがコートのかなり左端の場合には、”通常の”右足を大きく踏み込んで、ネットに背中を見せるうち方でバックハンドストロークを打っています。この場合に、腰の回転をどのぐらい使っているのか、逆に言うと左膝の送りと背筋をどのぐらい使っているのか、もう少し、詳しく調べてみようと思います。

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